第4話 覚醒した魔法

 千歳の身体に広がっていったピンク色の輝きは、しばらくすると、魔法陣の輝きともに徐々に失われていった。

「成功だ。おめでとう!」

輝きが完全に収まると、国王がそう叫び、周りにいた取り巻き達も大きな拍手をした。俺は、これが成功なのかどうかいまいちわからなかったが、周りに合わせて拍手をした。

「よし、次はこの道具に手を当ててくれ」

 国王の取り巻きの男が持っている黒くて四角い箱には手型があった。国王に言われるがまま、千早がそこに手を当てると、黒い箱がなにやら音を立て始め、やがて二枚の紙が箱から出てきた。

 取り巻きの男が、箱から出された紙を手に取り国王に見せると、国王は大声を出した。


「おおォ! 結界魔法と鑑定魔法だ。なかなかいい魔法だぞ!」

(結界魔法と鑑定魔法か。確かに悪くないだろうな)

 俺は、自分でも認めるほど大のサブカルオタクだ。ゲーム・漫画・小説・アニメ・映画、大体どんなものでも有名どころはほとんど見てきた自信がある。そんな俺からしたらこの二つの魔法が役に立つことは安易に想像がついた。


「結界魔法と鑑定魔法ってなんですか?」

だが、おそらくそう言った知識がゼロなのだろう。千歳はポカーンとしている。

「君にも見せてあげよう。この紙を見たまえ」

国王が差し出してきた紙を俺も横からのぞきこんだ。そこにはこう書かれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


魔法名 【結界錬成】 ランク B級

頭の中で想像すると、体内のマナを消費して透明な結界を作り出すことができる。

結界の強度や大きさは使用者のマナの量によって左右される。


魔法名 【万物鑑定】 ランク B級

世の中に存在している全ての生物・物質を鑑定することができる。鑑定する物質に近づき、瞳に力を入れると鑑定することができる。鑑定をするためには5メートル以内に接近する必要がある。鑑定が完了すると、使用者のみ情報が情報が空間に浮かんで見える。。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どうだ。かなり良いだろう。B級の魔法は平均よりランクが高いんだぞ。上からS・A・B・C・D・E・Fと七段階に分かれているうちの上から3番目だからな。いい結果だ」


「やったー! よくわからないですけど、良い魔法なんですよね? わーい!」

良い魔法だという言葉を聞いて千歳は飛び跳ねて喜んでいる。

(こいつ。こんなにくわしく書いてあるのに理解できなかったのか。喜ぶのは良いけど早く使ってみればいいのに)


「でも二つも魔法ってもらえるんですか?」

「ああ、大体一つから四つくらいの魔法が現れることが多いな。君の場合は両方当たりだったな」

「そうなんですね。イエーイ!」

千歳はスカートのポケットからスマホを取り出すと嬉しそうに自撮りを始めた。

そんな千歳を国王とその取り巻き達は呆然と見つめている。


(あほか? いや、あほなんだ)

 この状況で自撮りをするか? おそらくいつもの癖で何かSNSにでも投稿しようとでも思っているのだろう。電波なんてあるわけがないのに。そのテンション高いギャルみたいな癖を何とかしてくれ。

「そんなことしてないで、一度使ってみたら。せっかくなら」

千歳の様子を見ていてもどかしかったのか、ひびきが多少イライラしたような声で言った。


「うん。わかった。じゃあまず結界魔法の方から行くね。えっと頭の中で想像すればいいんだよな」

そう言うと、千歳は「えいっ」と右手を突き出しながら叫んだが。なにも起きない。「えいっ」「えいっ」と何度も挑戦するが何回やってもなにも起こらなかった。

千歳はゆっくりとこちらを振り向くと恐る恐る聞いてきた。

「ごめん。みんな。結界ってなんだっけ?」

「あーもうっ、もどかしいな! そう言うのはやる前に聞いてくれよ。時間かかるから」


あまりのポンコツぶりに嫌気がさし、俺は口を出してしまう。

「ごめん」

俺の声を聞くと千歳はしょんぼりとした顔をしてわずかにうつむいた。

その様子を見て俺は、

(あー、こんなことでいちいち落ち込むなよ。豆腐メンタルかお前は)

とさらにイライラしてしまう。女子の身体は大好きだがめんどくさいの嫌いなんだ。

しかし、ここで落ち込まれてもしょうがないから俺は丁寧な説明を試みる。今度は若干優しい声色を使いながら。


「結界ってのは簡単に言うとガラスのようなものだ。それも簡単には割れないな。とりあえず目の前に一メートル四方のガラスをイメージしてみなよ」

俺は自分のイメージを必死に伝えた。これでちゃんと伝わったのか不安ではあったが……。

「うん。わかった。えいっ」

千歳が先ほどと同じように右手を前に突き出すと、三十センチ四方の結界が目の前に現れた。結界は透明で後ろが透けて見える。空中に浮いたまま光を反射して輝いていた。それを見て俺は思った。

(あれ、なんか小さくない?)


「うむ!成功だな。それでいい」

実験の様子をうかがっていた国王がそう口にしたところで、ひびきが口を開いた。

「小さくないですか? こんなの役に立つんですか」

「うむ。確かに小さいな。ちょうどいい。強度も確認してみよう。そこの君。この結界を殴ってみてくれ」

「わかりました」

俺は、結界のそばに近づくと、7割程度の力で結界を殴ってみた。

すると、結界は「パリンッ」と音を立て砕け、地面に落ちていった。


「脆い……」

ひびきは俺と同じ感想を抱いたようだ。砕けちった破片を見ながら小さくつぶやいた。


「はっはっは。良いんだ。最初はこれぐらいで。私たちより十分性能が高い。今はレベルが1だが、自身のレベルが上がればマナも増える。そうすればすぐにもっと大きくて頑丈な結界ができるさ」

 驚く俺たちを尻目に国王は満足げにそう口にした。正直、俺の心には大丈夫か本当に、と思ってしまう気持ちがあったが、レべルが上がるにつれ強くなるという言葉を無理やり信じることにした。


「さて次は鑑定魔法の方を使ってみなさい」

「どうすればいいですか?」

「よし、私が持っている杖を鑑定してみると言い。この杖をじっと見つめて見なさい」

「はい」


千歳は杖を凝視し始めた。すると、すぐに千歳は叫んだ。

「あっ!見えました。えっと……モナの木で作られた杖。そこまで高価ではないが頑丈で軽い。平均売却値10ゴールド(日本円に換算すると千円)って出ました。」


「うん。成功だな」

「あの……、王様って結構質素なんですね」

千歳はおそらくこの場にいた和菓子部の全員が思ったことを口にした。

「余計なことは言わんでいい。我が国は自慢ではないが貧しいのだ。それもこれもあの魔王のせいなのだが。まあそれはいい」

国王は少し嫌な顔をしたがすぐに冷静な顔に戻した。ずいぶん人間ができているんだなと俺は感心した。

(10ゴールドが千円なら1ゴールドが百円だな、後で貨幣や物価についても聞かなきゃな)


俺がそんなことを考えていると、国王が言った。

「さあ、次は誰がいく?」

国王の声に俺は手を上げようとしたが、それよりも早く手を挙げたのはひびきだった。

「よし! では魔法陣の中に入るのだ」

ひびきはゆっくりと魔法陣の中に入って行った。







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