第8話 成り上がりRTA
ヘイゼルに助け舟を出された後、少し外の空気が吸いたいと言ったら王族の住むフロアのバルコニーへと連れてきてくれた。場所が場所だけに俺たち以外の人間はおらず、話をするのにはうってつけの場所でありがたい。
「まずは助けてくれてありがとう、おかげで助かったよ」
絡まれていたところを助けてもらった事のお礼を伝える所から。うむぅ、今回はヘイゼルに助けられたけど次回からはきっちりお断りを言うのと相手をしないように気をつけなければいけないな。
「いえいえ、どういたしまして。……お節介かなって思ったけど困ってるように見えたから」
「あぁ、正直助かった。人の話を全然聞いてくれない状態になってたからな……次からは俺一人であしらえるように心づもり準備しておくよ」
そんな俺の言葉に、安心するように胸をなでおろしているヘイゼル。やっぱりというか良い子である。……しかし何でこんな子が“出来そこない”なんてひどい誹りを受けるんだろう。いきなりそんな事を聞くのはぶしつけだ始動した者かなと悩んでいると、ヘイゼルが苦笑しながら言ってきた。
「カストルって嘘が下手でしょ?お兄様と一緒で顔に出るタイプね……やっぱりなんだか似た者同士だ」
……えっ、俺そんな風に顔に出てたかなぁ?気をつけようっと。
「……なんで私が“出来そこない”なんて言われてるか、だよね。本当はさっきの呟きも聞こえてたんだ」
俯きながら寂しそうに笑うヘイゼル。女の子がそんな表情を浮かべていると俺も心が苦しくなる。えぇい、俺の愚か者めが……!!返す言葉に悩んでいる間、ヘイゼルがゆっくり説明するように話を続けていく。
「私、生まれつき魔力が少ない体質で50しかないんだ。
……この国の王族だったら、魔力は150とか200とかあって普通なんだけど……私は他の王族の半分以下しかなくて。
“出来そこないのお姫様”なんて言われちゃって。
だから王位継承権を剥奪されて、母方の家預かりになってるの」
訥々と語るその表情は、話が暗くならないように気丈に笑ってはいるものの過去に魔力が少ない事で相当に責めや誹りを受けてきたことを伺わせる。
……なんなんだよ、魔力が無かったら酷い扱いをしてもいいっていうのかよと憤りを感じるとともに、そんな事を改めて説明させてしまった俺の配慮の足らなさと不甲斐なさに腹が立つ。
「……ごめんね。でも私は大丈夫だからさ、あはは…だから、これからも変わらず接してくれたら、嬉しいな」
そう言って此方に気を使わせまいと笑うヘイゼルだが、無理して笑ってるってわかるよそんなの。だから勢いよく頭を下げる。
「辛い話をさせてしまってごめん!」
「わあ、えっと頭を上げて?!
いつかどこかで説明しないといけない話だったし……そもそも私が雰囲気昏くしちゃったからだし」
わたふたとしているヘイゼルを見て……この子がもっと自由に生きられるようにしてあげたいな、と思った。だから話の雰囲気を切り替えるように、お道化ながら今度は俺が話しかける。
「なぁにヘイゼルは十分凄いよ、しっかりしてる子でさ。俺なんか魔力5だぜ5、まさかの一桁でヘイゼルのさらに1/10だ。……つまりヘイゼルは俺の10倍すごいってことだぜ胸を張るといいぞわーははは!」
実際俺自身は魔力5しかないこと自体はそんなに気にしてないのであっけらかんと言ってやると、そんな俺の様子に困惑気味なヘイゼル。……きっと魔力が低い事で散々言われてきたからなんだろうな、と察するものがあるのは辛いところ。
「まぁでも魔力5しかなくても意外と案外なんとかなるもんなんだよ。なんとかなったしな!」
「……カストルはすごいなぁ」
俺を羨むように、眩しそうに苦笑しながらヘイゼルが言う。
……この国では、魔力が低いと人格や才能を否定されて正当に評価されない。魔力がなければ不当な扱いを受けて、俺やヘイゼルのように追放や廃嫡のようなことまでされてしまうのが現状だ。
―――それなら、だ。
もし、魔力5のゴミと蔑まれる俺がこのまま成り上がれるところまで上り詰めたら、魔力で人の価値を決めつけてしまう今の在り方に対して風穴を開けてやれるんじゃないだろうか?
