勇者という名の呪い

ろぶんすた=森

第1死 始まりの日

 これは俺にとっての呪いであった。

 選ばれし者…、そう言われると特別な感じがするであろう。実際、特別であることは確かだ。しかし、この特別という事は時に不合理な現実を受け入れさせるための方便にもなり得るのだ。


 そうこれは俺の魔王討伐までの伝記…。


 —— ある田舎の教会


 「どうか神よ…、魔族に対抗できる術をお与え下さい。このままでは、我々は破滅を待つのみです…。」

 

 老神父とその横には老いたシスターが一心不乱に神に祈りを捧げている。老いた体には不釣り合いなほど大きな聖書を握っている。


 「なぜ、何もお示しにならないのですか…。どうか神よ…いらっしゃるのであれば我々に道をお示し下さい。」


 神父は大きな本を広げているが、その本の中身は空白であった。全てのページが空白であり、本というより落書き帳にちかい。


 その時、本が光り始めた…。


 「おぉ、神よ!まっておりましたよ!」

 

 本からの眩い光が辺りを包み込む。

 本に文字が書き込まれていく。



 「勇者オルカ。ホーンラビットの巣穴に立ち小便中にホーンラビットに尻の穴を貫かれ倒れ込み、地面に溜まった自分の小便にて溺死。って…ぇ?」


 まるで聖書には似つかわしくない内容が光で書かれたのだ。その内容に神父とシスターは困惑の色を隠せないでいた。


 「オルカってあのバルムンクの倅の…あのかなり変わり者のオルカか?」

 「わかりません…しかし…なんなのですかこの内容は…。」


 二人は顔を合わせて解けるはずもない答えを探し始めたが、次の瞬間には全てを理解した。


 教会の真ん中に大きな光の輪が発生し、光の粒子が集まっていく。

 その光はやがて人の形となり姿を表した。


 「あれ…神父様…ここは?俺って何があったんだ…?」

 「バルムンクの子、オルカで間違いないのか?」

 「神父様、そうです…オルカです。あれ、山に入ったのは覚えてるんだけどなぁ…、なんで教会にいるんだ…。」


 オルカは自身に何が起こったのか理解できていない。しかし、神父たちはその状況を理解した。

 そう…、オルカはズボンを履いていないのだ…。ぱおんがパオンしている。


 「おぉ、オルカ死んでしまうとは情けない…。」

 「ぇ?死んでってなに…ぇ?」


 神父はオルカのぱおんを指差し、聖書に書かれた内容を伝えた。


 「ちょっと待ってくれ…状況が飲み込めない。死んだ…のか?いや生きてるよな…、尻の穴…ぇ…溺死…。」


 オルカは聖書に書かれた内容に困惑したが、なんとなく、その光景を思い出していた…。そう、不意の直腸攻撃に倒れ込んだその瞬間を…。


 「死んだら…その聖書に死亡時の状況が書き込まれて…復活するって事か…。」

 「そのようだ…、オルカよお主は特別な力を授かったようだ。神のお導きにちがいない…。神職であれば皆持っている白紙の聖書に神の言葉が記載されたのだからな。」


 予備の聖書にも同じ内容が記載されていた。俺の死に様は全国の聖書を持つ者たちに知られたのだ…。


 「勇者オルカよ!どうかこの国のために魔王を倒してはくれないか!勇者がここにいると国王様にお知らせせねば。」

 「ちょっと待って…、考えさせて…。」


 オルカは焦りと混乱でいっぱいであった。急に勇者と言われても状況が状況だ。そして、自分の小便で溺死したと皆に知れ渡っている可能性もある。そんなのが知れ渡っていたら、小便勇者とか言われるに違いないそんな事が頭から離れない。


 「オルカよ…勇者になったら、国王様から贅沢させてもらえるぞ。魔王を倒すという使命はあるだろうが…。それを差し引いても破格の対応をしてもらえるだろう。」

 「やります!」


 オルカはめちゃくちゃいい顔で返事をした。

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