ライフルガトリング世界のシェルター生活

栗頭羆の海豹さん

第1話 順風満帆

 暗い。

 一寸先も黒一色な光景は光源が一つもないことを理解した。

 足元から感じる冷たく硬い床が金属である事を何となく分かった。


(あの神が言っていた通りのヘルモードだな。何もないシェルター内か、持ち物はこれだけか。)


 男の持ち物はいつの間にか握られていた長方形のものだった。

 これが神が言っていたゴットフォンという機械だと思った。


(安請け合いするんじゃなかったか。)


 これから襲いかかってくる波瀾万丈な人生を憂いながら既に後悔し始めていた。


 此処は天界。

 真っ白い雲を連想する世界に彼は神と対面していた。


「おめでとう!君は選ばれたんだよ。僕の眷属にね!」


「えーと、貴方は誰ですか?」


 多分、神だと予想しながら男は聞いた。

 圧倒的な神々しさに真っ白な世界に似合わないドス黒いオーラからどう見ても天使には見えないため、神だろうなと思ったのである。


「あぁ、自己紹介してなかったね。僕は・・・クル。君の世界に干渉したことはないから。名前は知らないと思うよ。これでも神さ。」


「そうですか。では、そんな神様がワシみたいな平凡な老人に何のご用事でしょうか?」


「?平凡?平凡もこれほどになったら非凡だと僕は思うけど、それは感性の問題かな。まぁ、どうでも良いね。」


 ケラケラと笑うクルと名乗る神は男の人生を見た為、やっぱり自分の眷属に相応しいと思いながら空中をコロコロしていた。


「君を輪廻から外したのは僕の眷属になってもらうと思ったからなんだ。」


「眷属ですか?ワシは別に信心深くはないですよ。」


「そんなのを君には求めてないよ。それに深くないだけで信心はしていただろう。これからはそれを僕に向けてくれたら充分だよ。」


 おじいちゃん子の男は祖父が入信していた宗教に産まれながら入り、別に自身にとって不利益になる様な悪徳宗教でもなかった為、そのまま信心を続けていたのである。

 だから、信心深さを自身に求めていないと聞いて少し安心した。

 信心深い友や同僚もいたのであんな風に頑張るのは自分には無理だと思っていたのである。


「君にはね。神達が主催しているある遊戯に参加してほしいんだ。」


「ある遊戯?」


「僕たちはそれを眷属戦争って言っているよ。」


 内容は数多の世界から選んだ眷属を未開の星に飛ばして競わせるシンプルなものだった。

 神達は自他の眷属の発展や戦争、衰退を眺めて楽しもうとするものであり、中にはお気に入りの眷属の切り抜きを作って他の神に宣伝する神もいたりと各々が楽しんでいた。

 この遊戯で最も重要な要素がある。

 それはガチャだった。


「眷属戦争でのガチャには色んな種類があり、最初は一種から始めて、神からのミッションをクリアしていくと他のガチャが解禁していく方式をとっているんだ。」


「・・・・・・・」


「君以外にも何人か参加させた事があるんだけどね。どの子も成績が振るわなくて困っていたところに君を見つけたんだ。君を見た瞬間に思ったね。この子はバズるって。」


 凄く生き生きとしているクルに対して男は冷や汗を流して困っていた。

 前世の事は覚えていた。

 死んだ今となってはまるで他人の記憶を見ている感覚に変わっていっているが、それでも自我は崩壊するなんて事はなかった。

 そんな平凡な前世の記憶に一つだけ他者と比べて特異な事があった。


「あの・・・」


「うん?どうしたんだい?」


「ワシ、ガチャ運が死ぬほど悪いんだけど大丈夫ですか?」


 この男、他者が引くほどガチャ運がなかった。

 10連回して最低補償なんて当たり前。

 中には自分にだけ最低補償が付いていないバグが三つのアプリで同時に発生する事によって10連全てが最低レアという結果が三連続に起きたのを友人がネットにアップしてプチバズりを起こした事もあった。

 人類最低のガチャ運と言われたほど男はガチャ運がなかった。

 ガチャ以外では運が良い方だった。

 友人に誘われて初めて行った競馬では一目惚れで賭けた馬が歴史に残す名勝負をした上で万馬券を獲得したり、名所に旅行に行った際は十中八九その年一の景色を拝めたりしていた。


