2024.01.13──林の井戸

 あれは私が小学生の頃でした。

 私のクラスメイト……仮に大炎寺元気としましょうか。元気くんはクラスで一番明るい性格であり、自分に怖い物は無いんだといつも自慢げに話しておりました。

 だけど学校の裏の雑木林の奥にある古井戸を見たら、お前もきっと怖がって逃げ出しちゃうよ、とクラスメイトの一人が元気くんに言いました。元気くんはすかさず、そんなものが怖いものか。もしそこでオバケに会ったとしても、相棒のサンライズフェザーと一緒に懲らしめてやるぞ、と堂々と言い返しました。

 そこまで言うのなら実際に古井戸に行ってもらおうじゃないかとなり、その日の放課後、暗くなってから元気くんが雑木林で肝試しをすることになりました。

 肝試しのルールは、元気くんが旗を持って雑木林の奥に向かい、古井戸のある開けた場所へ着いたらその旗を立てて戻ってくる、という簡単なものでした。

 そして放課後になり、元気くんと他クラスメイト数人が雑木林の前に集まりました。この中には私もおりました。

 それじゃあ行ってくるぞ、と元気くんはいつものように明るい声を出し、改造ミニカーサンライズフェザーをいつものように握り締めると、駆け足で雑木林の中に消えていきました。

 旗を立てられるかな。まさか、いくら元気でもビビッて泣きながら戻ってくるさ。集まったクラスメイト達がそんなことをひそひそ話していた時です。

 その「音」が聴こえてきました。


 れつ……れつ……。


 それは遠くから聴こえてきましたが、力強い、何かしらの存在を感じさせる音でした。

 音はクラスメイト全員が耳にし、私達に動揺が走りました。

 動揺はやがてパニックへと変わり、一人、また一人とその場を走って逃げていきました。オバケが出た、オバケが出たぞと叫びながら。

 私以外の全員がその場から居なくなっても、私はまだそこに残り続けておりました。肝が据わっていたわけではありませんが、雑木林の奥に行ったきりの元気くんが心配だったのです。


 れつ……れつ、れつ。


 またあの音が聴こえてきました。さっきよりも鮮明で、さらに力強い音でした。

 その後、私は確かに聴いたのです。その音の正体を。


 れつ……れつ! レッツゴーフェザードリフト!!


 音の正体は元気くんの声でした。そしてそれが聴こえてすぐ、雑木林の奥から何かが爆発するような轟音が聴こえてきました。私にはもう、元気くんを心配できる余裕はありませんでした。すぐに踵を返し、他のクラスメイト達と同じようにその場から逃げていきました。


 今となっても、あの日雑木林で何が起きていたのか、それは謎のままです。

 分かっていることは、翌日元気くんが学校に登校してきたが、身体は傷だらけだったこと。

 元気くんに事情を聞いても、はぐらかすばかりで何も教えてくれなかったこと。

 そして元気くんが、ギア帝国め。ついにここまで。といったことを、うわ言のように呟いていた、それだけです。

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