義足の俺と無口な彼女~足と微笑みの恋~

ふにえる

第1話 静かな(?)一日

「起立、礼」


2年3組に進級して1週間。


 帰宅のホームルームを終える号令が聞こえると同時にもう既に作られたグループ同士が集まってゆく。

 そんなグループの輪に入ることはできなかった、いや、入ろうとしなかった俺....秋馬あきば修斗しゅうとは、今日も1人でカバンを持ち帰路へと歩き出す。

 昇降口から出た瞬間、あることを思い出した。


「あ、そういえばティッシュ切れてたっけな」


 小言で呟くと、いつもの道から視線をそらし、いつもお世話になっているスーパーへと足を進める。

 周りのやつらは俺のことを見向きもせず、ただただ通り過ぎていくだけ。

 いや、昔より断然マシだな。


 昔は、通り過ぎるだけで、殴られ蹴られ罵倒され、絶望の毎日だったなぁ。

 ほんとに、何で俺は生きているんだろうか、毎日が作業のように過ぎてゆき、いつしか誰も知らないところで死ぬのだろう。


「はぁ、やめだやめだ」


 俺は、スーパーへ行くスピードを上げた、まるで嫌な思い出を捨てるかのように....


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「あ、雨」


 スーパーで必要なものを購入し、外に出てみれば割と強めの雨が地面に打ち付けている。

 もちろん傘なんてものは持っていない、スーパーに戻って傘を買うのもいいが、時間がかかるし無駄な出費だ。


俺は覚悟を決めて、そのまま雨の中を歩きだした。


 かなり昔と比べて、右足の感覚がないのはもう慣れっこだ、ズボンが濡れて、右足にくっつかないよう細心の注意を払いながらゆっくり、雨の日とは思えないほどゆっくり歩いていく。


 コンビニを抜け、居酒屋を抜け、ふと視線を右にずらすと、見たくないものがあった。


「・・・くだ・い」

「いい・・・・気持ちよ・・・」


 会話の内容は雨が打ち付けられる音によってかき消されてはいるが、明らかに女の子が嫌がっているのが分かる。

 しかも、うちの高校の制服を着ており、何なら同じ色のネクタイをしている。


・・・スルーでいいか。


 俺はまた視線をまっすぐ道に戻し、左足を前に出す。


「・・・・」


 周りを見れば、見て見ぬふりをして足早に去っていく大人たちばかり。

 そんな光景を見て、気が付けば俺の右足が女の子へと向かっていた。

 濡れた前髪をかき上げ、つけていた伊達メガネを外す。


 良好になった視界は、俺の足を動かすスピードを上げろと語りかけてくる。

 俺は女の子に夢中になっている男の後ろにこっそりと近づき、義足の一番固い部分を男のアソコへをけり上げる。


「オォォォ!!」

「っ!?」

「おい、こっちだ!」


 俺はうずくまった男から女の子を取り上げるかのように腕を奪い、そのまま無我夢中で裏路地を走りつづけた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「ハァハァっっハァ」

「スゥゥゥ、ハァァァ、ここまで来れば大丈夫だ」


 走り続けて約5分、おそらく安全圏に入ったと思った俺は走るのをやめ、女の子の容態を確認。

 寒さか恐怖かわからないが、腕が震えているのが分かる。


 黒髪ショートで身長が140くらいだろうか、俺より30センチ近く低く、整った顔立ちをしている、おそらくモテているのだろう。


「大丈夫か?」

「・・・コクコク」


 不安なのか、言葉を発することなく、首を縦に振り肯定してくる。

 とても静かの路地裏のなか、右足にだけに雨の感覚が伝わらず、その分俺の耳に、雨の滴る音が反響して聞こえた。


「とりあえず、路地裏から出よう。あとは大丈夫だよな?」

「コクコク」


 また首を縦に振り、俺の袖をつかみながらゆっくりと大通りに足を進め始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

義足の俺と無口な彼女~足と微笑みの恋~ ふにえる @Nazonotenseisya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