第25話

その後の学校までの道のりは深瀬先輩と並んで歩いたけど、かわいい発言の照れが残っていてうまく話すことができなそうで黙っていた。深瀬先輩から話を振ってくることもなく、平然とした顔で隣を歩いている。どうしてあんなことを言っておいて普通の顔ができるのかわからなかった。そういうところも大人で、ずるい。

1人でヤキモキしていると学校に到着し、手分けして家庭科室の冷蔵庫や保管庫に買ってきたものをしまう。

「よし、これで買い出しは終わり!皆今日はお疲れさまでした!」

鈴木先輩の言葉をもって解散となる。今日はこれから他校の彼氏と会うという小春と昇降口で別れ、1人で校門に向かって歩いていると横から声をかけられた。

「美恋ちゃん、今日一緒に帰らない?」

少し息を切らした深瀬先輩が横に立っていた。下校のピークは過ぎていてほかの生徒の姿もあまりないし、今なら一緒に帰っても変に噂にならないはずだ。

「もちろんです!」

「そっか、よかった。駅まで一緒に帰るのは初めてだね。」

「そうですね…。私は少しでも一緒にいられて嬉しいです。」

本音を言ってみるものの、顔が熱くて深瀬先輩の方を見ることができない。慣れないことはするものじゃないな、と思いながら手ですっかり熱を持った頬をあおぐ。

「それは俺も思ってるよ。ただでさえ学年違うとなかなか会えないしね。」

ストレートに本音をぶつけてきても、照れをあまり顔に出すことのない深瀬先輩には最近だと少し不思議ささえ感じる。

(なんで平気な顔して隣を歩けるんですか?私は一緒の空間にいるだけで心臓が爆発しそうなのに。)

絶対に口には出せない思いを胸の内でつぶやきながら見上げていると、深瀬先輩と目が合った。それだけでも心拍数が跳ね上がり、いつもの私でいられない。私ばっかりかき乱されてばかりで少し悔しい。

ジェットコースターのような感情をごまかすために、帰り道は実習の話に花を咲かせることにした。これで少しは考えなくて済む。

「実習、楽しみですけど不器用なので迷惑かけないか心配です…。」

「はは、大丈夫だよ。火加減にさえ気をつければ、あとは混ぜるだけだから。それに、何かあっても俺がフォローするよ。」

「あ、ありがとうございます…。」

何気ない気づかいの言葉さえ、特別な意味なんてないだろうにドキドキしてしまう。せっかく落ち着きかけた心臓の鼓動はさっきよりも早くなってしまった。

「美恋ちゃんがどれくらい不器用なのか楽しみだな。」

そう言って笑う横顔から目が離せなくて、からかわれているのに嫌じゃなくて不思議な気分だ。

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