第十三話 それぞれの戦い

 幸いノアたちが同じ闘技場で戦うことは無かった。

 トーナメントで会おう、そう約束して各々の闘技場へ。


 試合開始の合図とともに、どの闘技場からも溢れんばかりの歓声が沸き上がりそれが試合の終わりまで止むことはなかった。


『さあ、始まりました! シーバーさんは注目の選手とかいますか?』

『やはり、フィクスだな。そして英雄組に弟子もいる。彼らに注目したいところだな』

『ありがとうございます! 俺は個人的には女性陣に頑張ってもらいたいぜ! 特に未知数なステラには頑張ってほしい所だ!』


 中央闘技場に浮かぶ12枚のスクリーン。

 その一枚からすさまじい歓声が起こる。


『おおっと! 第三闘技場で動きがあったようだぞ!』


 第三闘技場のスクリーンが拡大される。


 そこには冒険者たちが山のように積み重なりその上には一人の男が座っている。

 

「今の風……80点」

 

 スルヨは声を失う。

 実況者あるまじき無言の時間。


『か、開始約一分で決着……!トーナメント出場をいち早く決めたのはヴィントだぁ!』

『ふむう。これほどのものがいたとは……』


 シーバーが伸び放題な自分の顎髭を撫でながら、スクリーンを凝視する。


『さ、さあ気を取り直して他の闘技場も見ていきましょう!』

 

 第七闘技場のスクリーンが拡大される。


 そこには桃色の髪をした女性が集中砲火を受けていた。

 それは、当然起こりうる現象。


 英雄潰し。


「ちょ! あぶ! ねえ! ずるくない!?」


 エニがぴょんぴょん跳ねながら器用に逃げている。

 下手に魔法を使って防ぐと、魔力量の低いエニはすぐに疲れてしまうためこうして逃げているわけだが、そうも言ってられない。


「強い奴は最初に潰される。当然だよなぁ!」


 その場にいる全員がエニに向かって魔法を撃っているため、誰が声を上げたのかまるでわからないが、エニはその誰かに向かって叫ぶ。


「そんなの習ったことない!」


(って言っても、どうしようかな~)


 エニに複数人による、数多の属性の魔法が降り注ぐ。

 相手も子供ではない、当たれば当然かすり傷じゃ済まない。


「英雄取ったぜぇぇ!」

 

(考えてる暇はないか~)


 エニはここで初めて魔法を唱える。

 

「グロウアップ! ブリングの大樹!」


 一年前、ドラゴンの魔法を受け止めた時よりもはるかに大きくなった大樹が向かってくる魔法を全て防ぎきる。

 

「はあ!? あれを受け止めるのかよ……野郎ども! もう1回タイミング合わせて絶対に当てるぞ!」


「そんな暇ないよ~」

 

 二流の魔法使いが考えるのはどうすれば攻撃が当たるか。


「森の嵐!」


 一流の魔法使いが考えるのはどうすれば避ける気が失せるかである。

 


 大樹の葉が、枝が闘技場内を駆け巡り、一人また一人と薙ぎ払う。

 

「くっそがぁぁ!!」


 

『決まったぁぁ! 第七闘技場を制したのは英雄が一人[森の魔女]エニ・クラシスだぁぁ!』

『流石は英雄組の一人だね。あんなすさまじい魔法私でも防ぎきれないね』


「はあ、はあ。結局誰がしゃべってたかわかんなかったな~」


 トーナメント出場を決めたエニは、闘技場に座り込み、スクリーンを見上げる。


「トリ君とか生き残ってるかな~。あ、ジョー君勝った」



『第二闘技場も決着ぅ! まさに一網打尽! トーナメント出場を決めたのはこれまた英雄が一人[千の手]ジョー・ベルウッドだぁ!』

『流石はフィクスの弟子だ。圧倒的だったな』

 

「他はどうなってますかね? ……ほら、やっぱりエニさん勝ってるじゃないですか」


 ジョーは他のスクリーンに目をやる。

 スクリーンに映し出されているのは第十一闘技場。

 その画面が真っ黒になった。


『な、なんだぁ!? 第十一闘技場でいったい何が起きてるんだぁ!?』

『何もみえんな』


 スクリーンに光が戻る。

 闘技場の中央、夜のローブを着ている女性が一人だけ立っている。


「星が夜しかいないのなら、私が夜をつくり出そう。星ってすごい力があるんだよ?未来とか占えちゃったり……ね?」

 


『け、決着ぅ! いったい何が起こったんだ!? 気付けば立っているのは謎の占い師ステラ・セイルズだぁ!』

『いったいどんな魔法を使ったんだろうか?』


 そして、ほかの闘技場でも大きな歓声が上がる。


『おっと! 第十一闘技場を注目してる間に他の闘技場でもトーナメント出場を決めたやつが出てきたぞ!』

『やはりフィクスは勝ち上がってきたか』

 

 フィクスは服についた砂埃を掃いながら、第一闘技場のスクリーンを見る。


「少々手こずりました。ギルド職員がこんなにも同じ闘技場とはついてませんね。セリクは生き残ってますかね?ああ、大丈夫そうですね」



『第一闘技場も決着だぁ! トーナメント出場を決めたのは! 冒険者ギルドサブマスター、セリクだぁ!』


 セリクはどっこらしょと地面に座り込む。


「いやぁ意外と勝てるもんだなぁ。うわっ、団長様、盾捨ててるじゃねえか」


 セリクはスクリーンを見上げ、ケタケタ笑う。


 第五闘技場。

 そこには一輪の花。

 数多の攻撃を防いだ盾はすでに投げ捨てられ、小ぶりな斧を体の一部のように振り回す。

 その姿はまるで舞台上を優雅に舞う踊り子。出場者の悲鳴を歌に。


「ああ、またやってしまった……戦うとき盾を捨てる癖をやめなければ……」


『【ガーデン】の団長リーリエもトーナメント出場を決めたぞぉ!』

『見惚れるほどの鮮やかな動きだった』


 第十二闘技場では一筋の光が駆け抜ける。


「シャインメイク。光輝の剣!」


 ノアは光の剣を振り回す。

 天を切り裂く光と共に歓声が沸き上がる。


『英雄を率いて世界を救った[みんなの大将]ノアもトーナメント出場を決めたぞぉ!』

『さすがは、かの平和の象徴の弟だ。今の戦いにかつての彼を見た』

 

 なんか俺の二つ名ちょっとダサくね?

