episode9 幸せ

午後、私は取引先の会社の前に来ていた。


時間は昼前に遡る

『…これがあれば!!』


私は封筒と便箋を手にし、ボールペンを持った

・真緒へ・

・俊哉さんと永遠に幸せに過ごしてください・

・末永くお幸せにしてください・

・ずっと2人が幸せでいられるように願っています・


そんなことが書かれていた便箋を持ってきた。

『あの、すいません、』

「はい、あ、汲田さんお世話になっております」

『あの、小森さんにこちらの封筒渡していただけないでしょうか?』

「小森さんに会わなくて大丈夫ですか?」

『はい、大丈夫です。』

「分かりました。小森にお渡し致しますね。」

『よろしくお願い致します。』


本当は一目見たい。

可愛い彼女を一目でもいいから見たい。

けど真緒が私のことをまた拒絶するだろう。

私が姿を見せたらダメなんだ。


___仕事終わり____

あの手紙渡したらダメだったかな

私なりに幸せを願いたかった

更に失恋から立ち直りたかった


無視されたらそれはそれ。

どうでもいい。


♪プルルルルルル


「はいもしもし、分かりました。汲田さん!小森さんからお電話です」


え???真緒から???!!!

なんで会社の電話に…???

私が連絡先ブロックしたり全て消したから…??


『あ、はい、分かりました』


恐る恐る受話器を取る。


『はい、汲田です…』

《……………》

『真緒……………?』


《……………………………》


『………………………』


心臓が高まる。

怖い。

どうなるの。


俊哉さんと離婚することになったから。

私、実は茜が好きでした。

なんて言われるかも

とほんの少しだけ、1%だけ思っていた。


こんな夢物語なんて無い。





ブツリ



耳の奥で受話器の音がする


プープープー


と頭の中で鳴っている



「…さん…さん!

汲田さん!」


『…!!はっはい!』


「電話の内容は?」


『えっと…ただの個人的な連絡でした!』


と言えたものの私の心の中は沈んだ。


やっぱり真緒から拒絶されてるじゃん…

真緒から完全に嫌われてるじゃん…

もう私普通の関係に戻りたいとか願っても無理じゃん

勘弁に拒絶されてるよね……?


私にとっては真緒は人生の一部で体の一部みたいな感じ。

けど真緒にとって私は生活の一部で、エキストラみたいなものだよね。


私は人生の一部になって大きな存在で彼女がいるだけで世界が華やかに輝いて色が出てきて見えた。

世界中の人たちが幸せそうに見えるくらい彼女の存在は大きかった。

彼女のおかげで私は変われた。


真緒に出会ってから私の世界が彩りが出てきた。


それなのに私は真緒にとって生活の一部に過ぎないしただの知り合いに過ぎない、

そして視界にも記憶にも人生にも入らない。


初めて出会ったこと、一緒に会食抜け出したこと、パフェ食べて沢山話ししたことを彼女に1年前話したら


《あれ?そんなことあったっけ?

忘れてたごめん〜!

ずっと忘れないでくれてありがと!》


だった。

私は真緒にとってほんの一部のアシスタントなんだよ。


エキストラがヒロインに恋してどうするんだ。

村人Aがシンデレラに恋してどうするんだ。


こんなに見向きもされない恋は初めてだった。

それはとても辛い恋。


この差が辛い。

見向きもされない恋は辛かったな。


私は真緒のことは何倍も人生にかけて想っている。

恋していた。

世界で1番身を削ってでも彼女を幸せにしたかった。

彼女の笑顔を見たかった。


けど、真緒は逆なんだね。

ずっとずっと俊哉さんのことばかり見て、話して、想って


俊哉さんと結ばれた時はすごく幸せそうな顔していたもんね。

私とパフェ食べていた時の笑顔とは大違い。


俊哉さんのことになったら私と一緒にいる時より凄く楽しそうで幸せそうだもんね。


私と一緒にいる時はすごく苦しそうな笑顔だった気がする。

全く笑ってなかったと思う。

目が笑ってなかったと思う。


俊哉さんと一緒にいる時は心から笑っていたよね、話している時はすごく目の奥から笑顔だった。

幸せそうな私には見せてない笑顔だった。


私といる時は作り笑いや苦笑い愛想笑いが多かったね。


それも辛かった。


私の前では無理に笑っていたんだろうな。

消した写真でも最後に見たのが幸せな笑顔の私の隣に愛想笑いした真緒。


『私、誰よりも世界中の誰よりも真緒がこんなに好きなのになんで見てくれないの…』


小声でポロッと出た本音。


幸せを祝ってあげたい。

好きな人と結婚出来た喜びを喜んであげたい。

幸せを少しでも願ってみたかった。


けど彼女には逆効果だった。


『こんなに好きだったのに悔しいよ…悲しいよ…辛いよ…見向きもされない恋ってこんなに辛かったんだね…』


私の目から大粒の涙が出始めた。


『ぅぅ…うう…ひっく…ううぅ…』


私はその時気が付かなかった。

後ろで手紙を持っている人がいた事を。








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