2召喚プロローグ

( フォードロンド王国王宮内・召喚の間 )



「 これよりこの国を救ってくださる神の遣い『 聖女 』様の召喚を行います。


宜しいですね?


レオンハルト殿下。 」



「 よい。さっさっと始めよ。 」




白を基調とした広い空間の中、床には巨大な魔法陣。


そしてその周りには黒いローブを着た沢山の人間が立ち、部屋の至る所に剣を持った騎士の様な格好をした男達がズラリと並んでいる。


そしてその中でも一際目立つのは、今しがた心底めんどくさそうな様子で承諾の返事をしたレオンハルト殿下と呼ばれた男であった。



歳は20前後、女神も逃げ出す程の恐ろしく整った美しい顔貌に透き通った蒼い目、軍神の生まれ変わりかと思うほど高い身長と引き締まった身体。


そしてプラチナブロンドの髪は、彼が顔を僅かに動かす度にキラキラと輝き見るもの全てを魅了する。



フォードロンド王国王位継承権第一位



【 レオンハルト 】



その瞳は恐ろしく冷たく凍えるほどで、人に対して何ひとつ熱量を持っていない様であった。



レオンハルトの承諾を得た黒いローブを着た者たちは直ぐに魔法の詠唱を唱え始め、それに合わせて魔法陣は赤く光り始める。



腕を組みその様子をただ黙って見ていたレオンハルトだったが、一歩下がった位置に控えている宰相が話しかけてきた為、意識をそちらに向ける。



「 殿下、もう間も無く異世界から邪を祓う聖女様が召喚されるでしょう。


聖女は美しく清らかで神秘的な黒い髪を持つ若い娘であるとされています。


その聖女こそが貴方様が治めるこの国を救う救世主となるのです。



────分かっておられますな? 」



白髪混じりの髪に弛んだ大きな腹、それを沢山の装飾品で隠している50は超える男、


この国の宰相を務める< ザイラス >はニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて言った。



意味深に囁かれる声にレオンハルトもニヤッと笑った。



「 そんな念を押さずとも分かっている。


そんな役に立つ道具は手元に置いておかないとな?


せいぜい優しく扱ってやって一生この国の為に使ってやろう。


女は簡単でいい。


ちょっと愛を囁いて抱いてやれば命まで簡単に捧げてくれるからな。 」



美しい顔を歪めながら笑うレオンハルトを見て笑みを深めるザイラスとは逆に、同じく後ろで控える男は眉をひそめた。


レオンハルトよりもやや背は大きく、ガッチリとした体格に深いアメジスト色の長い髪を後ろ一つに束ねている騎士の格好をした男は、レオンハルト殿下の専属騎士〈 アルベルト 〉。


アルベルトは非常に寡黙な男であったため、この時も眉を顰めるだけで何も口にする事はなかった。




そして召喚の儀式はクライマックスを迎え、カッ!!と一際眩い光と共に現れたのは、美しい黒髪の乙女────




……ではなく、髪を泡だらけにしながらゴシゴシと洗っている全裸のおじさんであった。



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