ゴブリン使いとさげすまれた令嬢が、王国に復讐する話

山田 勝

ゴブリン使いとさげすまれた令嬢が、王国に復讐する話

「高い。高~~い」

「ギャ、ギャ、ギャ!」(もっと、やって!)

「ギィ、ギィ!」(次、僕!)


 あの女は、いつも、仕事が終わったゴブリンを、幼子をあやすように、高い高いをしていた。

 我は、いつも、あきれて見ていたものだ。

 ゴブリンは、臭い。汚い。残虐、魔王軍の先兵だ。


 しかし、サリアのクシャーニア家は、どういう理由か、ゴブリンどもを手懐けている。


 業腹だが、王家では取り決めがある。クシャーニア侯爵家と、3代開けて、婚姻を結ぶ。第三王子であるこのロメリオが婿に入ることになった。

 王家の婚約者はクシャーニア家まで出向き。お茶会をする。ゴブリンと交流を深めるだと!


「さあ、ロメリオ殿下も高い。高いで、和ませてあげて下さい」

「やるか!」

「殿下・・・」

「ギャ、ギャギャ?」(お腹痛いの?)


 ・・・・


 しかし、貴族学園では別だ。あの女の顔は見なくてすむ。校舎は分かれる。

 あの女、生意気に、上級クラスだ。


「あ~、おかわいそうな。殿下、ゴブリン使いとの婚姻など」

「フフフ、メロディ、有難う」


 あの女、上級クラスでは、イジメにあっている。


「まあ~、臭いですわ。窓を開けて、どなたかゴブリンのような匂いですわ」

「全く、はばかりの匂いがするぞ」

「「「プ~クスクス」」」


 いつも、黙っていた。


 クシャーニア家の家業は、ゴブリンを使い。汚物の処理、道の清掃をする。特に、この国では下水が完備されていない。

 ゴブリンたちは、クシャーニア家の一族とともに、汚物の処理を請け負う。

 王都はサリア一家、中小都市は、分家だ。


 領地なしだが、肥料を作り。村に配り。収入を得る。王国全体なので、収入は侯爵家に匹敵する。だから、侯爵家扱いだ。


 学園祭の時期が来た。目玉は、演劇だ。王都広場で、陛下も、市民とともに観劇をする。

 かつて、この大陸は魔王軍に制圧されていた。

 勇者と聖女が立ち上がり。魔族を北方に追いやった歴史があった。

 それを演劇で再現をする。


「え、私にゴブリンマスターの役をやれと?」


「そうだ。魔王軍を撃滅する勇者と聖女の話だ」


「・・・それは」

「頼む。迫力を増したいのだ!」


 手を握って頼んだら、顔を赤らめ。快く承諾しやがった。


「分かりました。でも、決して、ゴブリンちゃんたちを傷つけないこと。ただ、登場させるだけです」


「分かったぞ」


 当日、わざと、醜悪なメイクをサリアに施し、ゴブリンたちには、羽で出来た棍棒を持たす。


「え、え、これは」

「動かないで下さいませ!ゴブリンのようにちょこまかと動かないで下さい」


 メイクを担当する低位のメイドたちにどやされる始末。


 劇は、当然のごとく、メロディが聖女、勇者がロメリオだ。

 劇では、

 ゴブリンを蹴飛ばし、投げ。

 ゴブリンたちは、右往左往する。


 魔王軍幹部役のサリアは、止めるが。


 王子は、木刀で、本気で殴った。


「ウグッ」


「見ろ!魔王軍は取るに足らず。ここは、女神様の祝福を受けた地だ。魔王軍の残滓はいらない!」


【ウワワワワーーーー】


 熱狂が伝播し、暴動が起きた。


「女神様の地にゴブリンは不要!駆逐せよ!」

「「「「オオオオオオーーーー」」」


 各都市のクシャーニア家は襲われ、ここ発信源の王都は、特に酷かった。


「ヒィ、お父様!お母様!お兄様!ルル」


 サリアの前に、家族とメイドのクビが置かれる。


「ゴブリンどもは、森に隠れました。全滅は出来ませんでした」


「ヒドイ、どうして」


 侯爵家の財産は没収。

 王国は、魔王軍の残滓を払拭し、これで、平和になったと思われた。


「サリアは、魔族領に追放!魔王軍にくわえてもらえ。アハハハハハ」


 これが、仇になるとは、思いもしなかった。


 数週間も経たつと、王国に異変が生じる。


 バシャン!


