天使がゼロに還るまで

初霜遠歌

序章 永遠に望んだ夢を(1)

 ——彼女の仇さえ討てれば、自分も死ねるというのに。




☆―☆—☆




「ユート、お前をパーティから追放する」


 リーダーの勇者ヒューゲルに言われたその言葉に、ユート・フォンダンは凍りついた。


「聞こえなかったのか? お前はクビだって言ったんだよ」


 派手な装飾の椅子に座っているヒューゲル。彼の嘲笑うような視線に貫かれ、ユートは背筋に冷たいものを感じた。

 見れば、彼の両サイドにいる二人からも蔑むような顔を向けられていた。


(パーティをクビ……俺が……? 何で……?)


 手足が震え、口の中から水分が消えていく。ユートは戦慄わななく唇を開いた。


「……り、理由を教えてくれないか?」

「おいおい、言われないと分からねえのかぁ?」


 答えたのは戦士のヴァルトだった。彼はこちらを見下した表情のまま続ける。


「ユート。お前が唯一使える魔法、何だっけ?」

「……『反転』だ」

「そう、それだ。あらゆるものを反転させる強ぉーい魔法。確か、レベルが上がればドラゴンのブレスも跳ね返せるんだよなぁ?」


 ヴァルトがそう言った瞬間、魔導士のエーベネが噴き出した。


「あははっ! ち、ちょっとやめなよヴァルト! 『スライムかぶり』のユートが可哀想よっ!」


 エーベネが男に人気の整った顔を愉快げに歪め、ヴァルトの肩をバシバシと叩く。

 ——『スライムかぶり』と、自分が周りから馬鹿にされている事には気づいていた。

 飛び散ったスライム片すら跳ね返せない、雑魚だから。

 ユートは拳を握り締める。


「確かに俺は弱い……だけど、その分荷物持ちや事前調査、事務作業だって俺が一人で全部やってきたんじゃないかっ!」

「んなもん誰でもできるだろうが。お前今、死ぬほどダセェ事言ってる自覚あるか?」


 ヴァルトが呆れたように肩をすくめる。エーベネがすかさず割り込んできた。


「ヴァルト、そんな事言っちゃダメ! 誰でもできる事が、ユートにとっては頑張らなきゃいけない事なのよっ!」


 一拍置いて、ヴァルトとエーベネは腹を抱えて笑い出した。ヒューゲルも嗤う。


「まあ、そういうわけだ。役立たずなんだよ、お前は。駆け出しの頃に組んだよしみで今まで我慢していたが、もう限界なんだ」


 ヒューゲルの言葉に、他の二人も口元を歪めて頷いた。


「そうだぜ。俺たちは昨日Sランクに上がった。ゴミはとっとと消えろ」

「新しい仲間——いえ、真の仲間ももう見つかったわ。あなたはお荷物だったの。お願いだから、もう私たちの邪魔をしないで」


 浴びせられる辛辣な言葉。悔しさと憤りで頭が熱くなる。

 だが、どうする事もできない。自分では彼らに立ち向かっても、返り討ちにされるだけだから。


「そうだ、ユート。出て行く前に装備と金は置いていけよ? それは俺たちの戦利品だ。お前みたいな寄生虫が持ってて良いものじゃない」


 寄生虫——ヒューゲルのその言葉がトドメだった。


「ちくしょう……!」


 装備は全て外して自室に置いてある。ユートは懐から財布を取り出すと、ヒューゲルの顔面に向けて投げつけた。

 しかしヒューゲルに軽々とキャッチされる。それも悔しくて、ユートは背を向けて飛び出した。

 目に涙が滲む。目元を拭いながら、ユートは走り続けた。


(見返してやるっ……! いつか……いつかっ……!)

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