お食事をご用意

 翌朝クルックスよりも早く目が覚めたフラシアスは皆を杖でたたき起こして言った。


「満腹作戦開始じゃ! 見目良く晴れおったわ! こりゃ食いつくぞ」


 昨夜の残りのスープを朝食にとった後、煌きミミズを四袋に分け、フランク以外のそれぞれが持つ。


「マッシュと真珠嬢ちゃんはフランクと一緒に大陸の方へ戻ってくれ。飛行部隊のわしとクルックスは灯台まで戻って飛びながら餌を撒いて、島亀を大陸側へ誘導していくでな。久しぶりの長飛行じゃ! いけるかのぅ」


「先生! やっていただかなければ困ります!」


 そう言ってマッシュはフラシアスの蝶ネクタイを整えた。


 フランクたちに一時の別れを告げて、フラシアスとクルックスは飛んでいった。灯台付近まで戻った後、岩崖を降りていき、島亀の頭付近で餌を少し撒いた。投げ込んだ煌きミミズは、期待どおりにキラキラと煌めきながら海へと沈んでいく。ばたつき煌めきながら沈むミミズに魚たちが反応し、早速集まり始めた。島亀が体を揺らす。


「いい感じですね! ミミズを節約しながら移動しましょう!」


 クルックスとフラシアスが大陸側―東の方角へ―フランクの体ひとつ分ほど移動してから再び餌を撒くと、島亀が目指す方向を定めて転回し、大きく動き始めたのがわかった。


「よし! いけそうじゃ!」


 島の鳥たちが驚き、空へと逃げ出し始める。


 一方フランクは、マッシュと真珠を乗せて、来た経路を東へ戻り大陸の西端で二人を降ろした。


「じゃあぼくも行ってくるね!」


 フランクは西へ向かう。丁度島亀がいた位置から大陸までの距離の、半分ほどの位置で海に潜った。海流を起こして大量の魚群を大陸と島亀の間に追い込む。


「そろそろね!」


 フランクが海に潜ったのを合図に、マッシュと真珠は岸崖の上から餌を撒き、魚群を集め始める。


 フラシアスとクルックスは飛び回りながら上手に餌を撒き、徐々に亀を東の大陸の方角へと誘導していた。島亀は誘導されていることなど気にも留めない様子で、夢中で魚たちに喰らいついている。


 大陸へ半分ほど近づくと、フランクが追い込んだ大量の魚の群れに気づいた島亀は目の色を変え、加速度的に食べるスピードを上げた。


 魚群は一直線に大陸へと向かっている。さらに島亀の動きと揺れが大きくなり、島亀に生息していた鳥たちが今や完全に森や林から飛び立って、いくつもの群れとなり様子を窺うように上空をはばたいている。すごい数だ。


「もう一息じゃ!」


 島亀がものすごい勢いでフランクの方へ向かってくる。大陸はもうすぐそこだ! フランクは海から上がってクルックスとフラシアスを乗せ、大陸の東端に向かった!


 全員が合流する。


「ポポォーゥ。わたくし疲れましたです!」

「よぅ頑張ったの! わしももうヘロヘロじゃ!」

「みんな! お疲れさま! こっちも餌が切れたわ!」

「しかしフラシアス先生! このまま島亀が魚を食べ尽くして眠ってしまうと、灯台の位置が東西あべこべになってしまうのでは?」


 マッシュは一人、先生に不安をぶつけた。灯台の向きが変わってしまうのも大変だが、パット先生の地図が変わってしまうのも一大事だ。


「ほっほ。なに、心配要らぬよ。あやつが眠りに入る時は、どうやら尻を大陸に突っ込んで眠るらしい。あやつらにとっては大地など掛け布団のようなもんなんじゃろ?」


 一同が見守る中、島亀はまだ岸壁付近の魚群を食べている。その勢いは止まらない。


「足りるかなー? 眠ってくれなかったらどうしよう」


 フランクが不安げに海を覗く。


「やれることはやったんだ、大丈夫! 後は信じるだけだ!」


 しばらくすると島亀の動きが鈍く、緩やかになってきた。


「いよいよかの!?」


 フラシアスが待ちかねたようにそう言うと、島亀は突然体を転回させお尻を大地にねじ込み始めた。ものすごい海流が渦を巻き、大陸側も大きな地震を起こし始める。島亀を見つめるマッシュたちの遠く後方へまでも、その巨大な地震の揺れは波打つように伝わっていく。


 一際大きな揺れを最後にもう一度起こして、島亀は完全に沈黙した。


 上空を群れなしていた鳥たちが一羽、また一羽と島亀に降りていく。揺れは完全に静まったようだ。海にはまだ煌きミミズに集まった魚群が残っていた。もう島亀が魚群を食べている様子はない。


 島亀は完全に沈黙し、再び長い長い眠りへついた。


「皆よう頑張ってくれたの。礼を言うぞ、これで漁師たちの船も道に迷う心配もなくなる。伝説がひとつ増えたのぅ」


 次にパット先生に会った時、どんな風に今日のことを話そうか!


 マッシュの頭の中はそれで一杯になった。


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