「明らかにワシに向いていないと思うんですが。」


「そこは大丈夫だよ。君がガチャ運がないのは知っているし、その対策を上司に提案して受けてもらえたから。」


 エッヘンと胸を張る神が可愛らしく見えながら、神にも上司がいるんだと思った。


「君にはこの遊戯で他より不利な条件を受けてもらう代わりに最低レア度を上げてもらう事にしたんだ。」


 つまり、通常Nが最低レアな所を男の縛りによって最低レアがRになったりするという事である。

 これによって空前絶後に酷いガチャ運をカバーするという事である。


「この中から好きに選んでね。君のこれからの人生が決まるから。好きなだけ悩んでね。時間はたっぷりあるから。」


 神が渡してきたスマホに似た機械にはいくつか縛り候補があった。

 この中から好きに選んで見たら良いというものである。


 過酷な星。

 初期拠点である星を地球の様に生物が棲むのに適している星から選べなくなるものである。


 ランダムガチャ

 初期に選ぶ多種多様なガチャを一つ選べない代わりに多種多様な物が当たるガチャしか持たない上にそれ以外の種類のガチャをゲット出来ないものである。


 初期設備なし

 初期拠点で備えられている設備を何一つ貰えないものである。


 初期ステータス最低

 眷属になって前世の経験を元に付与されるステータスを無くすものである。

 クルのオススメの一つである。


 その他色々と書いてあった。

 どれもシンプルかつ生きていくのが苦しくなりそうなものがあった。


「よし。」


「おぉ、決まったかい?どれにする。僕のオススメかい?」


「全部頼む。」


「・・・・え?」


 男が言った事が信じられなくて神は自身の耳を疑った。

 クルの見る限り一つとっても運が悪かったら死ぬ様なものが殆どであり、中には運が良い、悪い関係なく1日も生きれなくなるものもあった。

 勿論、眷属戦争が参加不可能なものはないが、それでもすぐにゲームオーバーするものがあるのだ。


「ワシの運はワシが1番知っている。だからこそ、やるなら徹底的にです。」


「・・・フフ、良いね。それでこそ僕の眷属だ。じゃあ、望み通り。ハードを超えたヘルモードで始めてもらう。」


 クルは空中に表示された承認ボタンを躊躇う事なく押したが、此処で問題が発生した。


「でも、一個か二個しか選ばないと思っていたから、縛りの特典を決めてないんだよね。」


 最低レア度上昇にも限度というものがある為、上限まで上げてもこのヘルモードには釣り合わないという上司からのお達しがあったのだ。

 そこで最低レアをSRの所をSSRにすることプラス最高レアであるGRの排出率をアップすることにした。


「これでも足りないんだよね。何か・・・」


「神様。」


「・・・何かな?」


 クルが上司や同僚の神と縛り特典を考えていると自分の初期拠点の星を決めていた男から声をかけられた。

 凄く嫌な予感がするが、無視する訳にはいかないので、聞くことにした。


「この星選びを最難関のにしたら、何かガチャ以外の特典くれないか?」


「上司からお前は馬鹿か?と言われているよ。僕も流石に最難関はやめた方が良いと思う。」


 流石にこれは許容出来ないものだった。

 特典の話ではなく、最弱スタート&初期設備なしなのに激悪環境の星の中でも最難関の星なんてゲームオーバー寸前スタートと変わらない。

 最初のミッションもクリアする事なく終わるのが目に見えていた。


「お願いだから。まだマシな星にしてくれないか?」


「言ったでしょう。やるなら徹底的に、です。」


「・・・上司から許可が出ました。そして、そこまで言うなら私が選ぶ最難関の星に挑戦してみなさいという事です。」


 クルから渡された情報にはさっきまで載っていなかった星の情報があった。


  FePJ0と書かれている星だった。

 常に止まない嵐と昼は灼熱、夜は極寒地獄。

 ライフル並みの速度でガトリング並みの連射として鉄の雨が嵐の風に煽られて360度全方位から襲いかかってくるのだ。

 そこに棲む生物も正にモンスターであり、視覚と知能が退化している代わりに聴覚と凶暴さが進化した生物が弱肉強食を繰り返していた。

 その上、酸素はほぼゼロ。水も地下に氷として眠っている。

 その他にも問題が時期や地域毎に襲いかかってくる。

 最難関に相応しい難易度の星だった。


「へぇ、良いですよ。此処にしましょう。」


「本当に?見てて思ったけど特典にも流石に上限があるんだよ。此処までになくても・・・」


「何度も言いますが、やるなら徹底的にです。」


 クルは男の覚悟を受け入れて、星に送ることにした。


「分かったよ。もう君がやる事はないから。特典が決まり次第、君を星に送るから。それまで眠ってもらうね。特典や僕の眷属としての能力も後で確認してね。後、シェルター内の酸素は有限だから。起きてもあまり喋らない方が良いよ。」


「うん?ちょっ!まっ・・・」


 男はその言葉を言う前に眠りについた。


「君の活躍を期待しているよ。福部周三。」

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