第4話 踊るアレックスさん

「アレックスさん! こんにちは。雨乞あまごい踊りをしてくれるんですね」

「あのね、ミスターマサジ。わちきがするのは、雨乞い踊りじゃなくてレインダンスなんよ。言葉は正しく使ってくれたまえ」

 おそろしく不思議な日本語を使う人が来た。正次君が、またドヤ顔で彼女を私に紹介してくれるようだ。

「お姉さん、ご紹介します。こちら、アレキサンドラ・大江おおえさんです。普段は、アレックスさんと呼んでいます。お父さんが日本人でお母さんがアメリカ人です。ダンスの勉強をされているので、よくここでレインダンスをしてくれます」

「ミスターマサジ。エクセレント! いい感じだわよ」

 アレックスさんは、親指を立てて正次君にウインクをした。

 正次君、今度は私をアレックスさんに紹介する。

「こちらのお姉さんは、小日向陽子さんです。よそから来られた方で、バスの乗り方が分からなかったみたいで、僕が教えに来たのです」

「あ、あの小日向陽子です。よろしくアレキサンドラさん」

「ハイ! わちきのことはアレックスと呼んでちょうだい。よろしく陽子。でもミスターマサジ、この方をお姉さんとはちょっと盛り過ぎとちゃう? 忖度そんたく?」

 アレックスは、毒舌どくぜつだ。だけど、カチンとこないのが不思議。基本的にいい人なのかな。

「はい。確かにお姉さんと呼ぶには苦しい所もありますが、正直におばさんと言うのもどうかと……。これからは、陽子さんと呼ばせてもらいます」

 ミスターマサジ、君はホントに正直だ。でも子どもはそれでいいと思う。どうせ私はアラサーだから。


「今日のわちきは、まちに行ってダンスレッスンを受ける日でやんして。たまたま、ここに人がいるのが見えたので、バスに乗ることにしたんでございます」

 アレックスもどこから私たちが見えたんだろう。

「と言うことで、バスに早く来てもらうためにレインダンスをぶちかまします。レッツミュージックはじめ!」

 アレックスは、いきなりレトロなラジカセを待合小屋のベンチに置くとスタートボタンを押した。流れてきたのは レディーガガ &アリアナグランデの『Rain On Me』だ。アレックスは路上でキレキレのダンスを見せてくれた。

「さあ、次の曲で決まりよん!」

 そう言うと、アレックスの動きが止まった。ゆっくりとした物悲しいイントロだ。明らかに日本のメロディー、そうだ、演歌だ。

 八代亜紀やしろあきの『雨の慕情』! 雨雨ふれふれ……。どストライクな曲に合わせてアレックスは、緩やかに切なく演歌舞踊を舞っている。私は、空を見上げた。さっきよりさらに雲は厚みを増している。辺りも薄暗くなって来た。これはもうすぐ降りそうだ。アレックスのレインダンス、効果覿面こうかてきめんじゃん!

 アレックスが曇天どんてんに手を差し出して踊り終えた。

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