第14話

2人の間に沈黙が流れる。間が持たなくて、自分の足先に目線を落としていると沈黙を破ったのは深瀬先輩の方だった。

「今日待ってたのは、昨日言ってたことについて聞きたかったんだ。」

反射的に深瀬先輩の顔を見ると、西日に照らされた端正な顔は固い表情をしていた。言い訳をしたくなる弱虫な自分をぐっと抑え、深瀬先輩の言葉の続きを待つ。

「あの言い方だと、俺は正直期待しちゃう。美恋ちゃんの思ってること、気持ちが知りたいんだ。」

まっすぐ深瀬先輩が私を見つめて言ってくる。心臓の鼓動が早くなって、息がうまくできないような錯覚に襲われるほどドキドキしている。

こんなに真剣に向き合ってくれている深瀬先輩に嘘はつきたくない。緊張で手汗が吹き出る手でぎゅっと拳をつくり、緊張のあまり下を向いていたけど深瀬先輩の方に改めて向き直った。意を決してカラカラの口を開く。

「わ、私は…」

ドキドキしすぎてうまく口が動かない。もどかしい気分になりながらも、言い切るために少し早口で言葉を放った。

「私は、深瀬先輩が好きです。」

私の言葉を聞いた深瀬先輩は、その大きな瞳をさらに見開いた。その後目を細め、口角が上がって綺麗な歯並びが見えた。

「俺も。俺も、美恋ちゃんが好き。一目ぼれなんだ。」

深瀬先輩の長い両腕が私の背中に回る。想いが伝わった喜びと深瀬先輩に抱きしめられている驚きで私の体は沸騰しそうだった。

深瀬先輩が私から離れると、轟音と共にホームに電車が滑り込んできた。ここがホームだということを忘れていた。誰かに見られていないか、羞恥心で顔がまた熱くなる。ドアが開き、数人の乗客が出てきて皆ホームから改札へと上がる階段やエレベーターに吸い込まれていく。その間も、私は隣に座る深瀬先輩の横顔から目を離せずにいた。

電車が再び発車し、遠ざかっていき音さえ聞こえなくなってから深瀬先輩は口を開いた。

「場所も考えずに、急に抱きしめてごめんね。嬉しすぎて。」

珍しく耳まで赤くなっている。普段はあまり顔色が変わらず、いつも笑顔の深瀬先輩の変化にかわいいだなんて思ってしまった。

「深瀬先輩なら大丈夫です、嬉しいので。」

「そう?嫌なことは嫌って言ってね。」

まだ余韻で照れているのか、深瀬先輩は手で口元を隠したままあまり私の方を見ようとしない。それにつられて私も今更ながら照れてしまう。

「次の電車が来たら、帰ろうかな。」

深瀬先輩のつぶやきに、私はホームにある電光掲示板に目をやる。次の電車は15分後だ。

「それまで、一緒にいてもいいですか?」

「もちろん。もう少し一緒にいたいし。」

甘えるような深瀬先輩の声にまた心臓の動きが激しくなった。

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