女神様との日々
有原優
第1話
俺はこの町に住む、高塚雅夫一七歳で、今日もいつも通り学校に行く……そのはずだった。
ところが、崖のふもとに、謎の美少女が現れ、
「君は何を望む?」
と、俺に話しかけてきた。他の誰にでもなく、俺に。
その子は銀の長い髪の毛を持っており、その長さは、二の腕の当たりまであった。
しかし、何を言っているのか、まったくわからない。
俺はこいつを助けたわけでも、なんかフラグを立てたわけでも無い。まあ単なる中二病の子かもしれないけど。
「急になんですか?」
そう聞いた。
そもそも俺には時間がないのだ。今は八時二〇分、ギリギリではないが、これ以上話していると学校に遅刻してしまう可能性がある。出来るだけ手短に済ましたいところだ。
「君は運命を信じるかい?」
そんな事を考えていると、さらに意味の分からないことを言われた。
本当に全く意味がわからない。急に出てきて運命とはなんだ。
「私と君が会ったのも一種の運命とは思わないか? 雅夫くん」
「なぜ俺の名前を知っているんですか?」
「これも運命だよ。私が君の名前を知っているのも運命、私と君が出会ったことも運命、全てが運命なの」
意味がわからないし、そもそも回答になっていない気がする。だんだん怖くなってきた。
「まあいいわ。とりあえず望みを教えて」
望みはある、学校でぼっちなのだ。まあ、それで気が済むのなら言ってもいいか。
「学校で友達が欲しいです」
まあ、どうせ叶わないだろうけど。
「いいわよ、その願い叶えてあげる」
そう言って、彼女はその場から消えた。
なんだったんだ? いったい。
「今日は転校生を紹介する。長谷川真里さんだ」
俺はその転校生の顔を見て目を疑った。さっきの美少女と全く同じ顔なのだ。
「席は高塚の隣が空いているな」
それを聞いて、隣の席を見た。見事に一つ空き机があったのだ。
だが、元々後ろの列は奇数列しか机が置かれてなかったはずだ。現に後ろの席はあの空き机を含めても四つしかない。
「よろしくね、雅夫くん」
「あ、ああ」
あとで問い詰めてやろう。
そして授業が始まってのち……
「ねえ、私わからないところがあるの。教えて?」
彼女は教科書の練習問題を指差す。友達を作るという望みを叶えているのだろう。別に俺は女子の友達がいいとは言っていないのだが。
「ああ、この問題は、公式に代入したらいけるよ」
と、ノートに簡単な計算式を書いて、彼女に教える。
「なるほど、雅夫くん、賢いんだね」
賢くはない。この程度の問題は誰でもできる。
「それにしても、まさかこういう形で望みを叶えてくれるとは思ってなかった」
「まあね。しかもどうよ! ただの友達じゃなく、この美少女よ。周りの人も羨ましがってるわよ」
「自分で美少女って言うなよ」
「私は美少女だよ。あなたもそう思っているし」
なるほど全て俺の脳内はお見通しというわけか。
「てか、周りの人に譲ってあげたほうがいいかな?」
「なんで?」
「だってみんなお前と話したそうだし」
「そうじゃ無いよ。みんな初めて見るものに敏感なだけ。私にはそこまでの魅力はないよ」
「嘘つけ、過度な謙遜は他人の怒りを買うぞ」
クラスの中でも少なくとも三本の指には入ると思う。まあ俺からしたら一番だけど。
「はーい」
「でだ、なんで俺の前に現れたんだ?」
「だから運命よ。私がたまたま目を覚まして最初に目に映ったのが貴方だったの」
「ふーん」
目を覚ました。やはりこいつのいうことはわからん。
「そういえば、もし俺がお前のことを友達とみなさなかったら俺の望みを叶えたとはいえないぞ」
「ああ、まあそれはそれで別の望みを叶えるだけだから」