「おい、コラ、汚物を窓からすてるな!臭いぞ!」


 高層アパートに住む住人は、オマルの中身を、道に投げるようになった。

 汚物を捨てる際、三回放るぞ!と言わなくてはいけない。との布告が出る始末。


「冒険者ギルドに依頼だ」

「陛下、誰もやりたがりません。もっと、手間賃をあげないと、誰もやりたがりません」


「農民たちから、苦情が、肥料が、届かなくなりました。肥料は高騰、土魔法士や、聖女様を呼ばなければなりません。今までは、不要だったので、伝手がありません。どなたも、他の国で仕事があるので、引き抜くのは困難です」


「あんなの、汚物を畑にまけばいいのではないのか?やれ!」


 やがて、正しく肥を作らなかったので、作物は育たず。国は怨嗟の声が巻き上がる。


 王は決断した。騎士に、クシャーニア家の仕事をやらせようとしたが、騎士はいやがり。ボイコットした。


 高い金を出し。土魔法士を呼ぶので国庫は火の車だ。

 騎士の給金を下げなければならなかった。士気は異様に下がる。


 クシャーニア家の重要性を、歴代の王は認識していた。国には、下層民が必要だ。

 汚れ仕事を任せるので、その労をねぎらい。重要性を忘れないために、王家との婚姻が取り決められていた。


 時がたつにつれ、ロメリオの代では完全に忘れ去られていた。



 ☆サリア、追放直後


「ゴブリンちゃんたち。生きていたのね」

「ギィ、ギィ、ギィ!」(生き残ったのはこれだけ)


 わすが、7体のゴブリンと森で落ち合った。


 ここは、魔族領の森、すぐに、魔王軍のゴブリンに補足された。サリアのゴブリンと違って、悪意そのものが顔に出ている。手には、棍棒や弓、槍を携行している。


「ギィ、ギ、ギ!」(この人ダメ!)


 サリアのゴブリンたちは、身を挺して、サリアを守るが・・・


「ヒィ、皆、逃げて!」

 魔王軍のゴブリンたちは、平伏した。


「え、何?殺さないの」


 魔王軍の宿営地に丁重に連れて行かれ、そこで、初めて、サリアのゴブリンが、ゴブリンではないと分かった。


 骸骨の魔王軍軍師は言う。

「これは・・・楽園の住人、全くの善意しかない。祖先様だ。魔族と人族は、ここから、分かれて、各種に分派したとなっているが、詳しいことはわからぬのじゃ。ワシも千年生きているが、見たのは初めてじゃ」


 サリアは、ここで、賓客の待遇を受け。

 特に、ゴブリンたちから、尊敬の念を受ける。


 そして、


 ☆


「魔王軍が攻めて来ました!」


 都市は次々に陥落、防衛ラインがズタズタだったので、王都はあっけなく陥落した。


 あの醜悪なメイクを施したサリアがやってきた。


 今、我は牢にいる。

 メロディと貴族学園の生徒たちは、生かされ、汚物の処理をやらされている。

 王都にたまった糞尿と、人族の死体の処理だ。

 メロディは、泣きながら、殿下に騙されたと言っていると、わざと、水晶記録を撮り。我に見せる嫌がらせを受けた。


「ロメリオ、来い」

「「「ギィ、ギィ、ギィ」」」


 我は、王城広間につれて来られた。舞台が作られている。あの劇の時と同じだ。いや、絞首台がある。我は絞首刑か?

 学園の生徒たちとあのメイクを施したメイドもいる。皆、震えている。


 メロディと貴族学園の生徒たちとメイドたちは、綿で出来た剣を持たされた。


「さあ、劇をやるわ。お前たち。このロメリオ以外はやっつけるのよ。よい子には高い高いしてあげます」


「ロメリオ殿下、譲るから、助けて、あたし、騙されていただけなのよ。戦いなんてしたことないわ。そうだ。宝石あげる。隠しているのよ・・・ギャ!」


「いらないわ」


 魔王軍のゴブリンが、壇上で、生徒たちを、棍棒で殴り始めた。


 バシ!ギシ!


「ヒィ、やめて!」

「助けて!」


 メロディは倒れ。やがて、他の生徒も、起きあげることはなくなった。


「次は、ロメリオね。あれ、持って来て」


 恭しく、お盆に載せられ運ばれてくる。ロメリオの目の前で、蓋をあけると、



「え、父上、母上、兄上!姉上!」


 クビを見せられた。



 醜悪なメイクをしたサリアは、観覧席の一番前に、7人のゴブリンたちと見ている。


「ギィ、ギィ、ギィ」(あの人に何をするの?)


「高い。高いよ」


「ギ、ギ、ギ」(いいな。僕も)


「ダメよ。これは、イケない高い。高いなの。手伝ってくれたら、私が、後でいっぱいしてあげるからね」


「「「「ギィ、ギィ、ギギギ」」」」(やったーーー)


「ヒィ、何をするのだ!」


「殿下、高い、高いです」


 サリアは我の首に縄を掛けた。


「頑張れ!」


「「「ギィ、ギィ、ギィ」」」(うんしょ、うんしょ)))


 わざと、非力なゴブリンに綱を引かせ。一時間苦しみ。やがて、絶命した。


「フフフ、高い、高~~~い」


 彼女の声が響く。


 やがて、人族軍が来ると、何の未練もなく撤退した。


 その地は、枯れ果て、どの国も欲しがらなかった。


 以後、サリアが存命中は、魔王軍のゴブリン隊は、統制がとれ。人族軍は、思わぬ苦戦を強いられることになる。

 永く、魔王は討ち取られることはなかったと伝えられている。


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