第2話
船旅4日かけて、ハルファスの港に到着すると、真っ先にダリアン王子に会いに行った。
ハルファス城は、港から馬車で1時間ほどだった。御者は、白衣と医療書を持つ私を見て、興味を持って見てくる。
「お嬢さん、医師かい?」
御者は、馬にムチを打ちつけながら話しかけてくる。
「そうよ。カール王国からはるばるやって来たのよ」
私は、これから王子に会えると思うと、心が浮き浮きして、機嫌が良かった。自然と笑顔で答える。
「じゃあ、今流行っている、チースト伝染病を治しにきてくれたのか?」
御者は、目を輝かせて言う。やはり、市民は伝染病に敏感になっている。
「そうね。ワクチン開発を頼まれて来たのよ。やっぱり、かなり広がってるの?」
私は、何気なく聞いてみる。
「空気感染するみたいでさ、感染者と同じ場所にいるだけでうつるみたいでさ。どんどん感染者が多くなって来てるよ。おかげで、この港町も閑散としちゃってよぉ。商売もあがったりだ。。」
御者は、顔を翳らせて話した。生活の不安と、感染の不安に内心では怯えているようだった。
「確かに、前に来たときと比べて、活気がなくなってる」
2年前に来たときは、人と出店に溢れていた。
「これからどうなっちまうのか、、」
御者は肩を落として、細い声で呟く。伝染病にかなり苦しめられているようだった。
(もう、こんな近くまで、病原体がきているなんて)
私は、思ったより深刻な状況を知り、ワクチン開発を急がないといけない焦りを感じてしまう。
ハルファス城に着くと、ダリアン王子は歓迎して迎えてくれる。
ハルファス城は、およそ400年前に建築された歴史ある城だった。外観は洋風でレンガ調のお洒落な造りになっている。
赤いカーペットを進みながら、私は、ダリアン王子が顔を曇らせて話すのを聞く。
「いや、来てもらって早々で申し訳ないのだが、伝染病について、今の状況を話したい。これから研究室に案内する」
ダリアン王子は、心労が溜まっているようだった。以前より、痩せて、顔もやつれたように見える。
「再会を祝してゆっくりお茶でも飲みたいのだが、死者が続出して、切羽詰まっている。すまない」
「いえ、大丈夫。状況が状況だわ」
でも、会ったときの、好奇心溢れる煌めいた目の光や、軽やかで色気のある立ち振る舞いは変わっていない。
王子を前にして、脈が速まり、心臓がばくばくしているのがわかる。
なぜ、ダリアン王子に惚れてしまったのだろう、、。何度も問うた問いは、最後は、好きになってしまったから仕方ない、と終わってしまう。
そう、好きになってしまってら、仕方ないのだ。自分では、どうすることもできず、衝動が走り出す。
ダリアン王子のためなら、鬼にでも蛇にでもなれる。いつの頃からか、そんな気持ちが芽生え始めていた。
「サーラさん、こちらが研究室です」
螺旋階段を下り、地下部屋に通される。広々とした研究室であった。医療書が並べられた本棚、顕微鏡が3台、高そうな高密コンピューターが3台置かれている。
「助手が2名。これからやって来ると思う。好きに使って欲しい。今、時間は大丈夫かな?」
ダリアン王子は、研究室の椅子に座って、溜め息をつく。
「ええ。今回の伝染病について、送られてきた資料は読んでいるわ」
「ああ。チースト伝染病。発症者がでたのは、2カ月前。山に登っていた登山者がチースト科のサルに襲われたのが原因だとわかってる。後に空気感染することがわかり、登山者と接触などした、友人、家族、医療者などに感染し、どんどん感染が広がっている」
ダリアン王子は、厳しい目をして話し出す。
「資料によると、発症すると、40°を超える高熱が何日も続き、下痢や嘔吐も見られ、脱水から電解質異常が発生し、カリウム高値で心不全を起こし、死亡するケースが多いと」
私は、資料などで調べたことを話す。
「そうだ。かなりの高熱に、下痢や嘔吐は止まらない。病院がチースト病の患者で溢れて、救護所を何ヶ所も作っているが、まだまだ足りない。医師も看護師も足りない」
ダリアン王子は、溜め息をつき、私の目をじっと見てくる。
「頼む、早くワクチン開発を。でなければ、ハルファス王国は滅亡だ」
ダリアン王子の目は、光りを失っていないが、かなり疲労の色も見られた。
「わかった。任せて。まずは最初の発症者がでた現地から調べてみる」
私は頷き、ダリアン王子を安心させるために微笑んだ。王子のために、何とかしたいし、何でもしてあげたかった。
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