こっぴどく振られてしまったご令嬢が元婚約者とその浮気相手を見返す為に精一杯にあがいたなら
こまの ととと
第1話 決戦開始
わたくしは婚約者であるオラン王子にお呼ばれされ、それはとてもウキウキとした気分で王城へと向かいましたの。
もしかしたら正式な結婚が決まったのでしょうか? とか。
そんな事を内心でキャーキャー騒ぎながら私室へと足を踏み入れたのですわ。
ですけれど……。
「ミランダ! 貴様との婚約もこれで破棄させて貰う!!」
「な、何故ですの?! 理由を……理由を教えて下さいまし!」
「ふん、理由だと。ならばその目で確かめると良い。……キュール」
「は、オラン様。貴方様のキュールはここにおります!」
部屋の奥から一人の美しいお嬢様が参られましたの。
その顔には見覚えがございましてですわ。
「な!? 貴女はキュールさん! 侯爵家のご令嬢が何故此処へ? ……まさか!?」
まさか!? いや、ですがこのタイミングでの登場。
否定したくても到底出来るものではありませんでしたの。
「やっと飲み込めたようだなミランダ。
そうだ、俺はこのキュールと婚約を結んだのだ。所詮は親が決めて付き合っていた貴様と違い、俺はこのキュールから本物の愛というものを知った。
もはや貴様に用は無い。潔く身を引けば、伯爵家の子女である貴様の面子も汚す事は無い。俺の優しさに感謝して――そうそうに消え失せるがいい!!」
「そ……んな……!」
「という事ですのでミランダさん、これからはこの私が彼の隣に立たせていただくわ。一つ忠告をさせてもらうと伯爵家にふさわしい、それなりの子息のご機嫌取りに励む事ね。気づいたら行かず後家などと呼ばれてしまいかねませんから。ふふふ」
そのお言葉に一瞬で頭が沸騰してしまったわたくしを、一体誰が批難出来ましょうか!
「――っ! お馬鹿になさらないで下さいまし! わ、わたくしは……」
「ふん、つまらないにお似合いのつまらない意地だ。残念ながら伯爵家の子女は婚姻を遂げる事も出来ずに修道院行きか? はははは! 貴様の父上はさぞ落胆される事だろうな!」
ですが……。
それ以上聞いていられず、挨拶も無しにオラン第三王子の私室を飛び出してしまいました。
彼とはお互いの父同士が決めた仲。しかしわたくしの捧げた愛は本物であったと自負しておりました。
それが何故? こんな事になるなどと……。
あのような性格では無かったはずでしたのに。もしや、あれが本性?
ではそれに気づかずに愛だなんだと叫んでいたわたくしは……。
「ただのおマヌケさんでしたのね……。それでも、それでもわたくしは――」
「ん? これはミランダ君じゃないか。何故そのような涙に濡れているのか? いや、どうでもいいな」
「ぁ……」
目の周りを腫らしたわたくしに掛けられる声、その主はわたくしの目元に優しくハンカチを当てて下さいました。
「あ、ありがとうございますシュロー王子様」
「気になどする必要は無いさミランダ君。涙を流すご婦人にする行動とは、いつの時代も限られている。ただそれを実行したに過ぎないのだらか」
シュロー王子。
わたくしの元婚約者となってしまわれたオラン王子の兄にあたる人物。
オラン様とお付き合いが始まって以来、何かと優しくして頂きました。
しかし、彼とお別れの関係になってしまった以上、もうシュロー王子様とも私的に顔を合わせる事が出来そうにありませんの。
「せめて、このハンカチは丁寧にお洗濯してお返しします」
「何がせめてなのか……。あの愚弟の言い分を気に病む事は無い、と言いたいが、君の性格では難しいだろうな」
「ご、御存じでしたの? これはお恥ずかしい……」
「恥ずかしいのはあんな大声で身内の恥をさらした愚弟だ。使用人たちにも聞かれて、兄として頭が痛い思いだよ。そういう意味では君とおそろいだな」
オラン王子に悩まされ、心を痛めている同士。という意味でしょうか?
「お、御戯れを。わたくしの頭とシュロー様のお頭では比べるべくも無い高貴な違いがございましてですの」
「そう自分を卑下する事も無いと思うが……。今日はゆっくり湯にでも浸かって、そして体を温めてから長めの睡眠をとるといい」
「過分なアドバイス、感謝致しますわ」
「うむ。それでは失礼するよ」
シュロー王子様はわたくしの元から去ろうとしますが、わたくしはその背中に声をかけました。
「あの! もし宜しければなのですけど……」
「ん? 何かな?」
ああ! ついに言ってしまいましたわ……。
でもこのオラン第三王子の私室から逃げ出してきた今のわたくしには、頼れる方はシュロー王子様しかおりませんもの。
背水の陣ッですわ……!
「わ、わたくしに――あのお二人を見返す術を教えては下さいませんですの?!」
「見返すか……。そうか」
静かにお呟きになったシュロー様。沈黙が暫く続きましたわ。
捨てられた。
その嘆きの後、こうしてシュロー様にも慰められ、心の底から沸いて出た感情がございませてですの。
それは見返したいという復讐心。
淑女としてはしたない、それに王子様に対して不躾な御頼みをしている事を承知で、しかしこの沸々を湧き上がるものを止める術を持ち合わせてはおりませんですわ!
「……少々、君にとっては辛い経験をさせてしまう事になるかもしれないが。それでもいいというのなら」
「構いませんですわ! わたくし、お二人を見返すまで平穏を捨て鬼となる覚悟でございましてですに!!!」
「その言葉、確かに聞いた……! ではついて来たまえ」
「はいですッ!!」
それから本当に、それは本当に厳しい特訓の日々が始まりました。
しかし、その苦しさがあるからこそ、わたくしの復讐心はさらに燃え上がり決して治まるという事がございませんでした。
それから二ヶ月後。
「今日までよく頑張ったなミランダ君。付け焼き刃ではあるが、それなりの物を君に叩き込む事が出来たと思っている」
「ありがとうございますです師匠! 過ごした日々は決して無駄にはさせませんわ!!」
「ああ、では行くといい。既に果たし状は送り込んである。後は決戦の場で堂々と待つのみだ」
「はいですわッ!!!」
生傷が増えてばかりの手を見て、わたくしは決心の足をその場へと運びました。
決戦の場、シュターロ峠! 深夜!
辺りが静まり返った頂上にて、わたくしは彼女らと対峙しましたわ。
「ふん、身の程知らずもこの俺のキュールに挑むとは貴様――はっ、ついに気が触れたか?」
「ふふ、そのような物言いは流石に可哀そうですよオラン様。
……ミランダさん、本来なら貴女との決闘にわざわざ付き合う義理はありません。が、私も貴族の子女。挑まれたなら受けて立つ定め、それが愛しい殿方への思いに結び付くならばなおさらの事」
「流石は俺のキュールだ、可愛い事を言う。さあミランダ、この俺の前に無様な敗北を晒し、地に這いつくばって詫びる姿を楽しみにしているぞ。ふはははは!」
「どうとでもお言いなさいですわ。わたくしは勝ちに来た、それだけですので……」
「可愛げの無い。……それでは位置に着け!」
王子の言葉を聞き、わたくしたちはそれぞれの雌雄を決する”それ”へと近づきましたの。
「さあ行きますわよ。わたくし達の力、あのお馬鹿さん達に存分に見せる時ですわ!!」
王子がわたくし達の前へと立ち、そして……。
「では――スタートだ!!」
高く上げた右手を振り下ろしましてですの……!
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