第23話 修復

「私の恋人ね、一年前に死んじゃったの」


 ぽつりと零されたその言葉に、エフィーは息を詰まらせる。

 アミラはぬいぐるみの残骸をバッグから外し、胸に抱き締めていた。


「私の家系って、昔から戦闘面で優れた才能を持っていてね。私も考えるより先に身体が動くタイプだったから、ずっと男の子みたいな扱いだったんだけど」


 アミラの目元から涙の雫が落ちた。


「彼は……ルーファスは、私を女の子として見てくれたの。運動が苦手で、私とギールが戦闘訓練をしている間、木陰で本を読んでいるような人。訓練が終わった後、そっとタオルを差し出してくれるような人だったの」


 涙が、次々とアミラの頬を伝う。


「手先が器用でね。このぬいぐるみも……私の十五歳の誕生日プレゼントに、ルーファスが作ってくれたの。彼から貰った、最後の贈り物だったのにっ……」

「アミラさん……」


 声を押し殺して、アミラは泣きじゃくる。

 その泣き声を聞いて、泣いている姿を見て、エフィーも涙が溢れた。




 ——待って下さい……! それは、お父さんとお母さんが買ってくれた……。

 ——お願いです、返して……捨てないで……。

 ——お父さん、お母さん……。




 幼い少女の声が、微かに頭に響いた。エフィーは目を見開く。


(……今のは、何……?)


 分からない。本当に微かで、聞き取ったはずの内容もすぐに曖昧になってしまった。けれども、とても悲しい事を言っていた気がする。

 胸の痛みが強くなった。張り裂けるように、燃え上がるように。

 流れ出る涙を止められないまま、エフィーはそっとアミラの手に触れた。


「……アミラさん。そのぬいぐるみ、貸していただけませんか?」


 彼女の泣き腫らした目が、こちらに向けられた。

 エフィーも泣きながら、その瞳を真っ直ぐに見つめた。

 やがて、アミラは視線を残骸に落として、それを差し出してくれた。


「ありがとうございます」


 エフィーは残骸を受け取り、両手で包み込む。そして魔法を発動した。

 純白の光が手の中で弾ける。

 手を開くと、ぬいぐるみは元通りになっていた。


「え……?」


 アミラが呆然とした様子で固まった。


「私の秘密の魔法です。ほんのちょっとだけ、創世神様の真似事ができるのです」


 エフィーは涙ながら微笑み、ぬいぐるみをアミラの手に返した。

 手の中を見つめるアミラの顔が、また泣きそうに歪んだ。


「ほんとに……直った、直ってる……」


 アミラが顔を上げた。涙まみれの瞳が向けられる。


「エフィー……」

「はい——わっ!?」

「エフィー、ありがとう……ありがとう……!」


 声を上げて泣いているアミラに、ぎゅうっと抱き締められた。

 温もりが伝わる。

 突然の事でびっくりしたけれど、エフィーはすぐに笑みを浮かべ、アミラを抱き締め返した。

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