小悪党のネタキャラで幕を閉じる有力貴族の落ちこぼれに転生した俺は、ゲーム知識で暗躍する

@Shititentaiki

第1話

「オラァ!俺の魔法スキルを喰らえ!雑魚!!」


「う、うわぁ!!」


僕の背中に、突風が襲いかかる。その衝撃で、頭を岩にぶつけ、僕の意識は暗転する。


ここは……どこだ?


暗闇の中で、脳裏によぎる数々の思い出。

それは前世での日本人としての記憶だった。

そこで見聞きした中でも、とびきりハマっていた、スキルが全ての基盤となるゲーム、大樹のスキルツリーの記憶を鮮明に思い出す。

今の僕、ゲーム屈指のネタキャラとして扱われる、貴族の端くれの雑魚の小悪党、ガイウス・エヌフォードじゃん。

このままいけば、実力至上主義の家から追放された挙句、食うに困って悪党の下っ端になって主人公に必ず殺されるんだったよな……。

今の年齢は五歳。幸い、追放される十歳までまだ時間がある。

僕のこの知識が本物なら、なんとかなる、いや、どこまでも上り詰められるかもしれない。


やれるだけやってみるか……。


僕の意識は、再び浮上する。


「い、いてて……」


目を覚ますと、先程の岩場に頭をぶつけた状態で起き上がった。僕に魔法をぶつけた一つ年上の兄、シルク・エヌフォードは、気を失った僕を放置して家へと戻ったらしい。


家族も心配すらしないほど、僕の立場は低かった。何せ、当家の歴史上で唯一、血統で定まった各貴族の継承魔法スキルすら使うことが出来なかったからだ。


だが、今となってはそんなものどうでもいい。継承魔法スキルが使えなくとも、それより遥かに強力なスキルが、この世には溢れている。

願わくば他にプレイヤーのような存在が居ないことを願うばかりだが、今はとにかく強くなるべきだろう。


「スキル、オープン」


名前 エヌフォード・ガイウス

【スキル】

最下級・我流剣術 (努力値レベル1)

【称号】

<コモン>

不運(バッドステータス付与)

虚弱体質(バッドステータス付与)

<スーパースペシャルレア>

・エヌフォード家の血筋(欠陥により使用不可)

<レジェンド>

可能性の因子(???)

<ユニーク>

異世界人の記憶


「ふむふむ……って、可能性の因子!?これ、元から持ってる確率が低すぎて異常な上に、アイテムの初回生産実績とスキルの初回スキル発現実績どっちかを満たさないと開放されないチート称号じゃん。こいつがあれば全てのスキルの努力値にめちゃくちゃな補正が入るぞ……」


そこで、あることを思い出す。可能性の因子は本人の素質すらも変容させるスキルであり、貴族などの血統スキルの発現を阻害することがあるということを。


「マジか……だからガイウス、僕は貴族継承魔法スキルが使えなかったのか……。そりゃ現地の登場人物がアイテムの初回生産実績かスキルの初回発現実績満たすのは難しいもんな……」


大樹のスキルツリーが人気だった理由は、知識があればどこまでもチートになれて、その上、悪党だらけで厳しい世界だから、ムカつくキャラクターに俺TUEEEEが出来てストレス発散できるという点が主に考えられる。


「こんな恵まれたスタート。ただ俺TUEEEEするだけじゃ多分微妙だよな」


一応この世界にも、上には上が存在する。特に、暗躍している組織や、一部のキャラクターは、時間経過で手に負えないほど強くなったりする。それに、このゲームはまだ発見されていない要素などが無数にあると言われていた。

招待を隠して、表では無能な貴族(ギリギリ追放されない程度に有能)を維持しつつ、裏で自由気ままに動き回る。それくらいがいいかもな。


そう考えた僕は、早速、家に大量に用意されている木の剣を手に取り、素振りする。


「確か、俺が使ってた我流剣術はこんな感じだったかな?」


ゲームで実際にやっていたように、三時間程素振りを続けて、再びスキルを見ると、初級・我流剣術(努力値レベル7)になっていた。


「これ、思っている以上にゲームの知識が役立つかもしれないな」


体はヘトヘトだが、技の冴えはとてつもない速度で成長している。もう既に日が暮れかけていたので、その日は家に戻ることにした。


その様子を瞠目して見ていた騎士団長が、父にかけあっていることも知らずに。


家に戻り、大きなテーブルの一番端っこに座る。僕のご飯は、いつも申し訳程度に具が入った薄味のスープだけだった。

優秀な兄弟は肉やパンなど、とにかく豪勢なものだった。ひとつ上の、先程僕をいじめていたシルク兄さんですら、大きな肉を食べている。

それだけ、弱者には厳しい家だった。


全員が集まり、静かな食事が始まる中、父の鋭い視線を感じる。普段見向きもしない父が、僕を食い入るように見つめている。その目付きはとても息子に向けるものではなく、不快感から、スーパースペシャルレアまで知ることが出来る、鑑定スキルを見ていることが分かった。


「なんだ。何も発現していないじゃないか。無能はいつまでも無能のままか……」


そんな父の独り言を聞き、ほくそ笑む年上の兄や姉達。さすがにレジェンド以上のスキルは鑑定出来ないようで、未だに侮ってくれていることが分かり、僕は内心安堵する。


最後に、優秀な者は褒め、最近停滞しているものは叱責するという、恒例の父の小言が終わると、皆それぞれ退出していった。まあ、僕に至っては小言すら言われないほど期待されていないんだけど。


とりあえず、手っ取り早く明日レジェンドクラスのスキルでも手に入れに行こうかな。

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