結婚するまで包丁も使った事なかった夫が料理好きになった話

杉後 佳

第1話 馴れ初め的な

付き合い始めた頃

「俺んちくる?」

と誘われて行ったのは、かれこれ十八年前

元々飲み友達だったから、会うのは夕方から。


アパートの部屋の扉に鍵を差し込みながら

「あ、あれこれ部屋片付けるとかしないでね。あんまり好きじゃないんだよね、そういうの」

そう言われて、私はコクンと頷いた。


正直ホッとした。


女だからと、片付けや料理を率先してやらなくちゃ…とか面倒くさい。ドラマとかである、初めて行った彼氏の家で

「何か作ろうか?キッチン借りるね♪」

とか、朝から置きっぱなしだろう食器を、そそくさと洗ったりとか、【良い女】【気が利く女】アピール、すんごい面倒くさい。


「お邪魔しまーす」

と、部屋に上がると、割と片付いてる。

綺麗すぎなくて良い感じ。あんまり綺麗だと気使うし、落ち着かないのは私だけ?


買ってきた缶コーヒーを飲みながら、他愛のない話で笑い

「そろそろ行くか!」

と立ち上がる。

「まって、コーヒー全部飲んじゃうから」

と、私は残りを一気に飲んだ。


「あーお腹空いたーー、どこ行こうかー」

「大むら?田んぼ?扇屋?」

「たまには渋澤もいーなー」

食べに、と言うより飲みに行く店を決めながら歩き始める。

「一番近い大むらから行こう!」

と私は張り切って前を歩いて行く。


結局、大むら行ってから、梯子して扇屋行って

ご機嫌にアパートに戻った。

「私、お腹空いたー」

「飲んでばっかで、食べないからだよ。何か作るよ」

と、彼は冷凍庫を開ける。

「うわー!冷食のご飯いっぱいだねー」

まるで、電気屋の家電売り場に並んでる冷蔵庫の中のようだった。

もちろん、電気屋の冷凍庫の扉を開けても冷食は入ってないが、イメージしやすいようにとズラーッと冷食が並んだ写真が入ってるのだ。

「料理は出来ないからさー、でも最近の冷食は以外と美味しいんだよ」

とピラフを取り出すと、慣れた手つきでレンチンした。


それから一ヶ月後。


「会社の健康診断でさ、コレステロール値が異常に高くて、社医から『このままだと、割とすぐ死ぬよ?』って言われたんだよ」

「なんで、そんなに値が高かったの?何か原因は?飲み過ぎ?食べすぎ?」

と聞くと

「どうやら、冷食が原因らしい。毎日食べてるって話したら、今日から止めるよーに言われた」


それからは、宅飲みメインにするようにした。

二人とも魚好きで、焼き鳥以外で肉料理はあまり食べなかったから、刺身や煮魚、焼き魚と、時々お肉にしたら、翌年の健康診断では、見事コレステロール値は標準に下がり、善玉コレステロールが爆上がりして社医も驚いていたそうだ。


食べ物の好みも、酒の飲み方も、家での過ごし方も、そんなに変わらない私達は、付き合って一年くらいで、結婚した。


特に素敵なプロポーズとかはなく。


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