第34話

胸の高鳴りをごまかすように他愛もない話をしていると、急に深瀬先輩が何かを思い出したように声をあげた。

「あ、そうだ。さっきの写真、メッセージで送るね。」

言いつつスマホを手早く操作し、私のもとへ先ほど撮った写真が送られてきた。初めて2人で撮った写真。写真の深瀬先輩の顔を見るだけでも緊張するけど、やっぱり嬉しい。口元が緩みながらスマホを眺めていると、突然深瀬先輩が私の耳元でささやいた。

「写真もいいけど、今は一緒にいるんだから俺を見てよ。」

「なっ…!」

不意打ちに耳から体中が熱くなる。きっと私は真っ赤な顔をしているのだろう、深瀬先輩は楽しそうに私を見て笑っている。

「びっくりしましたよ!不意打ちやめてください…。」

「急じゃなければ耳打ちしてもいいの?」

「いや、うーん…。嫌ではないですけど、心の準備が必要と言いますか。」

「あはは、美恋ちゃんは面白いね。かわいい。」

またも私にとっては爆弾発言に顔が沸騰しそうになった。何だか最近の深瀬先輩は意地悪…というかよく私をからかってくる気がする。

「そうやってからかうのは私だけですか?」

ふと気になって聞いてみると、深瀬先輩はにやりと笑った。

「やきもち?」

「だからそういうところですよ!なんなんですかもう~!」

「ごめんごめん。ほら、よく聞くでしょ、好きな子に意地悪しちゃう小学生男子とか。そういう感じなのかも、美恋ちゃんにはなんか意地悪したくなっちゃうんだよね。」

好きな子、という言葉にまんざらでもない。きっとほかの男子にやられたらムカつくだけで終わるけど、深瀬先輩ならなぜか許せてしまう。不思議だ。

私の最寄り駅にもうすぐ着く旨のアナウンスが車内に響いた。荷物の確認をしてから立ち上がる。すると、なぜか深瀬先輩も一緒に立ち上がった。

「深瀬先輩?まだ先ですよね?」

「うん、でもなんか名残惜しくて。改札まで見送らせて?」

意外とかわいいことを言われてドキドキする。

「深瀬先輩がいいのなら…。ありがとうございます。」

電車が駅に到着し、数人の人と共にホームに降りる。手は繋いでいるけど、なぜか深瀬先輩は無言だ。何も言わない深瀬先輩が珍しくて、顔をちらりと見上げてみても、いつもはすぐに気づくのに今回は気づかない。

「深瀬先輩?どうかしましたか?」

思い切って聞いてみると、深瀬先輩が足を止めた。私も歩みを止める。

「あのさ、美恋ちゃん。嫌だったら断ってくれていいんだけど…」

言いづらいことなのか、繋いでいない方の手で口元を隠しながら深瀬先輩が話し始めた。

「キスしてもいいかな?」

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