第5話 女神様と掃除

「どうだった? 演劇部は」

「うーん。いまいち」

「なんでだ? 結構楽しそうだったじゃん」

「だって雅夫さんと入れる時間が短いし、部活の時間も長いから、それだったら嫌だもん」

「そうか、なら仕方ないな」


 確かに部活の時間は月火木金と、週四で三時間と長い。そのことを考えたらかなりの時間を取られる。そのことを考えると遊びの部活ではなく本気の部活なのだろう。それがティアには気に入らないのだ。今度はもっと緩い部活を探すか。


「じゃあ明日は別の部活に行くか。緩めの」

「うん。後、なんとなくもっと遊びたい気分だから雅夫さんの家に行ってもいい?」

「はあ?」

「だって、なんか、あまり一緒にいられなかったんだもん。二人きりの時間が欲しいし」

「え?」

「だからもう、行こ!」

「……」


 こいつはたぶん異性の家に行くってことの重要性をわかってないのだろう。それと同様に、言ってることの意味も……ティアは女神だからこの世界のことはあんまりわかっていない。だからこんな大胆なこともできるのだろう。


 俺は……これがどれたけのことをしているのかと言うことを教えてやるべきなのか、それともこのままティアを何も言わずに俺の家に連れていくべきなのか……俺には判断がつかない。それに俺はこいつ……ティアがどれたけの知識があるのかもわからん。うーんどうするべきなんだ……。


「雅夫さん?」

「ああ、行こうか」


 俺にはこの純粋な目を見て止めることなんてできない。俺……にはだ。それに今はこいつのことを恋愛対象には見ていない、だから変な気も起こさないはずだ。


「ここが雅夫さんの部屋ですか」

「ああ。俺は一人暮らしだからな。自由なんだ」

「だからこんなにに散らかってるんですか?」

「それを言われると弱いな」

「私が掃除するから大丈夫だよ!」

「え?」

「今から掃除しよ!」


 と、掃除することになった。こんなつもりじゃなかったのに。掃除面倒くさいし。


「とはいえお前掃除できるのか?」

「女神にできないことはありません!」

「そうか、なら頼むわ……てか、女神パワーで何とかならないのか?」

「雅夫さん、いつまでもそんな女神パワーに頼ってたら成長できませんよ」

「いや、偽札作ってる奴に言われたくないんだけど」


一番頼ってる人が……。


「えー。それは仕方のないことです。許してください」

「いや、まあ偽札作りは犯罪じゃん」

「もう。うるさいです! それよりもはやく掃除しよ!」

「おう」


「じゃあもうティシュかき集めましょう!」

「おう」


 俺の捨てるのが面倒くさくて放置してた鼻かみティッシュがどんどんとティアの手によって集められてゆく。なんとなく恥ずかしい。と言うかティアは嫌悪感とかないのだろうか……つーかよくこの部屋にティアを入れたな俺。俺が一番勇気あるわ。


「てかよく住んでましたねここに」

「うるせえな」

「でも……天界だとこんな感じのものなかったから、なんか新鮮」

「そうなのか?」

「うん。天界だとなんかすべてが完璧だから」


 ……そう言うものなのか。でも確かに完璧すぎる物がよくないっていうのもよくわかるな。とはいえ、この部屋は完璧じゃなさすぎだが。あれ?


