第17話 女神様と餌やり

 そこは、動物の餌やり場だった。


「ねえ、餌やっていい?」

「ああ、もちろん」


 ティアは馬に餌を食べさせ、ティアはそんな馬のおいしそうに食べる姿を見て微笑んでいた。


「気分はどうだ?」

「良い感じ! 楽しい!」

「楽しいしか言わんな、お前は」

「だって実際楽しいし!」


 そう言ってティアはニカっと笑う。まあでも実際ここに来てからティアの笑顔が絶えたことはない。それくらい楽しいのだろう。今のティアを一言で表現するとしたら楽しさの塊であろう。その場でいるだけで、周りもその楽しそうな顔で、幸せにする。


 ティア、それはそう言う意味では女神なのかもしれん。実際俺もティアの楽しそうな顔を見ているだけで幸せだ。もうすでにここに来てよかったと思えている。


「あ、そうだ!」


 ティアが急に叫んだ。どうしたんだろうか。


「雅夫さんも触ってみたら?」

「いや、俺はいいよ」

「いいからほら!」


 ティアが俺の手をつかんできた。俺の手を無理やり馬に触れさせる気だろう。当然抵抗もできるが、それをする気にはならない。動物に触るのが好きじゃないのにもかかわらずだ。


 抵抗できない理由はただ一つ、ティアが楽しそうだからだ。どうしてこの楽しそうなティアを裏切ることが出来ようか、いや出来まい。という訳で俺の手は馬の頭に置かれた。


「よ……よしよし」


 と、ぎごちなく馬をよしよしとする。見れば馬は気持ちよさそうな顔をしている。この顔を見たら触るのも悪くないなと思った


「次は餌あげてみてよ」

「え!?」


 流石にエサをあげるのは躊躇われてしまう。理由はただ一つ、かまれてしまうかもしれないからだ。この馬は調教済みのはずだ。と言うか、未調教の馬が動物園にいる訳がないのだが。とにかく、俺は信用なんてできない。触れと言われては、一〇年前に近所の犬にかまれてしまったことを思い出してしまう。



「無理だ」


 一言で返した。そんなことが出来るわけがない。


「え、いいじゃない!」

「とにかく俺には無理なんだ……その……かまれるのが嫌だ」


 これが俺の本音だ。いかに失望してくれても構わない。触るのがいかに嫌かを分かってくれればいいのだ。


「雅夫さん! やってみないと恐怖心が消えないよ。それに、ここには女神さまがいんだから!!」


 と、言ってティアはその胸をトンと叩いた。


「それに嚙みそうだったら私が何とかするよ」

「そうか、ありがとう」


 そんなティアの言葉を信用して、ニンジンを持つ。正直言って怖い。馬の顔が怖い、馬の口が怖い、馬の脚が怖い、馬のすべてが怖い。


「私を信じて」


 そう言って、ティアが背中をさすってくれた。ティアのくせに傷会もできるのか。最高じゃねえかティアよ。

 そして、ティアを信じて、ニンジンを馬に差し出す。すると、馬は嬉しそうに俺のニンジンをパクっと食べてくれた。


「どうですか? 気分は」

「ああ……悪くない」


 そして、もう一本ニンジンを差し出した。




 そして満喫したので、次の場所へと向かった。そこは、ゾウが見れる場所だった。


「ねえ見て! ゾウさんかわいい」

「ああ、そうだな」


 実際ゾウは長い鼻をたらして見るからにかわいい見た目だった。


「これ、ゾウさん触れないのかな?」

「触れないだろうな。触りたいけどな」

「うーん、女神パワー使っちゃおうかな?」

「は?」


 女神パワー!?


「これで良し!」

「ま……まさかさっきのやつか?」

「うん! せいかーい。さあ、触っちゃおう!」

「お前、やっぱり大胆になってきて来てないか?」

「えへへ」


 そして、ゾウさんを触る。


「ほう、こんな触り心地なのか」

「雅夫さんだってしっかりと触ってるくせに」

「触れるんなら触るだろ」

「えへへ」


 そして俺たちはゾウを触りまくった。そして、五分後満喫した俺たちは、女神パワーを解いて、ゾウを見る側に戻った。


「すごいよね」

「ん? 何がだ?」

「あのゾウを今まで触ってたんだよ。私たちが。すごいことだと思わない?」

「ルール違反をして……だけどな」

「えへへ、そこはいいの。楽しかったんだし」

「まあ、あれは楽しかったな」

「うん」


 そして、俺たちはゾウさんのところを後にしなかった。まだやるべきことがあったのだ。


「せーの。はいチーズ!」


 と、自撮りで、写真を撮った。


「いい写真だね」

「おう」


 その写真のティアも俺もいい笑顔をしている。そう思える写真だった。


「じゃあ次行こ!」


 と、ティアに手を引っ張られて次のところに行く。ゾウさんと来たら、そう。パンダだ。


 パンダはチベットや中国の動物だと聞いたことがある。それが、今日本にいる。本来ならここにはいない動物だ。そのことをティアに伝えると……


「うん。そうなんだ」


 と一言だけ返した。今のティアはパンダの詳細を聞くよりも、じっとパンダを見ていたいのだろう。この笹を少しずつ、ゆっくりと食べているパンダを。


 そして次の瞬間、パンダが、こちらを少しだけ見た。本当に一瞬で、僅かな時間だけだったが、パンダが、「ようこそ」と言ったような気がした。それを見て、少しだけ嬉しくなったかのような錯覚をした。


 そして、ティアを見ると、じっくりとパンダを見ていた。ゾウさんの時は少し経ったらすぐに女神パワーを使っていたのに。パンダの魅力と言うものはすごいな。


 ティアがじっくり見て、数分後、


「雅夫さん、パンダってすごいね」


 と、つぶやいた。真剣な顔で。


「……そうだな……」


 それにはしっかりと同意する。落ち着きのないティアがこんなにしっかりと見ているのだ。ティアをこんなお淑やかな感じにしてしまうパンダ恐るべし。


 そして、二人で数分見たのち、ティアが手をつかんできた。


「じゃあつぎのばしょにいこ!」

「ん? 触らなくていいのか?」

「悪いよ。こんなゆったりとしているパンダに触るなんて悪いもん」

「確かにな」


 ティアってこういう大人な一面もあるんだよなあ。とはいえ、触るという行為自体、ルール違反なのだが。

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