2024.07.28──貝柱

 焼き蛤を開いたところ、貝殻の間から霊魂プラズマのようなものが飛び出し、町の方へ飛んでいってしまった。

 近くの神社の宮司が駆け寄り、俺の頭をお祓い棒で引っ叩く。

「こりゃっ、なんてことを! あの蛤は本年の浜神様の憑代だったのじゃ!」

 慌てて俺達は町に繰り出し、飛んでいった霊魂の行く先を探した。道路におもちゃを広げて遊んでいる子供達が頻りに空を気にしているので、話を聞くと、霊魂らしきものが飛んでいくのを見ていたそうだ。その子らが指差す方角を見ると、この町で一番高い網芝商事ビルの屋上辺りに、青白い光が確認できた。

 さっそく網芝商事ビルに向かったものの、ビルの上階に行くには事前のアポが必要だと、受付に跳ね除けられてしまう。そこで一緒に付いてきた宮司が「ここの社長とわしは竹馬の友じゃ。直接話をすれば分かってくれるから、呼び出してくれ」と受付に頼んだ。

 受付の人が内線掛けている隙に、宮司が俺に目配せした。今の内にビルを登れと言っている。俺は受付にバレないようにその場を抜け出し、普段は荷物の搬送に使用している、業務用エレベーターに乗り込むことに成功した。屋上のボタンを押し、エレベーターは高速で上昇していく。

 ついに屋上に到着した俺は、そこでフヨフヨと浮いている霊魂と対峙する。少しでも近づけば、霊魂はまたどこかに飛んでいってしまうかもしれない。そうならない内に、俺は懐から大きなホンビノス貝を取り出した。先程通りがかった魚市場から失敬してきた、まだ生きている新鮮な個体だ。

「浜神様、浜神様、どうか御身をここに宿らせたまへ」

 俺が宮司に教えられた祝詞を唱えると、霊魂はたちまちホンビノス貝の中に吸い込まれていった。霊魂を宿したホンビノス貝は、神々しい青い輝きを放った。

 その後ホンビノス貝は浜神神社に無事に奉納され、俺と宮司は不法侵入と窃盗の罪でしばらく豚箱送りとなった。

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