第29話 敗北

 終わった。そう思った。もう私に取れる手なんて。

 ……ごめんティア、あなたの仇取れなかった。


 そして絶望しながら倒れ込む私に、ルヴィンが一歩ずつあゆみを進めて行った。

 絶望する私にとって、今の状況は、迫り来る死を待つだけだ。



 死を恐れる必要はない。



 女神は死んだらまた現世に新たな生物として生まれ変わるだけだ。そこでティアと一緒になれる可能性もあるのだ。

 ああ、ティアと双子になっても面白いし、友達でもいい。性別が別で、ティアと恋人になってもいいかもしれない。そもそも人間に生まれ変わるという確証はないけど。


 さあ、ルヴィンよ、一思いに殺して。



「ダメ!!!!」

「え?」




 その瞬間、ルヴィンの背後から強力な光の光線が発射され、ルヴィンはその場に倒れ込んだ。


「なんで?」


 私は正直目を疑った。何しろ目の前にいたのは、ティアだったのだから。


「嘘……死んだんじゃなかったの?」

「誰が死んだっていったの? 仮死状態になっただけ。雅夫さんを解放するという目的と、ルヴィンの隙を狙うっていう目的でね」

「っ心配したんだから!!!」

「えー、ルティスは可愛いなあ」


 ティアは私のことをおちょくっているようだ。だけど、それが嬉しく感じるのは、ティアが生きているという事実によるものだろう。


「おい! 何を終わったような感じを出してる? 俺はまだ終わってないぞ!!!」

「げ!? あれくらって死んでないの?」

「みたいね」


 さっきの一撃は完璧な一撃に見えた。私に注視していたルヴィンの隙をつく完璧な一撃。だが、それでも倒れない。恐ろしい耐久力だ。


「俺にこんな傷を負わせやがって。くそ女神め、これでもくらええええ!!!」


 ルヴィンは、炎を濃縮させた球をティアに向けて思い切り投げた。


「ティア」

「大丈夫!」


 ティアは、光を込めた拳をその炎に合わせ、その炎を消し去った。

そしてそのまま飛び跳ねて、氷の槍を作り出し、ルヴィンへと投げ込む。ルヴィンはその攻撃を手から炎を作り出し、溶かして受けるが、背後から私は闇のオーラを込めたパンチをくらわす。自分だけ黙ってみているわけには行かない。


 だが、それは読まれてたみたいで、横にひょいと避けられ、直撃とは至らない。

 だが、それで終わる私ではない。闇を濃縮させ、作り上げた闇の戦士に、剣出来るように指示してある。その私の指示通り、剣で、ルヴィンの体を切った。だが、その不可視の一撃すらも、ルヴィンはぎりぎりでよけた。そして、透かされた私の体目影て、強烈なパンチが飛んできて、私は血を吐きなgら、壁へと叩きつけられた。


「はあはあ、強すぎじゃない?」


 その巣覚ましい察知能力と予知能力。さらにその体の耐久力の高さ。ただでは倒せないようだ。


「私的にはそこまで強くないと思うけどなあ」


 だからこそティアのそのお気楽な発言に驚いた。こいつがそこまで強くない!? そんなわけがない。


「まあ、大丈夫」


 そう言って、ティアは煙を生み出し、自信もまた煙と化し、中に溶け込む。

 そして、煙の中から数発光の光線がルヴィンに飛んでいく。ルヴィンはその煙の中に数発攻撃を加えるが、どれも当たらない。


「そういうことかよ!」


 ルヴィンは、自身から高エネルギーを放出する。その影響で周りの地面が揺らぐほどのエネルギー量だ。その勢いに私もまっすぐに立つことすらままならなくなっている。いや、問題なのは私じゃなく、ティアだ。もし仮にティアが直撃を受けていたら、もうティアは今度こそだめかもしれない。

 だが、そこは流石はティアだ、上手くいなしたらしく、さらなる光線がルヴィンを襲う。

 恐ろしいほどの閃光が。


(だめだ、私は。見ているだけでいいはずがない。私もティアのために!)


 そして私は闇の魔人を生み出し、それにルヴィンに腕を振り下ろさせる。ルヴィンはそれを「ふん、つまらん技だ」と言って、その拳を押しのける。だが、そのすきに、ルヴィンのわき腹に闇の弾丸をぶつける。


「効くかああ」

「シャインフラッシュ!」



 周りがまぶしく光った。その攻撃でルヴィンは目をつぶる。そのすきにティアはあふれんばかりの光の光線を放ち、その一撃が、ルヴィンの腹を貫いた。


「はあはあ、勝ったの?」


 そう、ただずむティアに訊く。


「いや、まだみたい」


 そのティアの言葉通り、ルヴィンはまだ終わってはいなかった。彼はお腹に穴が開いた状態で何とか歩いていた。こちらに向かって。


「ぜえぜえ、まだ、まだ終わってないぞおおおおお。貴様ら女神に復讐するまでは終わらない、追われねえ!!」


 そう言ってルヴィンは巨大なオーラを纏った。


「こうなったらお前たちも巻き添えだあああああ」


 そう言った瞬間ルヴィンの体ははじけ飛び、周りにあふれんとばかりのエネルギーが吹き飛んだ。いりょにして周囲三キロの距離が吹き飛ぶくらいの威力だ。


「ルティス!!」

「ええ!」


 そして、私達は全力で防御する。


 そそいて、私はぎりぎりで耐えた。だが、ティアはと言うと、私よりも爆発に巻き込まれた場所が近かったからか、爆発が収まった後、その場に倒れてしまっている。要するに、防御を貫通されたのだ。


「ティア、ティア!!!」


 揺り動かすも、意識が戻る気配がない。心臓部分を触る。どうやら、死んではいないようだ。少し安心するも、今度は周りの景色だ。

 周りが全て崩壊している。この様子だと、死傷者の数も恐ろしい数になっているだろう。

 私達は守れなかったのだ。下界を、民を、全てを。

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