「至れり尽せりかよ」
「そうね、それにこれは私にもメリットのある話なの」
「メリットのある話だ?」
「そう、私は下界の暮らしを味わってみたかったの。それであなたに声をかけたわけ」
「だから運命って言っていたのか」
「そういうことね。だから感謝してるのよ。自然な流れで学校に通えたわ」
「自然な流れなのかな」
机の配置が変わっていたことから考えるとそうは思えない。
「まあでも仲良くしましょ!」
「そうだな」
そして俺の学校生活は変わったのだが……それはいいことだけではないようだ。さすがに鈍感な俺でもわかる。周りの人の視線が痛い。普通に痛い。よくもこんな可愛い子とか思ってそうな感じだ。
「大丈夫よ、視線なんて気にしなくていいわ」
「おい、俺の心を読むな」
「心を読まなくてもわかるわよ。あなたが周りを気にしていることは」
「まいったな」
そんなにまるわかりだったのか。なんだか恥ずかしいな。
「ふふ、まあそれはいいとして、私やりたいことがいっぱいあるのよね。このあと付き合ってよ」
「分かった。どうせ暇だし」
「よし!」
「ガッツポーズすんな」
放課後
「さてと、どこに行きたいんだ?」
「ここです!」
そこにあったのはゲームセンターだった。
「ここかよ!」
「ダメなの?」
「いや、意外だなと思って」
「なんで?」
「いやー、女神様が行きたいところがゲーセンなんだなって」
ゲームセンターが下賤とかそういう事ではないが、やはり、子どもがよくいく場所だ。女神が遊ぶイメージなど全くない。
「イメージが違うってことかしら?」
「ああ、もっと高貴な場所の方が好きなんだと」
「別に私は高貴そうな場所も好きですよ。というかそれはゲームセンターの方に悪く無いですか?」
「悪くはねえだろ。その人たちもそんなことは元から考えてるだろ」
元々子どもギャンブルみたいなゲームとかもあるし。
「そういうものですかね」
「分からんけど」
そんなことを話しながら、ゲームセンターに向かって歩いていく。
「あーほら見てくださいこんなにすごいゲーム機がありますよ。クレーンゲームも太鼓ゲームも、こんなにすごいゲームがたくさん!」
「知らなかったのかよ」
「はい! 本でしか呼んだことありません」
天界にも本とかあるんだ。なんか下界図鑑とかそう言うのがあるのかな?
「まというかお前お金持ってんのか?」
「お金は創造したらいいんですよ。むん!」
そして真里の手の中から一万円札が十二枚出た。
「それ、偽札じゃね?」
「大丈夫です。バレませんから」
「女神が偽札作って大丈夫なのか? なんか道徳的に」
「あちらの人たちは気にしませんよ。そんなことでは。それよりも人間が真面目すぎるんですよ」
なるほどなあ。つまり、天界にはそこまで法というか、なんかこう、良いことをしようなんていうのは無いみたいだ。とはいえ、偽札を作るのはいかがなものだと思うが。
「それよりも早くゲームしましょう」
「おう」
そして俺たちは中へと入っていく。
「まずは何をやりたいんだ?」
「これですね! メダルゲーム!」
「それ、絶対女神がやるやつじゃねえぞ」
子どもギャンブルみたいなやつだしな。一番女神からかけ離れてる気がする。
「いいじゃないですか。私夢だったんですよ。こうしてやることが」
「苦労したんだな」
「はい!」
そして真里は偽札を両替して得た硬貨を入れる。二枚ずつ、ガンガンと。
「もっと行きますよ!」
真里はさらにコインを投入する。
「よし、もっともっと!」
さらにさらに投入する。
こんなに笑顔でメダルを投入する女神がいていいものか。
「もっともっと」
あれ?
