第16話 “相棒”はキラキラ光る王子様

 戦いの決着がついた後、国王直々の労いがあるということなので王族の観覧席の前に移動し、ドーブルスの後ろでひざまづいた。勿論、両隣ではアッシュとバルナも同じようにしている。

 ちなみにリバルくんも一応連れてきてドーブルスの隣にいるが、意識を失っていてケツを上に突き出してしてもるんもるんと振りながら意識を失っていた。絵面的にも最悪に間が抜けて情けない有様だが本人の意識がないんだし、しょうがないね。


 そういえば中等部や高等部の入学式で訓示をしていたたなあのオッサン、ぐらいの認識しかしてなかったけどあの独特のイントネーションとかは妙に耳に残るんだよなーとまぁそんな事を考えていた。部屋に帰ったらドーブルスとそんな話をしようかな。あのオッサン、とってもフルーツな歌とか歌うわせたら似合うと思うんだよなー。


「圧倒的な敵を前に良く戦った。それでこそ、我が息子よ」


「勿体無いお言葉です、陛下」


 父親と言えど王、完璧な立ち居振る舞いで頭を下げるドーブルス。国王はそんな様子に満足したように頷居た後、にやりと笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「うむ。王子とは、王族とは勝ち続けなければならぬ。……王とは常に強者で在り続けなければならぬ、そうでなければ価値などない。それがお前達に課せられた義務だ」


 おぉ、怖い怖い。王様ってのは好き勝手事言いなさるなぁ。なんとなくだけどその物言いにドーブルスが微妙に納得がいっていないような気がするけど、今は黙っておこう。


「ドーブルスに仕える騎士たちよ、貴様達の働きもまた、見事であった」


 国王の言葉に3人仲良く首肯するようにして礼を返す。それを眺めた後、国王がドーブルスに改めて声をかけていた。


「さて、ドーブルスよ。貴様には褒美を与えねばならぬ。御前試合の勝者には、願いを一つ権利を与えることになっておる。叶えたい望みを言うが良い」


 あ、そうなの?そんな風になってるんだ知らなかった。ドーブルスは何を願うんだろうか、まぁ変な事を言う奴ではないのはわかってるんだけど、と思ったところでリバルくんが意識を取り戻した。


「ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 奇声と共に飛び起きたリバルくんを皆が冷めた目で見ている。周囲を見渡した後、隣のドーブルスに気づいたリバルくんが怒りに震えながら叫び始める。


「き、きしゃまぁ~っ!ドーブルス!!卑怯な手を使ったな、この下種がっ!!俺のゴーレム兵がお前みたいなドブカスに―――」


「―――黙れ。余は弱者に喋る事を許可しておらぬ」


 そんな怒りを込めた威圧と共に吐き捨て、リバルくんの言葉を遮る国王。弱者呼びとは自分の息子にも容赦ねぇな。リバルくんは国王の怒気にあてられ、そのばで腰を抜かしてへたり込んでいる。


「わ、私は弱く等ありませぬ!万全の準備を整え挑んだのにそのドーブルスが卑怯な手を―――」


「愚か者がぁ!戦いに挑むにあたって万全の準備を整えるのは当然の事だ。

 あれだけのゴーレム兵をそろえたこと、それは良い。

 ――だがそれで負けたのは己が無能だという証明にしかならん!!貴様が適切に指揮しゴーレムを運用していればこの体たらくはなかったのではないのか?

 貴様はこの儂の前で醜態をさらしたのだ。廃嫡の覚悟はできているのだろうな。」


 ―――廃嫡。あまりにも仮借のない言葉に、リバルくんも言葉を失い身体を震わせる。


「……だが、最後にゴーレムの残骸を己の力一つでまとめあげた実力は評価してやっても良い。よって、王位継承権を最下位に落とす事に留めおいてやろう。

 リバル……いや、敗者である貴様の名は、今日からヨツンヴァインよ」


 ヨツンヴァインッ……!うわぁ……うわぁぁ……。無価値なゴミでも見るような目でリバルくんを見下ろしつつ、俺が戦いの最中に呟いた言葉、ヨツンヴァインと蔑称で呼ぶ国王。これもうわかんねえな。

