4ファーストコミュニケーション

それから何やらやけにバカ広いプライベートルームらしき場所に連れていかれ、そこで無駄にフリルが着いた服を着させられると、部屋の中央に置かれている向かい合わせに置かれているソファー、その片方に座らされる。



フカフカなそのソファーに身体を預けながらザッと周りを見渡すと、部屋を飾る家具達が全体的に随分前時代的なデザインというか……



クリーチャー達からまだ土地を奪還していない ” 中世 ” と呼ばれていた前時代のモノに瓜二つであった。



更に今目の前のソファーに座ったレオンハルトやその後ろに立つザイラスは袖にこれでもかとフリルが着いた、いわゆるその時代に王族やお貴族と呼ばれていた身分の者達が着ていたとされている服に酷似しているし、もう一人その隣に立つ体格のいい男に至っては当時 ” 騎士 ” と呼ばれていた兵士と同じ様な格好をしている。



偶然にしては随分似ているな……?



まったく同じファッション文化を歩んでいるという事実に首を傾げながら、ヨイショっと足を組み自身が置かれた状況について冷静に考えてみる。



先程チラッと聞いた話から、多分ここは違う次元にある世界の様で、魔法だの何だのと随分胡散臭い話をしていた。


そして国を救うだの何だのと更に胡散臭い事を言っていたため、正直この後聞く話には嫌な予感しかしない。



「 でぇ〜?王子様は俺に何をして欲しくて呼んだのかな〜? 」



ニヤニヤ〜と揶揄う様な言い方に対し、ザイラスはあからさまに嫌そうに顔を歪めたが、隣に立つ騎士様は無表情。


そして王子様と呼ばれたレオンハルトも先程とは違い完璧な笑顔で不快を隠し、そのままペラペラ流暢に話し始めた。



レオンハルトの語る話によるとこの世界は『 モンスター 』と呼ばれる凶暴で人間を襲う恐ろしい化け物がウヨウヨいて人は常に危険に晒されているが、それと戦い国を守る機関である< 騎士団 >がその脅威と戦い何とか人々は平和に暮らしているそうだ。



しかしモンスターの中には何百年かに一度程度、稀にやたらと強くユニークな能力を持っている個体『 ユニークモンスター 』が生まれてくるらしく、それを倒すには異世界から ” 聖女 ” と呼ばれる特殊な能力を持っている少女を召喚し倒してもらわなければならないのだとレオンハルトは説明した。



「 歴代の聖女達は勇敢にも快くその役目を引き受け国を救って下さいました。


そしてその後はこの国に残る事を望み、その当時の王や王子と婚姻を結び国を立派に治めたとされています。 」



ニッコリと美しい笑みを浮かべながらそう言うレオンハルトと後ろでウンウン頷くザイラス。


二人はその話を美談の様に語り、最後は揃って満足そうな様子で笑う。


俺はその話を静かに聞き終え、レオンハルト達に負けないくらいのニッコリ笑顔を返した。




「 あ〜、なるほどねぇ〜?


何にも分からない子供を悪い大人総出でだまくらかして死ぬまで働かせたって事か。 」






────ピシッ……



部屋の中の温度が一気に下がり、レオンハルトとザイラスからは怒気に近しい雰囲気が漂った。




「 ……聖女……いえ、大樹様。


随分と酷い事をおっしゃるのですね。


それは当時の王や国を守ろうと尽力された聖女様への侮辱の様に聞こえます。 」



「 その通りですぞ!!


なんと無礼なっ!本来は死罪に値する不敬罪だ!! 」



わかりやすく憤慨しているザイラスとは違い、レオンハルトは静かだが酷く冷たい目で俺を見つめその奥には激しい怒りがあるようであった。



” 格下認定している人間が自分に従わない、思い通りにならないのが気に入らない ”



それを全面に出してくるレオンハルトはその顔貌の美しさも相まって、常人なら震え上がりそうなくらい恐ろしいモノだったが……



そんな程度の怒りはおっさん兵士の俺には通じないぞ〜?



可愛らしく怒りを現す坊やに対し、俺はプッ────!!と吹き出した。



「 いや〜!悪い、悪い!


やっている事が人攫いと同じだっつーのに随分と美談みたいに語るからおかしくておかしくて!


ぶっちゃけ笑い話だと思っちゃったよな〜。


       ・・ 

────で?その勇敢な少女は帰りたいって言わなかったのか? 」



「 なっ!!!何たる言い草!!そんな事言うはずが──── 」



ザイラスが更に顔を赤らめ大激怒しながらそれを否定しようとしたが、俺は静かにその話を遮る。



「 んっなわけあるか。


そんな少女の歳で突然知らない土地に召喚されて ” 国を救え ” 


そんなのに素直に従うのなんざ最初だけだろう。


実際の戦いの場に立って人の死に直面すれば目は覚める。


命を掛ける程ポッと来た世界に義理も責任もないはずだ。 



大方弱った心につけこんでそうするように仕向けたんじゃないのか〜?


例えばかっこい〜い王子様との運命的な愛♡とかで雁字搦めにする……とか? 」





────ドンッ!!



突然レオンハルトが目の前にあるテーブルに拳を打ちつけ話は強制終了。


ニコニコと笑っているレオンハルトだが、目の奥には先程よりも更に大きく燃え上がった怒りの炎がメラメラと燃えている様であった。



「 大樹様はだいぶお疲れの様だ。


どうか今夜はこちらでゆっくりとお休み下さい。



────では、我々はこれで一旦失礼いたします。


話の続きはまた明日致しましょう。 」



それだけ言ってレオンハルトはさっさと部屋を出ていき、その後に続く様にコチラを刺し殺すばかりの勢いで睨んでくるザイラス、そして最後はやはり無表情のままの騎士様が出ていった。



俺はバタンッ!と閉まるドアの音を聞きながら、はぁ〜と盛大なため息をつくと情報を集めるため意識を集中しだしたのだった。



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