第27話 誘拐

 ティアに置いてかれてしばらく経ったが、まだ状況が掴めなかった。

 ただ、二人の慌て様を見ると、やばい事が起きたんだなというのは分かった。

 だが、二人を追おうとも、行き先もわからない。それに、もし見つけられたとしても、俺には何もすることもできない。


 そんな感じで手持ち無沙汰でスマホをいじっていると、ニュースに記事が出てきた。


「未知の怪物が暴れる」


 という見出しだった。


 普段なら見出し詐欺として放置する記事だが、今の俺には違う。一目でわかるのだ、これがティアたちが今戦ってる相手なのだと。


 テレビをつけて、その動きを少し観察したところで怪物の姿が消えた。

 おそらくティアが透明にしたのだろう。

 すぐにテレビも写らなくなった。


 すると、ぱりんと音がした。振り返ると、窓が割れていた。

 すぐに俺の意識は闇に閉ざされた。


 そして気がつくと、怪物の前にいた。腕を後手で縛られて。


 ここから考えると、俺は拐われたようだ。拐った理由はすぐにわかる、ティアたちに対しての対抗手段だろう。


 まさか俺が怪物大戦争に巻き込まれるとは……。いや、今考えるべきことはこんなことじゃない。ここから逃げ出す方法を考えないと。


「おい! 人間」


 そんな中声をかけられた。


「なんでしょうか」


 あくまでも丁寧に敬語で言う。こいつにかかれば俺なんて瞬殺だろう。


「わかってるとは思うが、お前は人質だ。逃げようなんてするんじゃないぞ」

「分かってます。そもそも逃げられないですし」


 と言って、手を動かす。やはり鎖が邪魔して動けない。


「まあお前も暇だろう。俺の話をしてやろう」

「俺の話、ですか?」


 この怪物についての話か。確かに気になるところではある。


「そうだ。俺は気がついたら地獄にいた。地獄で業火の中に包まれていた。最初は全く意味がわからなかった。何故こんな苦しみを受けているのか。だが、看守がいうには俺が前世で悪行を起こしたからだという。俺は、俺たちはそれが我慢ならなかった。なぜ俺たちは身に覚えのない罪で何十年も投獄されなければならないのかと。だから派手に脱走してやった! あいつらは今頃慌てふためいているだろうな。だが、脱走だけでは収まらない。俺たちをこんな目に合わせた看守、女神、そして神そいつらを殺したいと思った。まずは情報収集に勤しんだ。そしたら、女神がこの下界で人間と一緒に暮らしていると言う情報が入った。これを利用しない手はない。まずは囮として一人暴れさせ、その間にお前を攫った。そう、全てはあいつらを殺す為に。お前には悪いことをしたと思っているが、あくまでも利用するだけだ、殺しはしないから安心しろ」


 なるほど、筋が通っている。俺が感じたことだ。さっきティアが記憶のない状態で天界の花畑で目が覚めたと言っていた。それは地獄に落ちるような悪人でも同じなのだろう。


 確かに、記憶のない状態でここで罰を受けろと言われても俺は納得できないだろうなと思う。だが、それはティアには関係がない。


 確かにティアは生意気で我儘だが、それであいつが攻撃されるというのなら俺はそれを認める訳には行かない。



 許せない。




 だが、今そんなことを言ったら確実に殺される。俺の生死はあいつが握っているのだ。

 俺は漫画のキャラみたいにこっちが拘束されてるような、不利な状況で啖呵を切るなんて馬鹿なことはしない。今は悔しいがティア達の助けを待つことしか出来ないのだ。


「お互い暇だな」

「ええ、そうですね」


 俺は好きで暇になったわけではない。勝手に攫われて縛られて暇な状態になっているだけだ。だが、その言葉もぐっと胸の奥に仕舞い込んだ。


(ティア、早くきてくれ)


 そう願った。今の緊張状態は俺の精神に来る。俺なんてただの一般人、こんな状況に慣れてるわけじゃない。


「そうだ、これでも見せてやろう」


 そう言って怪物は俺にテレビを持ってきてくれた。


「これはな、俺の仲間が口コミした奴だ。あいつら女神も頑張って隠そうとしたのだろうが、俺たちはその戦いの全てを写した、そう、お前の仲間の女神の姿も」


 彼が言う通り、そこに映っていたのはまさにティアとルティスだった。

 つまり、彼女達は全国デビューをしてしまったという事になる。おそらく全日本人の半分以上は興味を持ってしまっているこの事件、その中でティアの姿が映ってしまったら、そう、ティアはもう有名人になってしまった。

 つまり彼女たちはもう下界にとどまれないかもしれない。

 なんて事をしてくれたんだ。こいつらは、


 ティアを住みにくい環境に居させるのか。

 正直許せない。許せる物ではない。


「怒りの感情だな」

「え?」

「流石の俺でもわかる。女神ほどの力はないが、人の感情程度なら読めるからな。さっきまだ我慢してたが、今ので堪忍袋の尾が切れたという感じだな」

「よく分かりますね、まるでティアみたいです」

「ふふふ、そうだな」


 上機嫌だ。言葉使いが成功したのだろうか。とはいえ、何も問題は解決していない。ティアたちが窮地に陥っているのは事実だ。もし俺が解放されたところで。おいや、女神パワーなら、何とかしてくれるのだろうか。それならばうれしいことなのだが。



「ここだね」


 私達は、魔力の残滓が残っている倉庫に来た。


「そうね」

「行こう!!」


 そして私は、突入した。雅夫さんを救うために。

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