第16話

『今日は本当にありがとう。明日会えるの楽しみにしてるね』

震える指でトークルームを開くと、深瀬先輩からのメッセージが目に入ってドキッとした。何度も打っては消してを繰り返し、何とか納得のいく文章になるまで添削を繰り返したものを送る。

『こちらこそありがとうございました。私も楽しみです』

すぐに既読がつき、返信がくる。

『それだけ伝えたかったんだ。夜にごめんね、おやすみ』

返信と共におやすみスタンプが送られてくる。私もあわてておやすみなさいという持っている中でもかわいらしいイラストのスタンプを返信する。

またすぐに既読がついて、そこでやり取りは終わった。少しの間だったけど、緊張で変な汗をかいた。恋人になってから初めてのメッセージを改めて見返す。合計してもたった数行にしかならないメッセージも特別に感じて嬉しくてニヤニヤしてしまう。私は口元が緩みながらも、忘れないうちに明日の準備を再開した。


「小春、部活行く前に話があるんだけどいいかな?」

昼休みは小春が先生に用事があるとかで時間が取れないままあっという間に放課後になってしまい、2人で家庭科室に向かって歩く最中に私は思い切って声をかけた。

「どうしたの?別にいいよ、なんでも話して~」

ごくりと生唾を飲み込む。関係性を告白するのって、こんなに緊張するのか。初めての経験だ。

「あのね、昨日、深瀬先輩に告白して付き合えることになった。」

私の言葉を聞いた小春は目を見開いたと思ったらすぐに破顔した。そして興奮気味に抱きついてくる。

「え~!おめでとう!すごい、よかったね!」

自分のことのように喜んでくれる姿を見て、思わず私の口もほころぶ。打ち明けたことで心が軽くなった私は、昨日の経緯を歩きながら話していると、家庭科室の前に着いたため、最後に念押しで声を潜めて小春に告げる。

「小春にしか言ってないから。絶対内緒にしてね?」

「もちろん!墓場まで持ってくよ!」

ドヤ顔をした小春は笑って家庭科室に先に入る。中にはすでに鈴木先輩など数人の先輩の姿があったけど、深瀬先輩の姿は見当たらなかった。

「こんにちは!」

まだ来ていないのかと少しがっかりしていると、後ろから大きな挨拶の声が聞こえたため思わず小春と共に振り返る。声の主は島田君で、相変わらず快活に笑っていた。そしてその後ろには深瀬先輩の姿が見えた。

「島田君と深瀬先輩!一緒だったんですか?」

小春の問いに深瀬先輩が答える。

「来る途中の渡り廊下で偶然会ってね。有君、元気だからこっちまでパワーもらえそうだよ。」

言いながら笑う深瀬先輩は、昨日よりまぶしく見える。どうしても意識してしまい、私はまっすぐ見ることができなかった。

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