第26話 対モンスター

「ティア。今回の事例はある意味あなたが巻き起こしたものよ」


 そう、移動中にルティスに言われた。


「え?」


 どういう事?


「言わなくても分かると思ってたんだけど」


 そう言われた時にようやくルティスの言いたいことが分かった。


 ああ、確かに私が悪いな。そう思って、とりあえず心のともってない土下座をしながら「ごめーん!!」と言った。

 私が持ち場を離れたからそんなことになった可能性が高いのだ。


「でもさ、私が全員元に戻せば私のせいじゃなくなるよね?」

「そうかもしれないけど……本当に反省してる?」

「してるよ!」


 そしてしばらく飛び続けた頃、ようやく前方に巨大なモンスターが見えた。これは現世で魂が実体化したときの姿だろう。軽く見た所、角が生えた巨大な怪物の姿だ。

 そして運のいい? ことに、まだ民衆にはあまり被害が及んでいないようだ。

 


 しかし、ほっとすることばかりではない。最悪なことに一般人にも姿が見えてしまっている。

 これだと、魂の存在を民衆が知ってしまう事になる。それは絶対に避けなければ行けない。展開と下界とのバランスを保つためにも、私の責任を軽くするためにも。何より、雅夫さんに危険が及ぶようなことは避けなければならない。


「ティア?」

「分かってるよ! ルティス!!」


 そして私はモンスターを透明化して姿を消し、私たちも同様に姿を消した。民衆に戦いを見せないためにだ。


 もちろん記憶を消すだけなら可能だ。だが、記憶を消すというのは高度な技だ。何しろ、記憶の接合性を取らなければならない。

 他の女神パワーとは違うのだ。


 そして姿を隠した後、巨大なバリアを貼り、民衆の安全を確保しながら、


「フレイム!」


 と、炎を放った。その炎でモンスターは怯む。その隙にルティスが思い切り闇を纏ったパンチをモンスターに喰らわす。

 並のモンスターならこれで倒れるはずだけど、


「ぬおおおお! また捕まってたまるか!」


 上手くいかないみたいだ。流石はあの地獄から脱獄しただけのことはある。傷は負っているが、まだ行動不能には至らない。

 ……あまり派手にやりあうわけには行かないのに。

 いくら私たち女神とは言え、死んだ人間を生き返らせる能力はない。死んだ人間を管理する、それが女神の仕事なのだから。

 模試も長期化して、死傷者が出てしまったらそれは本当の本当に最悪の事態だ。


 モンスターはそしてこちらにドスドスと向かってくる。どうやら施行する時間を与えてはくれないらしい。


「うぇ、これは、めんどくさそう」


 思わず愚痴が溢れる。早くかたずけて雅夫さんのところに戻りたい。


「諦めて、こいつはすぐには倒せないわ」

「分かってるよぅ」


 そして私は光を放ち、目潰しを図る。

 そして怯んだ隙に、地面を蹴って光を纏いし拳で殴る。ルティスはその私の拳に闇のオーラを纏わせた。


「これが闇光ブレイク!!!」


 そしてそれを食らったモンスターはそのまま地獄に送り返された。


「やった!」

「イエイ!」


 そして二人でハイタッチして、次々に現れたモンスターたちも倒していく。


 そして、全滅させた後、雅夫さんの家へと向かった。疲れたから雅夫さんに甘えたいという思いで。


「ただいまー!」


 そう、笑顔で扉を開ける。しかし、そこには雅夫さんがいなかった。


「なんで!?」


 と、家の中をとにかく探すも、どこにもその姿はなかった。


 嘘でしょ? だって、雅夫さんが私を置いて出かけているわけがないんだもん。


「やられたわね」


 ルティスがつぶやいた。


「え?」

「あいつらの目的は高塚くんだったのよ。私たち女神に真っ向勝負では勝てないとでも思ったのかしらね」

「……人質ってこと?」

「ええ」


 そして目を凝らしてみる。すると、魂の残滓が残っていた。どうやら本当に雅夫さんはさらわれてしまったらしい。

 しまったと思った。雅夫さんが人質では私は何も出来ない。雅夫さんの命が一番大事なのだから。


「何でよ!」


 私は思わず拳を地面に叩きつける。こうなっては雅夫さんの命が心配だ。だって、雅夫さんは私たち女神みたいなスペシャルパワーを持たないただの人間なのだから。


「ティア……」

「取り返しに行こう! 雅夫さんを!」


 そう、ルティスに告げた。強い思いで。


「分かったわ。すぐに行きましょう」


 そして私たちは向かう。雅夫さんの救出へと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る