人を信じられなくなったボッチの住むマンションには救いの手を差し伸べる天使がいた。でも、彼女との偶然の出会いは、姉により計画されたものだとは思わなかった
楽園
第1話 お一人様
俺―柏葉幸人は一人が好きだ。一人で行動すると行きたいところは、どこへでも行けるし、他人に気兼ねなく楽しむ事ができる。
ヒトカラ、一人映画、一人ユニバなんかも、難しい事ではない。要は他人の目なんて気にしなければいいのだ。
今の世の中、他人とつるむ方が面倒くさい。俺は中学の時から他人に話しかけたりしないし、他人から話しかけられても仲良くなったりはしなかった。
あの人、寂しそうと思われることはあっても、そんなの他人の評価だけだ。
高校生活もお一人様を満喫するぞ、と俺は意気揚々と霞ヶ丘高校の正門をくぐった。
俺のクラスは一年二組だ。席は窓際の後ろから3番目だった。別に目が悪いわけでもないので、後ろの席でも俺は困らない。
自席に座り、教室を観察していると流石にみんな新入生らしく、話しかけられている連中が沢山いる。俺は声をかけられたりして面倒になるのが嫌なので、寝たふりを決め込むことにした。
ゆさゆさ、ゆさゆさ。しばらくすると身体がゆっくりと揺すられていた。柑橘系のいい匂いが漂ってくる。俺は薄く目を開けてみると隣の席の蒼い瞳の少女が俺を起こそうと揺らしていた。長い黒髪が動くたびにヒラヒラと揺れている。
面倒なことをするものだ。寝たふりをしてるのだから、教師が来たら目を覚ますに決まっている。目の前の少女にそう言いたいが、寝てるふりをしているのを公言するのは流石に罰が悪い。
少女は俺が一向に起きないので、揺する力を強くした。流石にこれはヤバい。
「何だ、何があったんだ!」
「あっ、起きましたね!!」
目の前の少女はニッコリ微笑んで、手をパチンと合わせた。
「昨日、徹夜とかしてたんじゃないですか? ダメですよ」
そう言うと人差し指を左右に振った。
「ああ、まあ、そうだな」
「受験勉強は終わったばかりですし、もしかしたら、ゲームとか夢中になってたんじゃないですか?」
「まあ、それはそうだが」
実際は昨日も11時には寝ていたし眠くもないのだが、そう言うわけにもいかないので話を合わせた。次の瞬間、目の前の少女は耳を疑うようなこと言う。
「せっかくお隣同士になったのですから、お友達になりませんか? わたし、結城美由って言います!」
「はいっ!?」
美由の声にクラス中の男子の視線が俺に釘付けになるのに気がつく。本当に面倒なことをしたものだ。自分が他人からどう思われてるのか、美由は気づいてないのか。
「えとさ、それよりみんなと友達になってあげたらどうかな?」
俺がそう言うと美由はぐるっと周りを見渡した。美由の前には複数人の男子生徒が取り囲むようにいた。
「はい!?」
全くこの娘はなぜ気が付かないんだろうな。自分の容姿が他人に比べて遥かに優れてることをさ。
「あの君、美由ちゃんって言うのかな。可愛い名前だね。俺も友達になりたいんだよね」
「いや、お前より先に僕が目をつけてたんだよ。なあ、美由ちゃん、僕と友達になろうよ」
「俺なんか友達からでいいから、美由ちゃんと付き合いたいね」
結局、美由は質問攻めに合うことになった。みんな揃いも揃って、美由が可愛いから、親しい関係になりたいだけだ。
美由がこちらに何度も視線を送ってくるのに気がついたが、俺は面倒事が嫌いだ。どうせ、何日か経てば、平穏な学校生活に戻る。
美由もそこまでの辛抱だ。
これも美由に取ってはいい勉強になるだろう。容姿だけで声をかけてくるやつなんて碌な奴がいない。
おかげで尊い犠牲のもとに俺はまた誰に注目されることもなく、ぼっち生活を送れることになった。
――――――――
「起立、礼、ありがとうございました」
ホームルームが終わると俺は真っ先に立ち上がった。今からクラブ見学に行く奴もいるだろうが、誰とも絡む気がない俺は、さっさと家に帰るだけだ。
「あの柏葉さん!!!」
教室を出たところで声がするが、そんなのは無視だ。俺は真っ先に正門に向かって歩き出した。
それにしてもお人よしな娘だったよな。別に俺なんか無視していればいいだけなのにさ。あれだけ可愛いなら、クラスのイケメンと付き合う事だって余裕だろう。俺なんかの相手をするなんて時間の無駄だと言うものだ。
俺は正直、小学校の嫌な体験から同年代の女子は苦手だ。みんなに対してニコニコしてるやつに限って内心何を考えてるかなんて分かったものじゃない。
まあ、あれだけの美少女ならクラスのイケメンたちが放っておくわけがない。きっと今頃、誰かと仲良くなっているはずだ。
「柏葉さん!!!」
今日が新学期初日でなければ、そもそも美由が俺みたいな根暗なフツメンに声をかけるわけなかっただろう。
「待って、待ってください!!!」
そう考えたら、元の鞘に収まっただけだ。美由が俺に声をかけてくるのも、最後かと思うと確かに可愛かったし、残念な気持ちもなくはないが、だからと言って俺のお一人ライフを邪魔されるよりは遥かにマシだろう。
そもそも女なんて何を考えてるかなんて分かったものじゃない。俺は小学校の時の苦い思い出が蘇る。馬鹿か、もう忘れたはずだ。
「柏葉!!、さん!!!」
「えっ!?」
俺は後ろから抱きつかれた。背中に柔らかいものが二つ当たる。さっき感じた柑橘系の匂いが鼻腔をくすぐる。
俺はゆっくりと振り返った。
「どうして、君がここにいるんだ!」
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