最強を殺したドラゴンを倒したいと思います
加加阿 葵
序章
プロローグ 兄が死んだ
何時から在るのか。何時からいるのか。何時までいるのか。
死神に忘れられた竜がいた。
悠久の時を生き、無尽蔵の魔力を有する竜。
その竜の前に人間が一人。
――望みは何だ?
竜の問いに人間は答えた。ただ一言。
ここフラグリア大陸には魔法というものが存在する。
魔法がこの大陸で発見されたのは遥か昔人間の起源まで遡る。
そこで発見された魔法が現代まで使われているのだが、昔から魔法はこういうものだという固定観念が人間の思考を止めてしまったため、魔法といっても攻撃性が高いものや複雑な魔法は普及しておらず日常生活が少し楽になる程度の魔法しか人々は使えなかった。
事の始まりは小さな虫だった。
大陸各地に虫が湧いた。殺せど霧散して死体すら残らないそんな虫が。
魔物の出現である。
出現理由も、なぜ人を襲うのかも、一切が不明。
ある人はこう言った。
戦争ばかりの人間の行く末を憂いた神は、人の力の矛先が人や国から魔物に移るように、神の力で魔物を作り出してるんだ。もう2度と戦争なんて無益なことをしないためにと。
魔物の出現前までは大陸のあちこちで戦争が起き、その結果として死傷者、難民、孤児、環境への悪影響、文化的損失が生じた。
しかし、魔物に襲われるようになってから戦争が起こることは無くなり、国同士協力して魔物へ抗いましょうと和平交渉を結んだ国もある。
大陸中に虫が出現するようになったのと時同じくして、国々に魔法研究所と冒険者ギルドが設立された。
魔法研究所はその名の通り、魔物に対抗するための魔法の研究を主に行い、今まで日常生活が楽になる程度だった魔法をより強力に、より複雑にしていった。
その反面魔法使用に際し規制は厳しいものとなった。それもそのはず、他愛のない喧嘩にすら攻撃性の高い魔法を持ち込むようになっては手が付けられなくなってしまう。
冒険者ギルドとは、治安維持組織のようなものだ。
魔物の討伐はもちろん、魔物についての調査、商人や旅人の護衛などが主な仕事だ。
魔法の発展に伴いそれを利用して悪行や非行に走る輩も当然現れるようになり、それらの対応も冒険者の仕事の一つだ。
しかし、魔物の強さも一定ではない。まるで人間の成長に合わせて一緒に成長しているかのように時が経つにつれ狂暴になっていき、冒険者の負担も大きいものとなっていった。
「ノア、仕事に行ってくるな」
野太い声で声をかけてくるのが、グラリス・アルファリス。
ノアの兄だ。
兄といっても血がつながっているわけでは無く、子供のころ捨てられていたノアをグラリスが拾い、ここまで男手一つで育ててきた。
なぜノアを拾ったのかグラリス本人しかわからないが、グラリスは戦争孤児で町はずれに暮らしていた老夫婦に拾われている。おそらくノアを自分と重ねたのだろう。
今はその老夫婦が暮らしてた家にノアと二人で暮らしている。
「俺も一緒に行こうか?」
「いいや大丈夫だ。今回は少し大事な任務なんだ、今日の夜には戻る。ノアは魔法の鍛錬でもしてろ」
そう言って、グラリスは前かがみになりながら玄関を出る。身長がデカ過ぎるのだ。
この時、無理やりでも一緒についていけば。
この時、腕を引いてでも止めていれば。
あるいは、違う未来があったかもしれない。
大陸中央北部に位置し、北には霊峰ラコンがそびえたち神のお膝元と呼ばれ、大陸一の大国フリードに冒険者ギルドが設立されて10年。
冒険者という職業の火付け役となったのがグラリスだ。つまり、グラリスは冒険者歴10年の大ベテランだ。
身体能力を向上させる魔法を駆使して、屈強な男が2人でやっと持ち上げられるような斧を片手で軽く振り回し魔物と戦うさまは、分かりやすく皆のあこがれとなり冒険者人口が増えた。ついでに斧使いも増えた。
どんな困難な依頼でも1人ですべてこなし、依頼達成率100%を誇り、大陸全土から認められ最強の冒険者と呼ばれるまでに至った。
グラリスが最強たる所以は、身体能力強化の魔法だけではない。
魔力の根源とされている『火』『水』『土』『風』『光』『闇』の六つの根源の中でも最も強力と言われている光属性の魔法をも扱えた。
根源を中心とした魔法が研究開発されているが、近年魔法研究所では、「そもそも身体能力強化って魔法があるんだから根源なんて関係なくね?ってか根源ってなんだよ。最初に言い始めたやつは誰だよ」という声が上がり。根源を無視した魔法の研究もおこなうようになったという。かなり難航しているらしいが。
根源を無視した様々な魔法で溢れているこの世界でもグラリスの扱う光属性の魔法は一線を画す。
彼の偉業はとどまるところ知らず、そんな彼を人は崇め、平和の象徴と呼ぶようになった。
その兄が死んだ。
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