第8話 女神様と将棋部
そして放課後
「ちょっとね文芸部もいいけど、もう一つ行ってみたい部活があって……」
「何だ?」
「ここです」
それは将棋部だった。なぜ?
「なんか盤の前の姿がかっこいい感じだから。私もやってみたいかなって」
「なるほど」
確かにみんな真剣に考えているな。心なしか皆イケメンに見えてしまう。これは真里が気になるのも無理はないな。
「じゃあ見学しに行きましょう!」
「おう!」
と、今日見学する部活は将棋部に決まった。
「お邪魔します」
と、顧問の先生に許可をもらってから教室に入った。
「もしかして入部希望者?」
「いえ、入るかはわかりませんけど、見学しようかなって」
「ぜひ見学していって! 特に女子は貴重だからねえ」
確かに周りに女子は全然いなかった。まあ確かに女子がやるイメージなんてほとんどないもんな。そう言う面でももし真里が入るんならうれしいだろうな。真里はかわいいし。
「どうも、部長の清水明と言います。今日は見学に来てくれてありがとうございます」
礼儀だたしい人だな。
「さあ、早速見学していってください」
「はい!」
と、教室に入る。将棋のルールは軽くはわかる。別に強くはないが。
それぞれ違う能力のある駒を使って敵の玉を狙う競技だ。前に一回テレビで見たことがある。その時はすぐに別のチャンネルに変えてしまったが。
「ねえ、私も将棋指していいかしら?」
「おまえ、ルール分かるのか?」
「女神をなめないでよ!」
と、真里は将棋盤の前に座る。
「じゃあ俺が相手してもいいか?」
「雅夫さんもルール分かるんですか?」
「ああ。じゃあ指すか」
と、指していく。
対局の内容としては、俺は玉を軽くだけ守ってから棒銀で攻めていく……俺がこの戦法しか知らないだけだが。
それに対し、真理は王をしっかりと守り、持久戦の構えだ。困った。俺将棋のことほぼ知らんからこういう局面でどう指せばいいのかわからん。
「困ってますね、正雄さん。この囲いは雁木囲いと言うらしいですよ」
「なるほどな」
雁木と言うのか。そんなことを知っても対策方法を知らんからどうすることもできないのだが。
そして棒銀で攻めていくが、上手くいなされ、上手く攻め切ることが出来ない。飛車を別の筋に移動させ、別のところで戦おうとしてもだめだった。そしてそのまま、真里の攻めのターンが来て、普通にぼろ負けした。
「真里、お前普通に強いじゃないか」
「でしょ。まあでも逆に雅夫さんが弱いだけの可能性もあるよ」
「何を言うんだ。俺だって強い……ことはねえわ」
反論できないのが悔しい。実際初心者中の初心者だし。
「でしょ。じゃあ次の相手を探しましょうかね」
と、真里は次の相手を探す。
「俺が相手しましょうか?」
と、眼鏡の細身の男が真里に声をかけてきた。とはいえ、ここにいる部員ほとんど眼鏡なのだが。
「じゃあ対戦お願いします」
「えっと、長谷川真里さんだっけ。俺は尾根悟。よろしく」
「うん。よろしくお願いします!」
と、対局が始まって行く。だが、それはすぐに終わった。真里が圧倒的すぎた。女神だからなのか知らないが、あまりに手堅い勝ち方……そう、強者の勝ち方だった。あのひと……尾根さんじゃあ相手にはならない。
「やったよ。初勝利!」
「ああ、おめでとう……俺にも勝ってなかったか?」
「それは当たり前ですので」
「おい!」
「まあでも、楽しいです!」
「なら良かった」
「あ、次対局できる人いますか?」
真里は対戦に飢えてるみたいだった。これは部活決まったのかな?
「俺が相手をしよう」
と、筋肉がムキムキの唯一将棋部でメガネじゃない男が、真里に対局を挑んできた。
「やりますか?」
「おう。俺は武藤慎二だ。よろしく」
「私は長谷川真里。よろしく」
と、二人が手を取り合って対局がスタートした。
「俺空いてるんですけど、対局しませんか?」
と、尾根悟くんが話しかけてきた。
「でも俺弱いですけど大丈夫ですか?」
元々付き添いみたいなものだし、戦法も棒銀しかさせない俺に正部員相手に勝負になるのだろうか……
「大丈夫ですよ。俺も部員で一番弱いですし」
「そうか、なら対局お願いします」
「それで……失礼ですが、名前なんでしたっけ」
「俺は、高塚雅夫だ」
「そうですか。高塚さん、よろしくお願いします」
と、俺の対局も始まった。と、その瞬間一瞬真里の方を向く。すると、盤面上は支配されてそうだった。まあ所詮真里は初心者。ここくらいが関の山なのだろう。
「そっちの対局が気になりますか?」
と、尾根さんが俺に話しかけてきた。
「ああ、まあ」
「じゃあ対局やめて向こう見に行きますか?」
「いや、大丈夫です」
流石に気を使わせる訳にはいかない。
「じゃあ」
と、尾根さんが駒を降り出した。
「それはなんですか?」
「ああ、駒の表裏で先手版を決めるんだ」
「なるほど」
知らんかったなあ。
「今回は裏が四枚なので高塚さんが先手ですね」
「分かりました」
と、初手を指す。角道を開けた。さっき真里も尾根くんもやってたやり方だ。さっきは飛車先の歩兵を進めてたが、もしかしたらそれは違うのかもしれない。
「勝ったー!」
と、その時真里の声がした。
「お前、強くね?」
「うん。まあ私天才だから」
「まいったぜ。長谷川さん強すぎる」
と、武藤さんが真里をほめたたえた。あまり褒めないでくれ、調子に乗るかもしれねえ。
「そっちはまだ始まったばかりですか?」
「ああ」
「じゃあ、応援するね」
「ああ、頼む」
と、対局が進んでいく。負けた相手も真理だ。この将棋部でさえ上位の実力なんだ、負けても仕方ない。だからこそ、ここで勝って初情理を上げたいところだ。
「負けました」
結局瞬殺だった。尾根くんの攻撃を防ぎきれず、すぐに自陣が崩壊し、攻める暇もうなく負けてしまった。初心者だから仕方ないとはいえ、悔しいな。
「雅夫さん……弱いね」
「言うな」
自信で認めるのはたやすいが、他人に言われるのはやはりムカつく。
「まあでも、強かったですよ、高塚さん。今までほとんど将棋に触れてなかったとは思えないくらい」
「まあぼろ負けしたけどな」
「でも、鍛えたら強くはなると思いますよ」
「そうか、それはうれしいな」
「だからぜひ入部お願いします」
「それは……あいつ次第だ。俺はあくまでも付き添いだし」
「まあでも、前向きに検討してください」
「わかった」
推しが強いな。まあ趣味を共有できる仲間を増やしたいと思うのは当然のことではあるか。
「さてと、私は部長と対戦してこようかな」
と、真理は部長のもとへと行く。
「対局お願いします」
と、言った。
「ああ、お願いします」
と、二人の対局が始まった。
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