「そういやお前敬語になったり子供っぽくなったりするよな」

「あ、それは、女神らしくないと雅夫さんに受け入れられない気がしたから」

「あの運命とか言って奴もか?」

「言わないでよ。実際運命みたいなものだったし。てか掃除の続きしよ?」

「おう!」


 と、少しずつ掃除していく。


「これ……捨てていい?」


 ティアの手にあったのは俺のいらないプリントだった。


「おう、全然捨てていいぞ」

「じゃあさっそく」


 と、ティアはゴミ箱にぶち込む。


「さてと、だいぶかたずいてきましたかね」

「だな」

「じゃあさっそくしよ!」

「何をだ?」

「ゲーム!」

「おう」


 と、カートレースゲームを取り出す。


「じゃあさっそくするか」


 と、ゲームを開始する。


「これって一昨日のやつだよね」

「ああ、とはいえあれとは少し感じは違うけどな」

「じゃあ」


 と、ゲームを開始する。


「あ、ゲームセンターのゲームよりも簡単」

「それは良かった」


 事実、ゲーセンのあれは俺でも結構ぶつかるしな。


「でも結構ぶつかるんだな」

「仕方ないじゃない。女神とは言え完璧じゃないんだから」


 ティアはゲーセンの時よりも上手くやっているとはいえ、八位。十二人中八位だ。順位は良くない。それに前回同様、いいアイテムはたいして取れていないみたいだ。


「いや、なんで後ろの人たちのほうがいいアイテム取るの? なんで? 私はくそみたいなアイテムしか取れないのに」


 思った通り、ティアはテンションが上がると子どもっぽくなるようだ。


「じゃあ別のゲームやるか?」

「いや、もうちょっと頑張ってみる」


 と、数試合やる。


「お前全然だめじゃん」

「そんなはずじゃなかったのだけどなあ」


 と、ティアは考え込む。


 俺には何も言えない。ティアの運が絶望的すぎる。その一言なのだ。イメージ的に女神は運がいいというイメージがある。なのに、ティアは……


 俺にできることはティアが満足するまでやることだけだ!


「ティアが勝てるまでやろうぜ。運の悪さは実力で何とか出来るだろうし」

「うん!」


 と、次のレースが開始される。



「やった! 1位! 雅夫さんに勝てた!」


 ティアが勝てたのはその七試合後だった。呑み込みが早く、適応も早かった。そのおかげでそろそろ飽きてきていたこのゲームにも、なんとか区切りがつけそうだ。

 というのも俺はこのゲームは得意だからずっと一位だったからというのもある。


「じゃあ次何します? おすすめのゲームとかある?」

「おすすめと言われたらこれかなあ」


 と、バトルゲームを見せた。これはシンプルな格闘ゲームだ。これは運要素とかはないし、ティアにも楽しめるだろう。


「じゃ早速やろー!」


 と、二人でそれぞれキャラを選んだ。使用するキャラによって技とか、テクニックとかが違うのだ。なのである意味自分に適したキャラを使うのがいいと言えるのだ。


「じゃあこのキャラ使う」


 と、筋肉ムキムキのキャラだ。確かあんまり強くなかった気がするが、まあ言わないでおこう。個人の選択が大事なんだから。


「じゃあ俺はこれで」


 と、イケメンのキャラを選んだ。まあ強さは普通くらいだ。……と言うかこのゲームはある程度の強さがあれば後は使い手次第だし。


「じゃあファイト!」


 と、ティアが言ってバトルが始まった。ティアは最初から「えいえいえい」って攻めまくって、俺がそれを受け流すというゲーム展開になった。互角の状況だが、俺のカウンター攻撃がじわじわと入っているので、こちらが若干ダメージレース的に押している。


「なんか受けてばっかりじゃない?」


 と、そう指摘された。事実だ。だが、こういうキャラだから仕方がない。


「とはいえ俺の方がダメージを受けてないんだけどなあ」

「それは……なんか逃げてるからでしょ」


 とバトルは続く。とはいえ俺は卑怯と言われてもこの戦法をやめる気はない。これで勝てるのならこれがいいし。


 そしてその後俺の必殺技で見事にKOした。俺の勝ちだ。


「そのキャラ封印で!」


 と、別のキャラを使ってやった。


「そのキャラも封印で!」


 そして数試合やったが、結局ティアは俺に勝てなかった。


「悔しい……」


 ティアは俺のベッドの枕を抱きながらそう言った。少しやりすぎてしまったかもしれない。


「じゃあ次は女神パワー全開でやります」

「は?」


 と、次の試合、俺のキャラが攻撃したら俺のキャラが見事に吹き飛んだ。こんなことは普通ないのに。


「女神パワー万能かよ」

「勝てればいいんだよ!」


 都にかっと笑った。だが……


「それで楽しいのか?」

「全然」

「楽しくないのかよ」

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