第14話 女王様のムチャ振りに頭をなやませているうちに、地下アイドルやってた昔のことを思い出します

 聞けば、代々の国王が悩まされてきたのは、夕べの狼男たちなのだという。

 お祭り騒ぎに興奮して床についた男が魔神に魅入られて獣と化し、夜の街を徘徊しては、人を、とくに女を襲ってはさらっていく。

 その獲物になった者は魔神に捧げられ、生き血を啜られるのだった。

 そこまで聞いたルイレムさんが、眉ひとつ動かさずに尋ねた。

「お祭り騒ぎを禁じればいいのでは?」

「庶民の楽しみを奪うのは、国を治めるうえでは下の下策です……昨夜の捕縛者たちも、正気に戻れば私を恨むでしょう」

 真顔で答えた女王は目を伏せたが、その答えには長いものに巻かれる男、 ホーソンでさえも醜い顔をさらに歪めた。

 ただイフリエだけが、その真意に気付いたようだった。

「その裏側で……僕たちを?」

 リニシュテ王国を背負う女王は頷いた。

「力を貸してください……私たちが討伐にかかっているのを、この国のどこかに潜む魔神に気付かせないように」


 そんなわけで見送りもなく、とぼとぼ徒歩で街へと戻る途中で、ぼそりとホーソンが尋ねた。

「……どうする?」

 こんなホーソンは、前にも見たことがある。


 あれは、まだギリギリ、地下アイドルをやっていた頃のことだった。

 名前もよく知らないようなマンガが原作の、2.5次元芝居の選考に放り込まれた次の朝だった。

 マネージャーが、まだ暗いうちから、さらに暗い声で電話をかけてきた。

「朝一番の電車で、社長のところに来て」

 疲れきってアパートの部屋でベッドのシーツにくるまっていた私の寝ぼけた頭でも、それがなぜかは、だいたい見当がついた。

 零細芸能プロダクションで一発逆転を狙っている30代半ばの貧相な社長は妙に優しい猫撫で声で、ねぎらいの言葉をかけてきた。

「たいへんだったね、オーディション」

 電車で1時間かかるようなところの小さなスタジオで、早朝から自腹の昼食を挟んで日が暮れるまでかかったのだ。

 それまで歌一本でやってきたのに、選考の一環と称して慣れない付け焼刃のレッスンを受けさせられ、夕方になって、ようやく面接だと思えば即興の小芝居つきだ。

 いかにチョイ役とはいえ、受かるわけがない。

 分かってはいたのだけど、「お疲れさまでした、お帰りください」と素っ気なく帰されたのは、やっぱり応えた。

 そんな気持ちを引きずっていた私の前に突きつけられたのは、意外にも、解雇通知ではなかった。

 肩の辺りのふわっとした、ミニスカのワンピース。

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