2024.01.30──推定肯定大前提
「いや博士……だけどそれはありえませんよ」
助手の村松くんが青い顔をしながら言った。時刻は日付を跨いだばかりで、私も彼も飲まず食わずで作業をしている。しかし彼の顔が青いのはそれだけが理由ではないだろう。
「第一、仮にそれ程の巨体の生き物が存在したとして……地球上で生きていけるわけないじゃないですか……地上はもちろん海中にだって……!」
「だが、現にこうしてモノは上がっている。測定結果にだって間違いはない。キミだってもう何十回も確認しただろう?」
村松くんは押し黙った。私の言葉に納得したというわけではなく、己が直面している科学的事実を信じることができず、絶望しているのだろう。
立場上平静を装ってはいるが、それは私も同じだ。私の率いる発掘チームが見つけたこの世紀の大発見を、果たして公にするべきなのか答えが出せない。
私と村松くんは大学内の体育館に居る。深夜の体育館を何個もの照明が白く激しく照らしている。それによって生じた私と村松くんの黒く長い影が、目の前に置かれているモノに被さる。
そこにあるのは、傍目に見れば一枚の大きな黒い石の板だ。体育館の床面積のほとんどが、この一枚の板が埋めている。
そして、数ヵ月に上る調査の末、私はこの板の正体に結論を付けた。
これは、太古のある生物の一本の歯の化石だ。
付け加えると、これはその歯の本の一部に過ぎない。
そして、現存するその生物の化石の歯と比較して導かれた、この歯の持ち主の全長は…………おおよそ3万キロメートル。
私達の住むこの地球よりも巨大な生物が、かつて地球に住んでいたことを証明するものが、今、私と村松くんの目の前にある。
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