第3話 魔法覚醒の儀

「そうか。全員が魔王討伐に協力してくれるんだな。ありがとう」

 国王と名乗る老人は深々と頭を下げた。それに合わせて付き従っている屈強な男たちも頭を下げる。その中には涙を流している者もいた。それを見て、この人たちはこの人たちで苦しんでいるのだということが察せられた。


「こうしてはおれん。武器や防具など二の次だ。まずは魔法覚醒の儀を執り行わないと!」

「魔法覚醒の儀って何ですか?」

 少しワクワクするワードに自然と俺の心は高鳴ってしまう。

「人間の体内に眠る魔法の力を呼び起こす儀式のことだ。人は誰しも魔法の力を身に宿している。しかし、覚醒の儀を執り行わないとその力を呼び覚ますことはできないのだ」

(へー、なるほど。なるほど。その儀式を受ければ俺も魔法が使えるようになるんだな。面白い。どんな魔法がでるか楽しみだな。ん? ちょっと待てよ……)

 俺はあることが気になりつい尋ねてしまう。


「えっ? じゃあ俺たち以外のこの国の人もみんな魔法は使えるんですか」

「ああ。使える」

「ちょっと待ってください。じゃあ俺たちが魔王を倒しに行かなくても自分たちで倒しに行けばいいじゃないですか」

 俺の言葉を受けて、千歳は「確かに」と小さく口にした。あほの子でも同じことを思うらしい。

「それがそうもいかないのだ。うーん。どう説明しよう……。まあ実際に体感したほうが速いか」

 国王はそうつぶやくと、俺たち四人の方に右腕を突き出し、手を広げ大声で叫んだ。

「受けてみよ! ウインドブラスト」

 掛け声と共に、何やら緑色をしたオーラのようなものが右手に集まると、急に風が吹き始めた。それは、めちゃくちゃ心地いい。やさしい風だった。


「えっ? なんすかこの風は?」

 俺が口にしたが後ろの三人もその驚いた表情を見ると同じことを感じているに違いないと感じた。

「これが私の風魔法なのだ。六十三レベルまで鍛え上げてこれだ。どうだ。驚いたろう?」

 そりゃあ驚いたよ。今のが魔法だって? 扇風機の強風にも及ばない威力だ。大丈夫なのかこの世界の魔法システムは。あまりの魔法の弱さに俺は不安になってしまう。


「あの? 私たちが得られる魔法もこんなに弱いんですか」

 俺があっけにとられていると、同じことを感じていたのかひびきが尋ねた。

「安心してくれ。だから君たちが重要なのだ。仕組みは解明されていないのだが、なぜか異世界から召喚した者はこの国の住人の魔法に比べて二十倍の威力を発揮するのだ。これで分かったろう。私たちの魔法では魔王はおろかダンジョンの低層すら超えられないのだ」

 

それを聞いて俺は少し安心した。今の魔法の二十倍がどれだけの威力なのかはわからないが、少なくてもさっきのような弱い力ではなさそうだ。


「よし。じゃあこっちに来てくれ」

国王に誘導されると、そこの地面にはよくわからない模様がびっしりと書かれた魔法陣が描かれていた。

「この中に入り。眼を閉じ、神に祈りを捧げると身に宿る魔法が覚醒するのだ」

「えっ? どんな仕組みなんですかそれ?」

細かいところが気になる性格なのかひびきがまた尋ねた。

「仕組みは我々にもわからない。ただ、古くから言い伝えられてきたのだ」

なんだわからないのかよと思ったが正直、魔法さえ使えるようになるのなら俺は別にどうでも良かった。俺はもともとプロセスよりも結果を重視するタイプだ。


「あの、体に悪影響とかはないんですよね」

俺とは逆の性格なのか、ひびきはなおを質問を続ける」

「大丈夫だ。それは保証する」

「……」

まだ不安そうにしているひびきを尻目にここまで静かだった千歳が口を開いた。

「大丈夫だってひびきゅん。そんなに怯えなくても~」

緊張感が全くない顔をしている。一人テーマパークにでも来たかのような様子だ。

「千歳。その変なあだ名で呼ぶな。イライラする」

「ごめーーん」

千歳は起こられても顔色一つ変えず、にこにこしている。こういう空気の読めないところが周りから浮いてしまう要因なのだろうと俺は思ってしまう。


「さて、誰からいく? 安全な儀式だから心配はいらん。誰からでも良いぞ」

魔法陣の前で立ち尽くす俺たちに向かって国王はそう口にする。

魔法が使えるようになるのは楽しみではあるが、今まで見たことがない儀式に臨むのは若干抵抗もあった。安全な儀式と言われても妙な緊張感を感じてしまう。俺がしり込みしていると、千歳が勢いよく手を挙げた。

「はい。水野千歳! 24!! 先に行かせていただきます」

なんでこいつはクラスの出席番号を言ったんだ? まぁいいか。千歳が変なのはいつものことだ。先にやってもらえるのはありがたい。どんな様子かじっくり見させてもらおう。


「よし! ではこの錬成陣の中に入るのだ。そして、片膝をついてしゃがむのだ。そして両手を組み、祈りの恰好をするのだ」

「こうですか」

「うむ。その体制で大丈夫だ」

「ありがとうございます。では! いきます!」

「うむ」


「……………」

「……………」

俺たちは祈りの体制をとっている千歳を緊張の面持ちで見つめていた。しかし、十秒経っても、二十秒経っても何も起こらなかった。

(どういうことだ。まさか儀式失敗なのか)あまりの時間の長さに不安が込み上げてきてしまう。


しばらくたった後、千歳は顔を上げた。

「あの、この体制の後はどうするんでしたっけ?」

周りにいた人間はみな呆気に取られた。どうやら重要なことを聞いていなかったようだ。

「祈りを捧げるのだ。神に対して」

「あの、なんて言えばいいんですかね」

「そんなのは知らん。自分で決めればいいだろう!必ず魔王を倒します。とか、元いた世界に変えれますように。とか、自分の願いを素直に祈ればいいんだ」

千歳の暢気さに国王も戸惑っているようだ。俺を含め和菓子部の三人はいつものことなので別に気にすることはないが。

「ああ、そう言うことなんですね。わかりました」

千歳は再び祈りの体制をとると、

「では! 行きます」

と叫んだ。


すると、次第に魔法陣が虹色に輝き始め、その輝きと呼応するように千歳の身体もピンク色に発光し始めた。


(なんて綺麗なんだ)

俺はその神秘的な輝きに思わず目を奪われてしまった。













 

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