 別に悪い意味じゃないからいいけど……。

 

「おっエニとジョーも勝ってるな。あとは鶏肉か」


 どうせ鶏肉は勝つだろうけど。


 ノアはそんなことを思いながらスクリーンを見上げる。

 そこに映っているのは闘技場の地面が凍り付いている異様な場面だ。

 

「氷柱雲」


 第四闘技場の上空に雲ができ、雨が降る。

 いや、これは雨ではない。

 まるで光線かのように雲から放たれるは巨大な氷柱。

 足を凍らされ身動きがとれない者に避ける術なし。


『まさに圧勝! 第四闘技場を制したのはアイシーだぁ!』

『背筋が凍りそうな素晴らしい魔法だった』


 


「たかが傭兵だろ!? 冒険者なめんなよ!」


 冒険者は熊の口のマスクをした大男に魔法で作られた大剣を振りかぶる。

 そして、攻撃を仕掛けた冒険者の視界がズルっと下にズレる。

 冒険者はそのまま床に膝をつく。


(!?……なんだ?体が重い……)


 ミシミシと冒険者の体が悲鳴を上げる。


「……頭が高い」


 熊の口のマスクをした男、グレイブはゆっくり目を瞑る。

 闘技場の石畳が割れ、ほかの出場者もろとも地面に叩きつけられる。


『決着ぅ! さすがは重力を操る魔法使いだぜ!指一本動かさずに勝負を決めたぁ! グライブ・ナイル、トーナメント出場決定だぁ!』

 


「はぁ!」


 カオエンの周りに大きな黒い球体が浮かぶ。

 その球体は不規則に動き他の出場者たちを弾き飛ばしていく。


「くそ! 球の相手をしてる場合じゃねえ! 野郎どもタイミング合わせて本体を叩くぞ!」


 カオエンに数多の魔法が放たれる。

 それを脅威とも思わず、カオエンは口が裂けるほどの大きな笑みを浮かべる。

 球体が一個生成され、そこに大きな口が出現する。

 そうして開かれた口が向かってくる魔法全てを喰らった。


「お返しね」


 魔法を喰らった球体とは別の球体にも口が現れる。

 他の出場者たちは自分たちが放った魔法にやられることとなる。


 相手の魔法を返すメリットは、実は驚くほどに少ない。

 効果は薄いくせに、相手よりはるかに高い技量が求められる。

 それを知り――あえてやる事により自分との差を見せつける。


『【喰魔】のリーダー、カオエンもトーナメント出場を決めたぞぉ!』

『彼の魔法はほんと異質だよね』


「あちゃあ仲間たちは負けちゃったかぁ」

 

 カオエンは自分の坊主頭を撫でながら、いまだ戦ってる熱い漢が映ってるスクリーンに目を向ける。


 こちらも英雄潰しの被害を受けている。

 

「コイツ……魔力切れとかねえのかよ……!」

「大丈夫だ! アイツだって魔力が無限なわけがねえ!」

 

 

「最近知ったんだが、俺はちょっと特殊な体質でな、ちょっとやそっとじゃ魔力なんて切れやしない」


「でも、火の玉を飛ばすだけだろ! そんなんで英雄? 他のメンバーのおこぼれもらっただけだろ!?」


 

「「「あちゃー」」」


 ノアたち英雄組は天を仰ぐ、ああ、喧嘩を売った出場者よどうか安らかに。

 

 闘技場の温度が上昇する。

 鶏肉の周りには数えきれないほどの火の玉が生成される。


「はっ直線にしか飛んでこない火の玉なんて何個あろうと見切ってやらあ」


 鶏肉は魔法を唱える。


「ファイアーボール・ソルダート」


 自動追尾式ファイアーボール。

 この一年で鶏肉が編み出した技だ。

 この魔法を応用して雪玉を追尾させることに成功し、ジョーに雪合戦を挑み敗北した過去があるが、そのころとは数が違う。質が違う。


 火の玉のそのすべてが意思を持ち他の出場者に襲い掛かる。


『決着ぅ! トーナメント最後の出場者は英雄が一人【ファイアードミニオン】トリフィム・グランバトンだぁぁ!!』

『英雄たる所以見せてもらった』


 鶏肉は自慢のピンと立った襟を正す。


「俺に負けてるようじゃ、ドラゴンに、ましてや俺の仲間にすら勝てやしないぞ」


 やっぱり自己肯定感少し低いのは変わらないなとノアたち英雄は思う。

 英雄の中で対人戦が一番強いのは誰あろう鶏肉である。


 鶏肉の二つ名かっこいいな。


『さあ! 全員出揃ったぞ! そして明日! ここ中央闘技場で最強を決めるトーナメントを行うぞぉぉ!』

『楽しみだ』


『中央闘技場に来られない方も安心してくれ!! 今日と同じように他の闘技場とも中継をつなげるから今日と同じ場所にいてくれれば大丈夫だ!』

『今日は素晴らしいものを見せてもらった。明日も期待している』

『それでは皆さん! また明日お会いしましょう!』

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