2024.01.02──晴天とビニール傘

 釣橋音梦麻は炎天下の中を一人歩く。

 コンビニか何か、涼める場所は無いかと充血した目をギョロッ、ギョロッと動かしていると、道の端に妙なものを見付けた。

【かさや】とかかれたそれは、市の祭りなどに立てられる小さな屋台のようなもので、店名?の通り傘が売ってあった。それが日傘ならいくらかマシだったのだが、売られているのは何故か全て透明のビニール傘だ。

「なんでこんな炎天下にビニール傘なんて売ってるんだい」

 音梦麻がそう訪ねると、店の主人らしき男が答えた。ひどく老いていて、身体に来ている衣服はボロボロだ。

「旦那。今はこのようにピーカン照りでも、雨が振る日ってのはいずれ訪れるんですぜ。だったらその日を備えて、いつ傘を売ろうが問題ないでしょ」

 音梦麻は男の言うことも尤もだと思い、ビニール傘を一本購入した。二千円だ。

 空は今も快晴で、コンビニは未だ遠い。

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