斥候ベイカーいないっすよ

リトルアームサークル

プロローグ

 僕は今、ギルドに呼び出されている。

 ねぐらにしている安宿を出て、賑やかな街中をしばらく行くと冒険者ギルドの建物が見えてきた。

 そう、僕は冒険者だ。

 日々鍛錬を怠らず、必要とあらば命をかけて魔物と闘う強者達の1人だ。

 何て言うとカッコいいかも知れないが、脚光を浴びるのは化け物の様な能力を持つ一握りの冒険者だけだ。

 それ以外の冒険者は地味な雑用をこなして、日々の糧を得る。

 運が良ければ大きな怪我もせず経験を積んで、それなりの冒険者にはなれるだろう。

 要は、世間はそんなに甘くないと言ったところである。


 なんてことを考えていたら、いつの間にか冒険者ギルドの扉を開けていた。

 習慣というのは怖いもので、身体が頭とは分離して動くことが出来てしまう様だ。

 ギルドの受付が僕の顔を見ると、上へ上がれとハンドサインで指示してきた。

 まあ、呼び出しの時点でギルドマスターからの用事と分かってはいた。


 ギルドマスターからの依頼は、この街の近くにある初級ダンジョンの危険度調査だった。

 初心者向けのダンジョンで、出て来る魔物も低位のものだったはずだ。 

 だが最近、様子が変わったらしい。

 攻略が滞っており、重傷を負った冒険者も出たとの事だ。

 初級ダンジョンではあり得ない状況だ。

 攻略が滞れば、魔物の素材や魔石の買い取りで成り立っている街の経済も滞る。

 依頼を受けたばかりだが早速、ダンジョンへ向かうことにした。

 僕のジョブは斥候スカウト、身軽なのが一番なので普段から身に付けている革鎧と装備があればそのままダンジョンに潜れる。

 ダンジョンの入口も街からさほど離れていないので、昼前には到着できた。

 いつもだったら、冒険者がたむろしているダンジョン小屋に誰もいない。

 これは思っていたよりも深刻なのかも知れない。

 

 僕は、隠密スキルを発動させるとダンジョンへと足を踏み入れた。

 僕は特に特徴のない顔で存在感も薄いので、隠密スキルがなくても魔物に気付かれないんじゃないかと昔の仲間によくからかわれた。

 背も低いしね…だが斥候スカウトとしては理想的だ。

 ダンジョンの上層では下位のゴブリン達を時おり見かけた。

 これはいつも通りだったが、中層に差し掛かると上位のホブゴブリン達が現れた。

 初級ダンジョンでは、フロアボスとして単体で現れる事はあっても、群れで現れる事はまずない。

 これが相手ならば、初心者や下位の冒険者では歯が立たないのも裏付けられた。

 僕はここまで一度も闘っていない…下手に音を立てて魔物を呼び寄せるなどあってはならないからだ。

 危険度調査も終わったし、そろそろ戻ろうかと思った時にその音は聞こえて来た。


 

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