「よし! もっともっと」
全然ルーレット当たってなくね。あれの当たる確率は低いとは言え、さすがにここまで外すのはおかしい。それにもうメダルが三分の一くらい減っている。
「なあ、真里」
「なに?」
「全然当たってなくねえか」
「そうですかね、私は楽しいからいいけど」
そうか、こいつは当たらなくても楽しいぐらいメダルゲームを楽しみにしてたんだな。
「はいはいはいはい!」
というかいつまでやるんだ? まさか本気でこの数のメダルを無くそうとしているのか。まさかここまでメダルゲーム中毒だったとは。
「なあ、俺別のところに行っていいか?」
「あれ、友達欲しいんじゃなかったんですか?」
「それとこれとは違うから」
「えー、本当にですか? 私、あの望みを反故してもいいんですよ」
「それが女神のやることか」
「実は女神は悪い子なんです。話し相手になってください」
くそ、ずるいなあ。俺だってこんな可愛い人と友達になれて、気持ちは高揚しているのに。
「でもお前、それ楽しいのか?」
見た感じ、やはり全然当たっているようには見えない。
「楽しいですよ。当たり前です。天界にはこんな面白いゲームは無いんです」
「でも、運悪すぎないか?」
「仕方ありませんよ。でもすぐに運の振り返りはくるはずですから!」
「お前、頑張れ」
俺はそう言って無言で見ている。スマホを触ってもいいのだが、せっかく人といるのだ。あんまり触りたくは無い。
「飽きたー!」
彼女は大声で叫び、周りの人がこっちを見る。なんかすみません。
「ようやく飽きたか」
「飽きたよ。別のやろー」
「うん」
てか最初のあのキャラはどこに行ったんだ。
「このゲーム!」
そこにあったのはカーレースゲームだった。
「これも天界からか見ててやりたかったんだ」
「ならやるか! 言っとくが俺は強いぞ」
「そうなの?」
「結構やり込んでいるからな」
「それを言ったら私も強いかな、天界から見てて想像でやってたから」
「想像と現実は違うぞ」
「違うくないよ」
そしてゲームを始める。
「あう」
彼女は余裕で最下位になってしまった。ちなみに俺はダントツ一位だ。
「なんでこんなにむずいの?」
ゲーセンに置いてあるゲームは普通にゲーム機でやるゲームよりもかなりむずい。 それに一発逆転のアイテムもあんまり無いのだ。まあ彼女の場合、不幸でそれさえも引けないだろうがな。
「無理!」
五回やったのだが、結局このゲームは三周回ったらクリアなのだが、俺が三週回るまでに彼女は二周しか出来なかったのだ。
「もうこのゲームやだ」
と、彼女はその場でうずくまる。
「じゃあ、家に別のゲームあるから今度持っていくわ」
このゲームより簡単なやつもあるし。
「良いの?」
「ああ」
「なら次はこれやろう!」
「それは太鼓の名人か?」
「うん!」
そして俺は百円を入れる。
「てか、曲知っているのか?」
「知らない。でもこれ行っとこう!」
「なるほど……この曲か」
彼女が選んだのは、ボーカロイドだった。こういう曲知ってるのか、意外だな。
「知ってる?」
「ああ、大体はな」
そして太鼓を叩き始める。
「たのしーい!」
「それは良かったな」
「うん! 下界に来て良かった!」
「でも会話だけじゃなく、太鼓の方にも集中しろよ」
もちろん太鼓の事だ。
「分かってる! えい!」
と、彼女は叩きまくる。
「いい感じじゃん」
「当たり前よ。私は女神様なんだから」
「そうか」
だが、初めてとは思えないほど上手に叩く彼女に軽く見とれてしまう。女神だから当然と言えば当然なのだが、美女だ。かわいい。
「もう十分かな」
一時間後、彼女はそう言った。
「もう十分遊んだのか?」
「ええ、十分遊んだわ。楽しかった」
「それは何よりだ」
彼女の顔を見たら楽しかったことがよくわかる。それだけで、人間の俺としてはうれしいことだ。
「ならまた明日ね」
そんな中、彼女が帰ろうとした。そんな彼女を「待ってくれ!」と呼び止めた。まだ言いたいことがあったのだ。そして、
「君が友達になってくれたおかげで助かった。ありがとう! これから楽しくなりそうだ」
そう言った。やはり人と会話する機会のない俺にとっては友達が出来たことは何よりもうれしいことだ。感謝は伝えなければ。
「それはこっちのセリフよ。下界のノウハウとか分からないから、ゲームセンターを案内してくれて助かったわ。ありがとう」
「俺はあんまり案内したつもりはないけどな」
「いやでも助かったわ、WINWINだね!」
そう言って彼女はいい笑顔を見せてくれた。これだけで、うれしい。
「じゃあ今日も遅いし、また明日」
「ええ、また明日!」
そしてその場は解散した。これからは学校も少しは楽しくなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます