第30話

「やっぱり何かあったんだ!顔に書いてあるもん!」

小春の鋭い追及にあわてて首を振る。いくら関係を知っている小春にだって言いたくない。私と深瀬先輩だけの秘密だ。

「何もなかったって。2人きりだったからドキドキはしたけどさ。」

何でもない風を装って答える。まだ何か言いたげな小春からの言及を避けるために、半ば強引に話題を変える。

「それより小春はどうなの?前彼氏と会うって言ってたよね。」

「あー、それが聞いてよ。浮気してないかめちゃくちゃ心配されてさ…」

話の種が別に移ったことに内心ほっとしつつ、小春の話に耳を傾けながらその日は帰った。


「美恋ちゃんはゴールデンウィーク、何か予定あるの?」

ゴールデンウィークが明日からに差し迫った今日は、深瀬先輩からメッセージで誘いを受けて一緒に電車に乗って帰っている。

「そうですね、課題やるくらいですかね。特に予定らしい予定はないです。」

「そっか。あのさ、最終日の塾の講習が思ったより早く終わりそうなんだ。もしよかったら、ちょっとだけデートしない?」

デートという言葉に胸が高鳴る。受験が終わる秋頃までお預けだと思っていたからなおさらだ。すぐに返事をする。

「はい!したいです!」

「よかった、急だし予定あったらどうしようかと思ったよ。場所と時間、またあとでメッセージ送るね。」

身体の奥底からワクワクがにじみ出てくる。何を着ていこう、少しメイクもしてみようかな、どこに行くんだろう。そんなことを考えていたら、いつの間にか最寄り駅に着いていた。

「じゃあまた連絡するね。気を付けて。」

「はい!深瀬先輩も講習頑張ってください。」

電車から降りると、楽しみでつい早足になってしまう。油断したらスキップしてしまいそうなくらい私は浮かれていた。

その日の夜、深瀬先輩からメッセージが送られてきた。私と深瀬先輩の最寄り駅の間にある駅に午後3時に集合で、駅ビルにある映画館で映画を見ることになった。

「楽しみ過ぎる…。」

ベッドの上でひとりごちながら、持っていくカバンの吟味をしたり当日のコーデを考えたりする。まだ会ってもいないのに、今から楽しくて仕方がなかった。


(早く着きすぎた…。)

楽しみでいてもたってもいられなくて、待ち合わせ時間の30分前に到着してしまった。さすがに深瀬先輩もまだいないので、待ち合わせ場所の改札前のベンチに腰掛ける。特にすることもないので、手鏡で髪形やメイクのチェックをした後は往来をぼーっと眺めていた。すると、同年代と思わしきカップルが恋人つなぎをして歩いている姿がふと目に入った。

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