この子もまた俺にとっては他人に思えないし、何より友達の妹がそんな風に蔑まれているのを見ているのも居た堪れない。見て見ぬふりなんてしたら寝覚めも悪くなるってものだ、だから――――
「なぁヘイゼル、君の人生を俺に任せてくれないか?」
「……ふえぇ?!」
突然の俺の言葉に驚いたそぶりを見せるヘイゼル。
そうだよな、いきなりそんな事を言われても困ると思うが……ヘイゼルの今後の人生がもっと前向きに生きていけるようにしてあげたいと思ったのだ。転生仲間の友達の、大事な妹ちゃんだしなっ!
「魔力5の俺がドーブルスを支えて、この国の王族や他の人間を見返すような位活躍したら―――魔力だけがすべてじゃない、って証明ができると思うんだ。
そうしたらヘイゼルも不当に虐げられたり、酷い扱いを受けることもなくなると思う……いや、そうしてみせるからさ!」
そんな俺の言葉に、何故か顔を赤くしながらもじっとこちらをみているヘイゼル。考え込んでいたようだが、こくり、と俺の言葉に頷く。
「え、えっと急に言われて驚いたけど、えと、えとえとえと、あの……カストルならお兄様のお友達だし、えっと…………うん、はい。わかりました。……あの、お兄様とお母様にも話しておくから、また改めて。あの、宜しくお願いします?」
「あぁ、宜しくな!」
……うん?なんでドーブルスやヘイゼルのお母さんが此処で話に出てくるんだろう?よくわからないけどまぁいいか。
それから肌寒くなってきたのでヘイゼルと腕を組んで部屋の前まで送ったが、ヘイゼルの距離がさっきより近くて体温を感じた。やっぱり寒かったから冷えたのかな?顔も耳まで真っ赤だし。
去り際、俺の姿が見えなくなるまで部屋の前で手を振ってくれていた。
次の日の朝、教室で席につくと誰かが後ろからヘッドロックをかけてきた。
「いよぅ色男、なんだかとんでもないことになってるじゃないかっ」
「その声はジェシカか―――今日も元気だな」
中等部からの悪友で、近衛騎士の家の生まれのジェシカ・ポートマン。
キラキラの金髪を後頭部で編み込んでハーフアップにした、日焼け肌が眩しい女子だ。……ご覧の通りに明るく賑やかな性格で、男女問わず友達が多い。男兄弟に囲まれているので女子らしさより先に男友達みたいな気安さが前に出てくるのと中等部の時に色々と関わる事が多かったのでなんだかんだで親しくしている友人である。
ちなみに胸がない事をセクハラをすると顔面が膨れ上がるまで殴られるから触れてはいけない。魔力とかスキルとか抜きに素手で人の顔面を当社比1.5倍ぐらいまで膨れ上がらせるジェシカの鉄拳はヤバいわよ!
……人には誰だって触れてはいけない痛みがあってそこを踏み越えたらあとはもうガチンコバトルしかないのである。中等部時代に何人もセクハラ野郎が地獄を見ていた、まぁセクハラするやつが1000%悪いから自業自得としか思わないけど。
転生前にいた日本のオタク界隈では古来より伝わる『貧乳はステータス』なんて名言もあったのを思い出すぜよ。
「かーっ、ついこの間まであたしと轡を並べていたと思ってたのにいつのまにお姫様の婚約者になったのさ。今日は朝からその話で持ち切りだよ」
「うん?誰が婚約者だって?」
聞き捨てならない単語に思わず反応するが、そんな俺の言葉にギュウッと首を絞める強さを強くするジェシカ。
「こらこら、とぼけたって無駄さ―――あんた、ヘイゼルと婚約したんだって?いやぁ、お互い見る目あるじゃないあんたもヘイゼルも。あの子はいい子だから―――泣かせたらあたしがあんたをぎゃふんと言わせてやるかんね」
「今既にぎゃふんと言わされてるので離してくんなぁい?」
そんな俺の言葉にからからと愉快そうに笑いながら腕を緩めて介抱してくれるジェシカ。
婚約ゥ?こんにゃくじゃなく?いやこの世界にこんにゃくねーわ。
……いつのまにどうしてそんな話になってるんだ?まるで意味が解らんぞ!……俺なんか変な事言ったかぁ?!
「ま、昨日の今日で王族専従騎士からお姫様の婚約者なんだ―――やっかむやつもいるだろうけど何かあったらあたしを頼りな!あんたもヘイゼルもあたしの友達だからね」
そういってニカッと笑ってくるジェシカ。正直わけがわからないよ。……どういう事だってばよ?!そう思いながらも俺はそんな悪友の言葉にあははははと乾いた笑顔を返すしかなかった。
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