第14話
ドアを開けると、そこにはミンティア令嬢が、青い顔をして立っていた。
警戒心を露わにし、こちらに敵意を持った目を注いでいる。
「突然ごめんなさい。どうしても聞きたいことがあって」
ミンティア令嬢の固い表情を和らげようと、頭を下げ、低姿勢で言った。
「貴方がた、指名手配されてますよね。今回の感染の首謀者は、サーラさんだと噂されてます」
ミンティア令嬢の視線は泳いでおり、意味のない手の動きは、挙動不審に見えた。
「それが間違っているのは、誰よりも貴方が知っていますよね」
私は確信を持って言い放った。
「なにを言ってるの?」
ミンティア令嬢の顔色は青ざめていく。
「チースト科の猿の遺伝子をブースト科の豚に組み換えたのは、貴方ですよね?貴方が、父親の研究材料を盗み、遺伝子操作した猿にウイルスを感染させた」
私は、熱で視界が朦朧としていたが、頭は不思議なほど冴えている。
「そんなこと、ありません!」
ミンティア令嬢の青ざめた顔色は、白くなっていく。
「全ては、タンジア王子のために、したことですよね?」
ミンティア令嬢の目は丸く開き、慄き震えてくる。
確実に、ミンティア令嬢の仕業であった。いや、タンジア王子に指示され、手を染めただけだろう。
ミンティア令嬢は、固く口を閉じる。会話を拒否しているようだった。
「大勢の死人が出ています。サーラさんも感染しています。早く血清をとり、ワクチンを作らなければ、民はどんどんと死に犯されていきます。本当に、国が滅亡してしまいますよ?」
アニサスは、怒りを抑えた声で、ミンティア令嬢に詰め寄った。
確かに、死人が出過ぎている。
ミンティア令嬢も、街で続々と死体が焼かれていくのを目にして、現実を知ったのだろう。
もはや、手負いの猫のようだった。罪悪感と恐怖感で、押し潰されそうになっている。
「ご、ご、ごめんなさい」
ミンティア令嬢は、気を張っていた糸が切れたように、掠れた声をだして、涙を流し始めた。
「謝ってすむことではないわ!何人死んでると思うの?!」
リーキは、怒りを剥き出しにして、ミンティア令嬢を責めた。
「こんな、こんな、大事になるとは思わなくて」
ミンティア令嬢は、全身を震わせ、両手で顔を覆い、膝をついて泣き崩れた。
「タンジア王子が苦しみから解放されればと思って。それだけしか考えていませんでした。このままでは、本当にこの国は滅亡してしまうと思うと、怖くて仕方ありません」
ミンティア令嬢は、咳を切ったように告白を始めるた。
私は、ミンティア令嬢の気持ちは、痛いほどよくわかった。
私が同じ立場なら、同じことをしてしまったかもしれない。
しかし、何万人もの死者がでている。
許されることではない。
「貴方の昔話を聞くのはたくさんだわ。遺伝子操作をした、ブースト科の豚はどこにいるの?!」
リーキは、目の前の令嬢を冷ややかに見ている。当然の視線だ。同情など、できないのだ。
「タンジア王子に渡しました。きっと、証拠を隠滅させようと、殺してしまったと思います。私、なんてことをしてしまったんでしょう」
ミンティア令嬢は、涙をポロポロと流し、事の重大さに耐えかねていた。
「本当に殺したのかはわからないわ。もしかしたら生きてるかもしれない」
「タンジア王子はどこにいるの!?」
アニサスは、声を張り上げる。もう、崖っぷちにいるような気持ちだ。
「サーラさんを探索するために、ハリファス港に行きました。国に逃亡するのではないかと考えているようです」
ミンティア令嬢は、項垂れて言った。
「いいわ。好都合だわ。ハルファス港にいきましょう!」
タンジア王子と、運命の対決をするのだという予感があった。
「そんな、危険です。あっちは軍隊がいるんですよ?」
「でも、もう行くしかない。もはや、私の命も僅かだわ。行動するしかないのよ!」
高熱が体を蝕んでいくのがわかる。気力でなんとかもっているようなものだ。
あと何日生きられるかわからない。
もう一度、タンジア王子に会って、私の恋を終わらせるのだ。
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