第5話 彼の幸せが最優先です
「お嬢様。お早いお帰りですね。お茶会は楽しめましたか?」
「アニー! お願いがあるの!」
帰るやいなや、私はアニーに懇願した。
「殿方って、なにをしたら喜ぶのか教えてちょうだい!」
「お嬢様っ……」
アニーがぶるぶると震えた。
「第一王子殿下と仲良くなれましたか?」
「いやだ! そんなわけないじゃない! 第一王子なんかどうでもいいのよ!」
「ええ……?」
アニーが困惑の表情を浮かべた。
「そんなことより、今の私にできることがあるかしら?」
私はまだ十歳の子供だ。恩返しをすると決めても、具体的にはなにも出来ない。
「お嬢様。気になる殿方がいるのでしたら、お手紙を書いてお茶会に誘ってみてはいかがでしょう」
「お茶会か……」
公爵令嬢として前回はお茶会も何度も催したけれど、前回呼んでいた顔ぶれはジュリアス殿下と側近達、私の取り巻き達だからなあ。ことごとく私に罪を被せてきた連中じゃん。
さりとて、いきなりヒューイット様をふたりきりのお茶会にお誘いするのは警戒されそうだし、婚約者でもない殿方を理由もなく誘うのは淑女としてよろしくない。
「助けてくれたお礼を言いたくて」という理由は私にしかわからないから使えないしなあ。
他に何か適当な理由があれば、我が家に招いても大丈夫かしら。
できれば、どこか別の家で開かれる——ジュリアス殿下の来ない——お茶会でヒューイット様に会えればいいんだけれど。
うん……?
お茶会、で何か思い出しそうな気が……
お茶会……ヒューイット様……
「あっ」
前回聞いた噂話を思い出して、私はぽかっと口を開けた。
そうだ。この後しばらくしてから、グレイ家の四男が男爵家の令嬢を罵倒して泣かせたっていう噂を聞いた気がする。
いつ、どのお茶会であった事件だろう。この事件のせいで、ヒューイット様はその後婚約者ができなかったんだ。
ヒューイット様に幸せになってもらうには、この暴言事件を防ぐ必要がある。
いつのお茶会だっけ……前回の私はこの頃、ジュリアス殿下と結婚したい〜と騒いでいて、殿下のいないお茶会には参加していなかったのよね。
なんてアホだったのかしら、私。救いようがないわ。
前回参加しなかったお茶会に、虱潰しに参加してみるしかないかしら。
男爵令嬢が参加するのなら、殿下が来るような高位貴族のお茶会以外、つまり伯爵位以下のお茶会の可能性が高い。
ヒューイット様は四男、継ぐ爵位がないので下位貴族に婿入りを狙っていたのかもしれないな。お茶会を利用して軽い見合いをするのは珍しくない。見合い相手を罵倒しては、その後に婚約者ができないのも頷ける。
四男とはいえ侯爵家を呼べるのならそれなりの家柄か、あるいはグレイ家の縁戚かもしれない。
「アニー! お茶会の招待状が届いたら、全部私に見せてちょうだい!」
今回は、ヒューイット様の参加するお茶会には全部参加するぐらいの覚悟で望むわ。
私、頑張る!
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