ナツキ㊥
カイ君は、優しい。
ダブった理由は心臓疾患。昔から悪くて、去年の春に手術をしたそうだ。
完治してる。少しずつ鍛えていけば、ジョギング程度ならできるようになる。
幸い、私達の学校周辺には、観光スポットも多い。
週2~3で一緒に学校を出て、たまにお茶したり。
何気ない街歩きも、カイ君は喜んでくれた。
罰ゲームと勘違いしてる。
それでもカイ君は、いつも私と一緒にいるのが楽しいって言ってくれる。
私も嬉しくなった。
カイ君が食べたいものは、ラーメンやケーキだった。
彼の食事制限は解かれたけど、念のため自重してた。だから、頼んだものを2人で分けたりした。
彼が入ってみたかったお店に行って食べ物をシェアした。ちょっと太った・・
何しても喜んでくれた。
LIMEも前から知ってたし、やり取りの回数が増えた。
◆
3ヶ月の期間限定のうち、1ヶ月が過ぎた。
もう10月末。少し寒くなった。
寒くなると心臓が悪い人は体に負担がかかるらしい。その前に、植物園がある大きな公園に誘った。
予定は次の土曜日。
彼は植物に詳しい。花の話もたくさんしてくれた。
LIMEの返事を待つ間、気付いた。
期限付き彼女が休日まで、時間を取らせていいもんなのか。
メッセージを取り消そうとしたら、既読になってた。
そして、電話がかかってきた。
「ナツキちゃん、電話してごめんね。迷惑じゃない?」
「いえ、嬉しいよ」
「植物園、行きたい。お願いしていいかな」
すごく嬉しくなった。舞い上がって1時間も話した。
◆
当日は、幸いに晴れた。
頑張ってお弁当を作った。
バラ園、温室、色々と回ったあと、広い公園を歩いた。
カイ君のペースでいい。
ゆっくりと、そして柔らかく時間が過ぎていく。
草木の名前をたくさん教えてもらった。
「すごいねカイ君」
「代わりに運動に関する知識に乏しいけどね」
寂しそうに笑う彼。体にハンデを抱えて、長いこと苦しかったと思う。
心の中に渦巻くものが、そんなに軽いはずない。
3ヶ月限定は、傷付けてしまったってことなんだろうか・・
だけど彼の優しさを知ってしまった。
別に活発じゃなくても、2人の時間が楽しい。
だからなおさら、あの日の教室で、変な場面で出くわしたくなかった。その思いが強くなってる。
何かのきっかけで誤解が解けないかと、願うようになった。
お弁当は彼の希望で、大きな原っぱの真ん中で食べた。
2人で解放感を味わってる。
お握り、卵焼き、唐揚げ、みんな笑顔で食べてくれた。
笑顔を見てたら、胸が高鳴った。
だけど私は、スで始まってキで終わる二文字、これを口に出すのが怖い。
何か記念になる物が欲しくなった。
植物園の物販コーナーで、葉っぱのキーホルダーを2個買った。彼がトイレに行ってる間、こっそりと。
帰り際に2個見せて、1個を渡した。
ちょっと表情が曇った。そしてそれ、使ってくれない。
ちょっと期待してたのに。
「やっぱ、そういうことなんだ・・」
LIMEでは、ありがとうって、言ってくれた。
彼は心臓検診の関係で、たまに早退や休みがあったけど、残りは一緒にいてくれた。
すごく、近くにいてくれる。
「俺なんかと一緒にいてくれてありがとう」って、笑ってくれる。
◆◆
さらに1ヶ月。
あ、忘れてた。
カリナとヨーコは、きちんと告白してた。
どちらも成功して、名目上は3人とも彼氏持ちになった。
「クリスマスに間に合ってよかったぜ」
ヨーコが言う。今年は、特別な日になる。
クールなカリナも、ちょっと浮き足立ってる。
「じゃあ、イブの24日は冬休みに入ってるし、昼過ぎに6人で集まらない?」
2人の彼氏は、前から仲良くしてた男の子。夕方、少し遠くにクリスマスイベントを見に行くそうだ。
「ごめん、私達は昼間のうちに出かける約束が・・」
「そっか、カイはまだ、身体が万全じゃないんだよな」
「寒くなる夜までは、引っ張れないよね」
2人ともごめん、本当は嘘。
私とカイ君、9月24日に期間限定の付き合いを始めた。
終わりの3ヶ月目が、漠然としてる。
今が11月25日。9月が1か月目なら今月で終わる。10月スタートでも年末。
カレンダーに沿って考えると12月23日。そっちだったら、クリスマスイブの私は、シングルに戻った1日目だ。
カイ君に、そのことが聞けない。
◆◆
12月1日、朝5時に目が覚めた。
恐る恐るスマホを見た。
LIMEはブロックされてなかった。今月も付き合いは継続中だろう。
ドキドキして学校に行くと、カイ君は変わらず笑ってくれた。
「もうしばらく、よろしくね」
小声で言われた一言に顔がこわばった。声は暖かかったのに・・
「・・そのあとも、友達でいてくれたら嬉しいな」
そんな言葉しか返せない。
放課後はカリナとヨーコの彼氏も伴い、ファミレス。これが、6人では5回目。
「カイ先輩、話せて良かったすよ」
「俺もだよミノル君。ダブりで年上だから、ボッチ覚悟してた」
「大学とか社会人なら、年違うの普通なんでしょうけどね」
「病後だからって余計な気を使われないし、ホント楽しい」
「カイ、ナツキに感謝しろよ」
「してるよヨーコちゃん。ミノル君やヨースケ君と話できるのも、みんなナツキちゃんに感謝だよね」
ひゅ~、みたく言われたけど、別れのカウントダウンがもうすぐ始まる。
帰り道、2人になったとき私から手を繋いだ。
カイ君、びっくりしてたけど握り返してくれた。
ここでキスでもできる女の子なら、カイ君の気持ちも変えられるんだろうか。
勇気が出ない。涙出てきて、うつむいた。
◆
期末テストも終わり、もうすぐ冬休みに入る。
テスト前は、学校の図書館に一緒に行った。
帰りは同じ電車。沿線は同じで、カイ君は5つ先の駅。
一緒に暖かい飲み物を口にして、ポカポカしてた。
最初から、終わりが見えてる付き合い。
カイ君は、3ヶ月目から先のこと言ってくれない。
諦めなきゃ。
そう思いながら気持ちは膨らんでいく。
今年は12月22日が終業式。カイ君はその日、病院で検診。
21日の約束をした。24日クリスマスイブの予定は、空白のまんまだ。
フラれることになっても、21日に本当の告白しよう。
プレゼントは渡そう。
きちんとお礼を言おう。
考えてみれば私、告白とか意気込んだくせに、自分から何も言ってない。
肝心なことは、カイ君に言わせてしまった。
まず、本当の気持ちを伝える。そしたら、流れを変えられるかもしれない。
そして21日の放課後がやってきた。
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