第3話私だけの楽しい時間

なあ、ミナ。俺さ。実はさ。」


───ねえねえ次あっち行こうよ!お願いお願い!


今日は近くにあるテーマパークに遊びに来た。


でもやっぱり孝俊くんは今日も何かを言いたそうにしている。


もしかして何かバレちゃったりしたのかな?


でもそんな事なんて別にいいや。この時間が続くなら。



「ああまじ?あのジェットコースター乗るの?」


「乗る!乗るよ!もしかしてビビってるの?」


「いや、別にそんな事ないんだけどさ、」


「あれ結構並ぶよ?いい?時間。」


「ヘーキヘーキ。」


また理想が出た。イケメンの彼氏とジェットコースターに乗って彼氏を逆に私が守る理想だ。


結局並ぶのに1時間も掛かった。


でもその代わりに理想は叶った。こんなの簡単だ。


ジェットコースターを降りたらすぐに近くにチキンが売ってあった。やたら並んでいて自然と美味しそうに見える。



「あれ食べたい!あれ食べたい!」


「ああ、食べよっか。」


たまたまショーも近くでやってたから、持ってきてたレジャーシートに座ってまた2人で食べた。


チキンはやっぱりすぐ無くなった。ショーを観る時間もやっぱり、短く感じた。



「あ!そうだ!ミナ、観覧車乗らない?」


珍しく私に提案を孝俊くんがした。


「いいけどなんで?」


いつも私の事を優先してくれているから自ら提案してきたのには少し驚いた。


「ほら、もう夜になってきたから、上から景色見たいんだよ。すっごく、綺麗だからさ!ね?」


「うん。わかった。」


観覧車はベタ過ぎてあまり理想には入っていない。


─────本当にやりたい事は違うんだけどなぁ。


心の中でぼやいた。


観覧車はさっきと違って空いていたからすぐ乗れた。


観覧車に乗ってすぐ孝俊くんは少し気まずそうな顔をして言った。


「ねえ、ミナ。少し言いづらいんだけどさ、」


「え?何?」


「俺、明日で辞めるんだ。」


孝俊くんから言われたその言葉のせいか、私は座ってるのにくらっとした。


「えっ?なんで、」


「いや、ちょっと色々あってさ...」


そのはっきりしない答えにやけに不安になってイライラした。


「なに?はっきりしてよ!なんで?」


「そろそろクリスマスでしょ?」


「クリスマスは私と一緒に居てくれるよね?」


「いやだから、それは無理なんだ。クリスマス前日にやめちゃうから。明日だから。」


「なんで...」


「実は、最近、好きな人が出来たんだ。」


────え?


「いや、ごめん。言っちゃいけないよね。こんなこと。でも、はっきりさせたい。」


「うん、、」


言葉はもうはっきり出ない。返事しか出来ない。


「俺、クリスマスの日に告白をするから。そう決めた。だからもう、こんなことやめないと。大学だってもう、卒業間近だしさ。」


「じゃあ、せめて、最後に私のとっておきの理想を叶えて。」


「とっておきの理想?」


「私ね、1年前くらいかな、彼氏に急に振られてさ、だから私、それを忘れようと思ってそれにずっと孝俊くんを付き合わせちゃってたんだよね。」


「いや別に。そんなの気にしなくてもいいよ...」


「でもその彼氏とはね、ハグもしてないし、キスもしてないんだ。」


「え、じゃあ。」


「ねえ、お願い、明日の夜まではやめないでよ。明日の夜にハグしたい。最後に。それでいいから。それで、全部忘れられるから。」


「うん...わかったよ。それでいいよ。」


「よかった。私、明日で全部忘れられるんだ。」


「そう...だね。」


観覧車がちょうど1番下に戻ってきた。


空気がすごく重かった。

でもその重いのを孝俊くんが必死に戻そうとしてくれた。


「次、何乗ろっか?なんでもいいよ!」




「じゃあ、メリーゴーランド」


私は適当に乗り物を選んだ。もう、どんな理想もどうでもよくなった。全てが打ち消された。

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