地下アイドルから声優目指しましたがオーディション落ちて異世界旅芸人一座も追放されて、魔人美少年とバディ組んでリベンジしました

兵藤晴佳

第1話 地下アイドルとしては戦力外通告されましたが事務所をクビになったわけではないようです

 紺野麻美こんの あさみ、 24歳。独身。

 中学1年生でハマったアニメがきっかけでアイドル声優を目指した。

 親の反対を押し切って、高校と専門学校の合間に地下アイドルもやってみた。

 それが、今では……。

 息も絶えだえの事務所で、声優のオーディションにも受からず、未だに地下アイドルのセンターになれないまま、端っこを務めている。

 そのマネージャーが、まだ暗いうちから、さらに暗い声で電話をかけてきた。

「朝一番の電車で、社長のところに来て」

 名前もよく知らないようなネット上のマンガが原作の、2.5次元芝居の選考に放り込まれた次の朝だった。

 疲れきってアパートの部屋でベッドのシーツにくるまっていた私の寝ぼけた頭でも、どういう電話かは、だいたい見当がついた。

 零細芸能プロダクションで一発逆転を狙っている30代半ばの社長は、いつになく優しい猫撫で声で、ねぎらいの言葉をかけてきた。

 貧相な顔を隠すためにサングラスをかけているので、ぱっと見にはヤクザみたいだから余計に気味が悪い。

「たいへんだったね、オーディション」

 電車で1時間かかるようなところの小さなスタジオで、早朝から自腹の昼食を挟んで日が暮れるまでかかったのだ。

 それまで歌一本でやってきたのに、選考の一環と称して慣れない付け焼刃のレッスンを受けさせられ、夕方になって、ようやく面接だと思えば即興の小芝居つきだ。

 しかも私は紙媒体のマンガと、テレビや映画のアニメやOVAしか見たことがないので、原作を知らなかった。

 いかにチョイ役とはいえ、ガチガチのオールドメディアユーザーなど受かるわけがない。

 分かってはいたのだけど、「お疲れさまでした、お帰りください」と素っ気なく帰されたのは、やっぱり応えた。

 そんな気持ちを引きずっていた私の前に突きつけられたのは、意外にも、解雇通知ではなかった。

 肩の辺りのふわっとした、ミニスカのワンピース。

「え……これって」

 それは紛れもなく、新しいステージ衣装だった。

 社長は、めったに見せない笑顔を浮かべていた。

「受け取って……遠慮なく」

 涙をこらえて何度も頷きながら、抱きしめた衣装を何度となく撫でる。

 社長はそこで、持論を口にした。

「目新しいものがポジティブな情報を流せば、客は勝手についてくる」

 はい、と答えた私は、新しい衣装で歌って観客を励まそうと本気で思っていた。

 それだけに、ふわりとした肩の辺りが、今にもほつれそうなのが気になった。

「これ……仮縫いなんですけど」

 社長の顔から表情が消えた。

 抑揚のない声が、あの面接担当のような素っ気ない口調で告げる。

 だが、そのダミ声からは生来のガラの悪さが滲み出ていた。

「舞台衣装あげるから、未払いのギャラはチャラってことで」

 私の歌で客は元気にならないから、仮縫いの衣装持って失せろということらしい。

 事務所を出て行こうとすると、社長がもとの乱暴な口調で、慌てて呼び止めてきた。

「クビってわけじゃねえよ! 実はな……」

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