転生したらゾンビだったので人間目指して種族進化しまくります 〜魔物を食べて別種族へ、ミイラにリッチ、ドラゴンまで!?〜

黒井カラス

第1話 転生ゾンビ

 目が覚めると見知らぬ場所にいた。

 暗くてジメジメしていて、どこだ? ここ。

 たしか昨日は仕事が片付かなくて会社に泊まったはず。何連勤だっけ? 

 まぁ、いいか。会社に戻らないと。

 

 足腰に力を入れて立ち上がる頃には暗さにも目が慣れて、周囲の状況も鮮明に見えてくる。

 周囲は岩肌に囲まれている。洞窟か? いや、それより――


「なんだよ、これ」


 身の毛もよだつような凄惨な光景がある。

 暗闇の中で一目みて死体だとわかる人が大量に横たわっていた。


「なんで、こんな」


 咄嗟に手の平を広げて死体に重ねて見ないようにした。

 けど、そのせいで自分に起こった異変に気づいてしまう。


「俺の手――」


 腐っていた。

 変色し、溶け、崩れ、骨すら見えている。腕も、足も、体も、全身が腐り果てていた。


「あ……ああぁあぁあぁあぁああ!」


 現実を受け入れられず、ただ叫ぶことしか出来ない。心の底から、腹の底から声を出し、それは長く響き続けた。


「俺は一体……どうすれば」


 力が抜けたようにフラついて、すぐ後ろの壁にもたれ掛かる。ゴツゴツした岩肌も痛いはずなのに、何も感じない。

 どうなってるんだよ、この体は。


「ん?」


 ふと、壁に傷のような物があることに気づく。よくよく見てみると、それは誰かからのメッセージだった。


 〝魔物を食って人間を目指せ。〟


「魔物?」


 モンスターのことか?

 そんなのが存在するのか? って疑問は今更か。認めたくはないけど、どう考えても俺自身がゾンビというモンスターだし。


「とにかく、食えば人間に戻れるんだな?」


 このメッセージだけが一縷の望み。


「やってやる。ゾンビから人間に!」


 かくしてゾンビに転生した俺は、人間に戻るために魔物を食うことになった。


§


 ゾンビもたぶん魔物である。

 だからと言って、側に横たわっている死体を食う気にはなれず、その辺を軽く歩いてみることに。

 このことのメリットは多分にあった。

 ゾンビとしての本能なのか、足を動かすたび思い出すように、種としての知識が脳内に溢れ出してくる。


「なるほど……」


 魔物はそれぞれスキルと呼ばれる能力を持ち、それを駆使して狩りを行う生き物だ。

 ゾンビのスキルは【狂食】俺が人間に戻るために必要不可欠なもの。

 この【狂食】によって魔物を食うと、俺は種族を越えて進化することができる。

 どんな進化先になるかわからないけど、進化を重ねればいつかは人間を引き当てられるはず。

 問題は魔物の中でもゾンビは弱い部類だということだ。


「それでもっ!」


 絶対に人間に戻ってやる。

 そう改めて決意を固めた所で、この洞窟の奥から音が響いてきた。

 生き物の鳴き声のようなものだ。


「ついに来たか」


 通路の真ん中で身構えていると、暗闇から魔物がゆっくりと現れた。

 輪郭がはっきりとし、種族の判別がつく。

 ゾンビの本能が教えてくれた。

 火の吐息、燃える毛並み、スラリとした体躯。四つ脚の火獣、ヘルハウンドだ。


「ヤバいかも」


 ゾンビの本能が告げている。

 ヘルハウンドには勝てないと。

 アンデッドは総じて火に弱く、魔物としての格もあちらが上。こちらは万に一つも勝ち目がない。

 だか、逃げようにも犬の足に勝てる自信はなかった。


「くそッ!」


 ヘルハウンドが首を振るう。

 それは火炎を吐く予備動作。

 即座に後ろに下がると、眼の前が真っ赤に染まった。

 追い縋る灼熱が手足を焦がし、だがそれだけで済む。

 即座に回避に搖いたのが功を奏した。まだ殺されてない。手足は焼けたがゾンビに痛覚はないから問題ない。まだ動ける。

 勝負は、この視界を覆う炎が消えた時だ。


「今ッ」


 ヘルハウンドが火炎を吐き終わった瞬間を見計らって駆け出した。

 岩肌の地面が熱せられて鉄板のようになっているが関係ない。足の焼ける音を響かせながら詰め寄り、至近距離へ。

 ヘルハウンドは新たに火炎を吐こうとはせず、その牙を振るう。

 迫りくるそれに対しては左腕を差し出すことで対処した。


「痛――くないッ」


 左腕に噛み付いたことで、ヘルハウンドの位置が固定された。これでもうこちらの攻撃は避けられない。

 繰り出すのは、ゾンビが唯一身に着けている攻撃スキル【死爪】だ。

 右手の爪が魔力を纏い、ヘルハウンドの無防備な首筋に深々と突き刺さる。

 痛みに悶えたヘルハウンドはすぐに左腕から牙を抜いて俺から距離を取るもすでに遅い。

 致命傷を負ったヘルハウンドは口腔に火炎を溜めたまま、こちらを睨み付けながら死に至る。


「な、なんとかなった……」


 死物狂いでヘルハウンドを殺した。

 初めて自分より大きな生き物を。


「死んでもまだ燃えてる」


 命尽きても毛並みはまだ燃え尽きず。けれど、火力は徐々に弱くなっているようで、暫く待つことにした。

 それからすこし立って、完全に鎮火したタイミングでヘルハウンドを食べることにした。

 力任せに毛皮を剥ぐと、自らの炎で焼けた肉が顔を除かせる。

 いい匂いがした。


「いただきます」


 スキル【狂食】を発動。その瞬間、食べることしか考えられなくなった。

 腹が減った。肉。美味い。

 これらのことが繰り返し、ぐるぐると頭の中を巡り、気がつけば自分より大きなヘルハウンドを骨だけにしていた。


「内臓も食ったのか……」


 一心不乱に貪り喰っていたから、区別がつかなかったんだろう。

 それくらいこのスキルは食に没頭してしまうらしい。今はいいけど、使いどころは考えないとな。


「ごちそうさま……ふぅ」


 腹が満ちて一息をつく。

 すると、自分の吐息が発火した。


「うわっ!? ……これってヘルハウンドの」


 ヘルハウンドを食ったことで、そのスキルを獲得した?

 これなら、これならこの先も戦い抜けるかも知れない。



――――――――――

 


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