第12話 女神さまと文芸部
そして翌日……
「おはよう!」
と、教室に入ってあいさつした。もちろん山本君に対してだ。
「おはよう、高塚君」
そう笑顔で返事した。
「私の方からも行っときますね。おはようございます。山本君」
お、もうちゃんと挨拶できるようになったのか。偉いな。
「さて、今日は何見に行きます?」
「そんなの、文芸部に決まってるだろ」
「えへへ、今日こそ私を満足させてくれるかな」
「まあ、そろそろさせてくれなきゃまずい。今日もう金曜日だしな」
「あー、土日挟んでしまうから?」
「いや、来週には部活休みになってしまうからな。テスト前だから」
「そうなんだ。じゃあ、今日こそ私を楽しませてほしいね」
「ああ」
そして放課後、
「お邪魔します」
と言って、文芸部に足を踏み入れた。こここそ真里が望む完璧な部活だといいのだが……。
「いらっしゃい」
と、六名の部員が俺たちを向かい入れた。将棋部みたく、ほぼ全員が眼鏡だ。まあ無理もないだろう。本を読むということは至近距離で物を見るという事なんだからな。
「うちの部活は、毎週月木金に活動していて、主な活動は、小説の……例えば芥川さんや太宰さんとかの小説を読んでその内容考察を話し合ったりとか、シンプルに様々な形の創作をしたりとか、学園祭の時に各々の好きな小説のプレゼンとか、各々の作品の入った本を出したりしてます」
と、なるほど、読書、執筆両方しているようだ。
「今日は何をする予定なんですか?」
「今日は、お題やテーマを決めて執筆をします。例えば、恋愛、戦争、歴史などのお題や、サイコパス、悲恋、殺人、メンヘラと言ったそのようなテーマで角と言うものです」
なるほどなあ。
「それで、そのテーマってどうやって決めるんですか?」
「それはもちろん出し合ってです」
色々とわかった。つまり、物語を作る日だということだ。
「じゃあさっそく参加させてもらいたい」
隣の真里も大分わくわくが止まらなさそうだしな。
「じゃあテーマ出し合ってください」
と、テーマやお題を出す流れになった。
「はい!」
一番最初に手を挙げたのは真里だった。
「はいどうぞ」
「天界」
それに「なるほど」と言う同意の声がする。天界に住む人が、天界のことを書いてどうするんだと思ったが、まあ真里が書きたいのであればそれはそれでいいのかもしれない。
「はい!」
と、また真里が手を挙げた。二連続かよ。
「女神」
女神って完全にお前の事じゃねえかよ。自分の事書いてどうするんだよ。
「はい!」
「どうぞ、大原君」
今度は真理以外の人があげたようだ。流石に真里の独壇場にはならんか。
「メンヘラ」
結局変なやつ出てるし。
そして結局、天界、女神、メンヘラ、サイコパス、異世界、闇、闇落ち、暗殺、戦争、恋愛、その他さまざまなものが出た、この中から三つから四つに絞るらしい。結構普通な物は出ないものだなあ。この中から選ぶってだいぶ色物が多いぞ。一番まともそうなもの……よし!
と、俺は恋愛、学校、文化祭に上げた。ちなみに真里はサイコパス、女神、天界に手を挙げてた。お前、サイコパスだったのかよ。
結果として、恋愛、サイコパス、メンヘラに決まった。もうこの時点で新入生を歓迎する気がないみたいに思ってしまうが……まあとりあえず紙を渡され、書くように促された。そう言われてもこれは難しいぞ。
「真里、お前これ行けるか?」
「うん。余裕です」
余裕らしい。今焦ってるのは俺だけなのか?
「えっと、高塚君であってるかな」
「えっと、はい。部長さん」
「ごめんねこんな変なタイトルになっちゃって、でも、まあテーマに準ずる必要はないって言ったらあれだけど、まあ一つくらい抜けてても誰も怒らないから安心して。あと、なんか全然だめだーみたいな感じになったら俺に教えてくれ。アドバイスするから」
神かよ。さて、俺も書くか。
メンヘラって何だ? 愛が重いのはわかるが……。
一昨日の真理は単に俺に依存しすぎてただけだと思うし。
彼女、彼氏を手放したくない。そんな感じでいいのか?
だが、問題なのはこれにサイコパスも入っていることだ。 マジでなんでこうなったんだよ。まともなやつにしろよ。 だが、そんな愚痴を言っても仕方がない。
はあ、とりあえず書くか。
『俺の友達はサイコパスだ、動物を何匹も真顔で殺す、俺には、それは、理解できない。だが、彼女はかわいい。ついこの前、彼女から、プロポーズされた。俺は、すぐにオッケーした。彼女がかわいかったからだ。だが、その選択は間違いだったと、すぐに気づいた』
こんな感じであってるのかなあ。俺、よく考えたら小説なんて読めないタイプの人間だった。国語の成績もあまりよくないしなあ。だが、まあかけるだけ書いてみるか。まあ初心者だから簡単な文章でも許されるだろう。うん、たぶん。
真里はどうなってる? と、真里の方を一目見る。
めっちゃ夢中で書いてる。もう、書くのが速すぎて、多分考えながら書いてる。俺はこんなに書くのにこんなに時間かかってるのに。
それに、あいつもうルーズリーフの半分くらい書いてる。早すぎだろ。
負けないように、俺ももう少し書くか。
『俺は、あの日から、一日何10何100のメッセージが届くようになった、しかもそれぞれ、俺と会話したいからだけで、一日目、深夜にも来てたけど、眠かったから、一方的におやすみと送った。すると、翌日、通知欄に100件の通知が来てた。それは、全部、彼女のだった。俺は、とにかく学校に行きたくなくなった。もう、休みたかった、だが、母さんがそれを、許さなかった』
さて、よくわからない方向に行ってる気がするし、サイコパスも出てない気がする。真里は相変わらず黙々と描いているようだった。
早すぎる。もう、人間業じゃねえじゃねえか。いや、人間じゃねえか、女神だわ。とはいえ俺も負けてられねえ。
『仕方なく学校へ向かった。彼女は玄関先で待っていた、彼女はすぐさま、俺になんで昨日寝たのかと、聞いた。俺は、眠かったからだと答えた。彼女は私より先に寝ないでと怒った、俺には何のことが分からなかった、そして数日間彼女に支配される生活を送った、もう我慢できない、俺はそう思い、彼女に別れようと伝えた、すると、彼女は包丁を持ってきて、あなたを殺して私も死ぬと言い出した、俺は怖くて逃げた。でも、彼女は早かった、結局すぐに包丁で、首を斬られた。そして、俺はそのまま死に、その直後に、彼女も自分の首を切った、その後、現場には二人の高校生の死体が発見された』
これでどうだ。俺にしてはなかなかの作品が書けたぞ。
そして、俺が書き終わった三分後、皆書き終わったようだ。
「真里、結構集中してたみたいだけど、結構かけたのか?」
「ええ、もちろん。正雄さんを驚かせるためにね」
「そうか、なら楽しみだな」
それに対し、「楽しみにしといてよ」と、言って笑った。
そして、皆の小説が開かれていく。俺はその中から。とりあえず部長の作品を読んだ。これは面白い、本になっててもおかしくない。何なら俺にさえ読めるのだ。これこそ面白いという何よりの証拠だろう。
そして次は真里の小説だ。あいつがどんな感じで書いてたのかすごく気になる。
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