 ざわ……ざわ……と王族や観客たちが思わずヨツンヴァインと嘲笑を零している。これならまだ果物の名前で蔑まれる方がましだろうに、哀れな……。しかしこんな容赦のない罰も王だからこそ許されるというのだろうか?正直あんまり好きじゃないな、こういうのって。


「くっ、ぐううっ、寛大なご処置に感謝いだしまずぅぅぅっ」


 しかし廃嫡よりはマシだと思ったのだろうか?屈辱、悔しさ、絶望、悔恨。そういったものがないまぜになりながら涙と共に平伏するリバルくんあらためヨツンヴァイン。まぁ弟の婚約者寝取ったり好き勝手したんだし自業自得といえばそうなんだけど凋落のしかたがエグすぎて哀れだ。


「―――そういえばドーブルスよ。貴様はそこのヨツンヴァインに何か……婚約破棄を何か言われていたのではないか?貴様が望むのであれば戦いの褒美に、そやつを鉱山奴隷に落として構わぬ」


 鉱山奴隷、と聞いて絶望の表情と共にドーブルスを見るヨツンヴァイン。だがドーブルスはそんな視線を気にすることなく、ちらりと俺を振り返ってから何か覚悟を決めた様子を見せた。……なんだ、何をするんだろう。


「畏れながら陛下、此度の勝利で褒美を賜る事が出来るのであれば―――我が妹ヘイゼルの名誉回復をお願い申し上げます」


 そんなドーブルスの言葉に、国王が眉をつり上げた。他の王族たちや観客たちもざわ……ざわ……とざわめいている。何か今日はざわ……ざわ……って書き文字が見えるようだ。

 その願いに、観客席にいたヘイゼルもまた驚き目を見開いていた。ドーブルスは最初から、勝った時はこれを上奏するつもりだったのかな。


「……解せんな。何故そのようなことを願うのだ?そんな事をして貴様に何の得があるというのだ」


「……陛下もご存じのとおり、私は生まれて間もないころに産みの母と死別し、今の母上に引き取られた身です。……勿論ここまで育ててくださった母上を敬愛しております。ですな、庶民上がりの騎士から王妃になった母を持つ私は、他の王子たちの中でも浮いた存在でした。そんな私を兄と呼び、寄り添い支えてくれた妹がヘイゼルなのです」


 ……エーッ、そうなのドーブルス!お前にそんな過去があって知らなかったんじゃが。キラキラの王子様だと思ったのに結構大変な人生送ってきたんだな。そういえば王族と言ってもドーブルスの傍にいる王族ってヘイゼルだけで他の王子たちと顔合わせることなかったのってそういう事なのかとなるほど納得。


 一方で生みの母の死、という言葉に何か思う所があるのだろうか?国王は静かにドーブルスの言葉を聞いている。


「そんなヘイゼルですが、魔力が50しかないということで王位継承権を失い、他の王子や姫たちから誹りを受けています。私には、それが我が事のように、いやそれ以上に辛いのです。王位継承権とまでいいません。今後ヘイゼルが謂れのない誹謗中傷を受けないようにしていただきたく重ねてお願い申し上げます」


 そう言って平伏するドーブルス。……凄いな、お前やっぱり王子様だよ、乙女ゲーとかで主人公できるわ。そういう事を本気でいえる奴って、純粋に尊敬する。

 ……だって俺だけに見えるドーブルスの頭上の『○』が、今のドーブルスの言葉が100%の本心で言っているのを示しているから。だが―――


「……その願いは聞けぬ」


「何故ですか?!」


「ヘイゼルは弱者だ、理由はそれで充分。そしてその評価を覆すつもりはない」


  国王が冷たく言い放つ。弱者ってまたかよこのオッサン!!!!!!!!

 そのロールパンみたいな髪の毛ひっぱってやろうか。……納得がいかない!いかないけど、俺よりもっとずっとドーブルスの方が納得いってなさそうで、平伏したその顔の唇を噛んでいる。……やめとけやめとけ、お前にそんな顔は似合わないんだぜ。


「―――陛下。発言の許可を頂けますでしょうか」


 顔を上げて国王を視ながら問いかける。ってわけでこっから先は俺に任せな!

 俺、口先には結構自身があるんだよ。生前は屁理屈の魔術師なんて言われてたんだからぜっ!!

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