第12話 アレルヤ教会へ潜入

 アレルヤ教会に潜入するために、孤児院に在籍している西浦景吾にしうらけいごに成り代わった。ターゲットに選ばれたのは、私と同じ背丈の165センチくらいの小太りな少年だったからだ。厚底ブーツを履かないで済むのはありがたい。

 

 少し髪を茶色にし、眼鏡をかけて、お腹に特殊樹脂の詰め物を入れる。指で弾くと、丸まった下腹部が揺れるだらしないボディだ。そして、澪特製の顔面マスクを取り付けると私は景吾となった。

 

 本物の景吾は他の孤児院で一時的に預かってもらうように手続きさせてもらった。

「一時的に預からないといけない子供が来た。定員を超えてしまったから、一番の年長者の君はその間だけ他の施設へ行ってほしい」と適当に理由をつけた。

 神父の変装をして、景吾を誘い出した時に、彼の話し方の特徴をインプットした。景吾として教会に溶け込むために。

 

「景吾、他の子と同じように施設で過ごすんだ。分かったね?」

 

 私は神父の姿で、孤児の景吾にそう語りかけた。

 

「はい、わかりました」

 

 景吾は素直に返事をしたが、どこか腑に落ちない様子でいた。

 

「心配かい? 大丈夫、新しい施設の神父さまも君を守ってくれるよ」


「はい……」

 

 景吾は煮え切らない様子だったが頷いた。私は彼を教会から追い出して、施設を後にした。

 

 潜入当日の午前十一時過ぎ。私は教会にやってきた。薄茶色の短髪で眉毛は太め、そばかすのある冴えない顔の少年だ。

 アレルヤ教会は住宅街の一角にあり、白く大きな建物で、西洋風の雰囲気が漂っている。


 叔父に送ってもらった車から降りて、教会を見上げる。

 

「ここか……」

 

 白い建物の天井には黒い蜘蛛の巣が張られていた。変装したまま誰かと寝食を共にするのは、慣れないけれど、やるしかない。私は自分に落ち着くように言い聞かせて、教会のインターホンを鳴らした。


「はい」


 シスターの声が聞こえる。孤児が外出する時には届出が必要だったため、あらかじめ景吾の名前で買い物に行くと届出を出しておいた。


「買い物から戻りました」

「ドアを開けるので待っていてください」


 シスターにドアを開けてもらうと、建物内に入ることができた。景吾を知る人物から怪しまれずに済んだので、変装は上々だ。


「葵ちゃん、聞こえる?」

 

 イヤホンから澪の声が聞こえる。通信の感度は良好だ。髪の毛で耳を隠して、イヤホンをしていることがバレないようにしている。

 周囲に人がいないことを確認すると「うん」と返事した。


「景吾くんの部屋の地図を送るね」

 

 澪はそう言うと、景吾の部屋の位置の地図を送ってくれた。眼鏡の裏にそれが映し出された。私はそれを参考にしながら、孤児院の中を歩く。そして、「景吾」の部屋までやってきた。


 景吾の部屋には誰もいなかった。二人部屋だから、同室の少年がいるはずだけど、外出でもしているのだろうか。

 ベッドに腰を下ろして一息つくと、そのまま横になって一眠りすることにした。ベッドが少し冷たかったので掛け布団を寝袋のように体に巻き付けて暖をとった。そうすると身体が温まってきて睡魔が襲ってきたので抗わずに身をゆだねた。


 それから二時間ほど経った頃、私は目が覚めた。顔を上げると、目の前には顔があった。同室の少年が私を見下ろしていたのだ。

 

「やっと起きたか」

「うわっ! ……びっくりしたぁ……」

 

 私は思わず飛び起きてしまうが、布団にくるまったままだったために体勢を崩してしまった。身体が前のめりになったところで少年に抱き留められる形になる。

 

「おいっ! 危ないぞ!」

「あ、ごめんごめん」

 

 私は謝るが、少年はすぐに私から離れなかった。どうしたのだろうと思って少年の顔を見ると、私をじっと見つめていた。同室の少年の名前は確か、智哉ともやくんだ。

 

「……智哉くん?」

「いや……なんでもない……」

 

 そう言うと彼は私から手を離した。顔に何か付いていただろうか。

 

「景吾、風呂には入ったのか」


 智哉はぶっきらぼうに聞いてきた。

 

「いいや、まだだけど……」

 

「お前はいつも鈍臭いよな。風呂の時間が終わる前に入っとかないと、次の日まで入れないぞ」と呆れた声。


「わかった。気をつける」

 

 そう返事して、こっそりと喜んだ。

 いつも鈍臭いとは、変装している私にとっては褒め言葉だ。うん、上出来!

 

 それよりも男風呂に入るか、シスターの変装をして女風呂に入るのか、それが問題だ。

 悩んだ結果、人がいない時間を見計らって、男風呂に入ることにした。

 男風呂には誰もいなかった。シャワーのお湯を出して素早く洗うと、部屋へ帰った。

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