第22話

「美恋!空き教室行こう!」

買い出し当日の放課後。ホームルームが終わると、すぐさま小春が話しかけてきた。私はうなずきながら小春に引っ張られるようにして空き教室まで着いていく。

昔生徒数が多かった頃に使われていたという人がいない静かな教室に入ると、早速小春はリュックサックから取り出した大きめのポーチの中から色々なものを出していく。

「昨日言ったとおりのことだけするから、目つぶって。まずはパウダーね。」

言われるがまま目をつぶると、顔に何か塗られている感覚がした。石鹸のような香りがする。顔全体にパウダーをはたき終わると、今度は目を開くように言われたので開眼する。

「次はビューラーとマスカラね。これは自分でやった方がいいかも。」

銀色に光るビューラーと透明な液体が輝くクリアマスカラを手渡される。小春のアドバイス通りビューラーをすると、初めてやったもののくるんとまつ毛がカールした。さらにクリアマスカラをすることでまつ毛の存在感が上がった気がする。最後に昨日自分で買った色付きリップを塗ると、ちょっとしたことだけど、すっぴんの時よりかわいくなれたように思える。

スマホの内カメラで顔の出来に感嘆している私に小春が声をかける。

「美恋、めっちゃかわいくなったよ!メイクもできたし、ラウンジ行こうか。」

教室を出て、ラウンジに向かいながら小春に話しかける。

「小春ありがとう!なんかうまく言えないけど、ちょっとかわいくなれた気がしてすごい嬉しい。」

「気に入ってくれてよかった~!あ、もう深瀬先輩来てるじゃん、話しかけてきなよ?」

ラウンジの椅子に深瀬先輩が座っている後ろ姿が見えた。心拍数が上がるのを感じながら、思い切って話しかける。

「深瀬先輩、お疲れ様です。」

「あ、美恋ちゃん。それに小春ちゃんも。鈴木は今部費取りに行ってるからそのうち来ると思うよ。」

「そうなんですか…。島田君もまだなんですね。」

「そうだね、でもまだ放課後になったばかりだから。待っていればそのうち来るんじゃないかな。2人とも、立ってないで座りなよ?」

深瀬先輩が椅子を引く。厚意に甘えて、私と小春は深瀬先輩と同じテーブルを囲むように座った。

(いつもと違うの、気づいてくれたかな…?)

ちらりと小春と話す深瀬先輩の顔を盗み見る。その顔はいつも通り穏やかな笑みを浮かべていて、特に変化に気づいたようなそぶりはなかった。肩透かしのような気持ちになる。

(まあ、ちょっとしたことだもんね…。気づかないのも仕方ないか。)

そんなことを思いながら少しの間3人で話していると、島田君と鈴木先輩が一緒にラウンジに入ってきた。どうやら途中で会ったらしい。

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