2024.04.26──縛りライフ
例えば、一緒に暮らす家族もなく、親しい友人もなく、勤めている会社もないが、暮らしには困っていない人間が居たとする。
己を縛るものがないこいつは自由で強い存在に見えるかもだが、実際は、日々の生活の中に目標を見付け難く、さらに全ての責任は己にかかってくるため、思いきった考えは持てても、それに力を尽くすには尻込みすることが多い。
人は縛られることで自由を失う代わりに、その不自由さの中で力強く生きれる、というのが私のモットーだ。家庭に縛られれば家族の為に力を尽くそうと思うし、交友関係に縛られれば友達に、職場に縛られれば仕事に集中して力を向けられるのだ。
だから私は、普段から意識的に己を縛るようにしている。
一日の行動時間を縛ることで、早寝早起きの習慣が身に付き、無駄な仕事やサボり行動を減らすことが出来た。
食事に摂取制限を設けることで、余分な間食や偏った食べ方をやめ、本当に必要な栄養をバランスよく取ることが出来た。
ちょっとしたものを縛るだけで、日常生活がこれだけ力強く、スマートな形にすることが出来た。ということは、もっと大きく、重要なものを縛れば、さらに力強く生きることが出来るのでは……?
私は両腕を使うのを縛ってみることにした。腕が使えなくなった分を、口や足など他の部位で補う必要が出てくるため、自ずとその部位は普段よりも力強く使えるわけだ。最初の一週間こそまともに生活出来なかったが、慣れてくると足をまるで手先のように器用に扱うことが出来るようになってきた。
今度は両足を縛ってみた。逆に腕を解放する。足が使えないから当然歩くことも出来ない。この状況での移動方法を、私は丸三日掛けてついに編み出した。両腕と腹筋を使った独自の力強い移動法だ。これで私の人生はさらに力強く彩られたわけだ。
こうなると、もう究極的に縛っていくしかない。両腕と両足、これらを同時に縛れば、私はどれだけ力強く生きることが出来るだろう……? ああ、明日からの生活が楽しみだ! 今度の縛りも私の人生に大きな意味を与えてくれることだろう!
まさか頭を心配されて病院に連れてかれるとは思わなんだ。こういう暴走を止めてくれることも、家庭に縛られることのメリットである。
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