真の実力を隠している世界最強のおっさん、親友が冒険者パーティーから追放されたので自分も抜けることにした ~後で「二人とも戻ってきてぇえ!」と泣きながら土下座されるけどもう遅い~

どまどま

大事な仲間、死地で追放される



「それじゃ、おまえとはこれで終わりだ。ユキナ」


「え……?」


 バルフレド洞窟。


 その最深部に到達したところで、冒険者パーティーのリーダーはとんでもないことを言い出した。


「こ、これで終わりって……。ベルフ、どういうこと?」


「はっ、決まってんだろうがよ。おまえはここで置いていくってことだ」


 目を丸くするユキナに対し、リーダーのベルフは冷酷に笑う。


 ここはダンジョンの最深部――。

 あと数分もすれば、ダンジョンの主とされる強敵モンスターが現れる場所なのに。


「おいおい、どういうことだよベルフ」


 だから俺は思わず、ベルフに異を投げかけた。


「こんなダンジョンの奥地で話すことじゃねえだろ。こんなとこでユキナを一人にしちまったらどうなるか……おまえならわかるだろうが」


「ああ、もちろんさ。だからここで追放するんだ」


「あ…………?」


 そう言ってヘラヘラ笑うベルフに、そいつと付き合っている(と噂されている)女魔術師のリース。


 その二人が示し合わせたようにイチャイチャしているのを見て、俺はすべてを悟った。


 しがないおっさんの俺が言うことではないが、ユキナはめちゃめちゃ可愛い。少し弱気そうな表情に反して、出ているところは出ていて――。


 リースが「ベルフを取られる」と危惧してしまうくらい、可憐な風貌をしているんだよな。


 だからきっと、リースはユキナが嫌いだ。はっきりとそう明言しているわけではないが、普段の所作を観察していれば、そんなものは一目瞭然だった。


 そして当のユキナは、一言で言ってしまえばパーティーのお荷物。


 パーティー結成時は貴重なヒーラーとして活躍してくれていたが、しかしそれも最初だけ。いかに過酷な戦地を潜り抜けても彼女はほとんど成長することなく、残念ながら今、実力的にはベルフやリースの足下にも及ばない。


 パーティー全体で見れば、現在は急成長の真っ最中。

 Aランクパーティーへの昇進さえ噂されている現在において、彼女の存在が浮いているのも事実だった。


 リースにも嫌われ、そしてベルフにも嫌われ。


 かといってせっかく注目を浴びているのに、世間体を気にして雑にユキナを追放することもできず――。

 モンスターに殺されたという体をとって、ユキナを始末することにした。


 これが今回の経緯だろうと思われる。


 ……まあ、俺も何も知らされてなかったけどな。

 俺も立派なパーティーの一員であると思っていたんだが。


「グォォォォォオオオオオ‼」


「…………っ」


 そうこうしている間にも、とうとう時間がきてしまったようだ。


 地面に浮かび上がった魔法陣の上に、漆黒の龍――ドラゴンゲーテがどこからともなく姿を現す。


「お、おいおい……!」


 その漆黒龍を見て、俺は思わず後ずさってしまった。


 暗黒の鱗に刺々しい両翼、そして血の色に染まった両目……。


 さらにダンジョンの天井にも迫るほどの巨体で、その身体に押しつぶされれば絶対に生きて帰れないだろう。


 紛うことなきS級モンスター・・・・・・・――ドラゴンゲーテがそこにいた。


「ば、馬鹿野郎……!」


 俺もベルフもリースも、冒険者ランクはまだC。


 単独ではもちろん、パーティーを組んでも勝てない相手なのに……。


「ベルフ。おまえ……本当にここへユキナを置いて帰るつもりなのか」


「当然だ。つーか何度も言わせんなよ、おっさん」


「…………」


「あんたはまだ使えそうだから俺らのパーティーに残しといてやるんだ。ありがたく思えよ」


 そう言って、ベルフは懐から転移結晶を取り出した。


 ダンジョンの出入口へワープできる便利アイテムで、値段も相応に高かったはずだが――。


 今回の追放をあらかじめ計画して、最初からこれを予定していたということか。


「ねえ、待ってよ……!」


 と。


 今まで黙っていたユキナが、半泣きでベルフのもとへ駆け寄る。


「ど、どうして急にこんなこと言うの……? 私だって、私なりに頑張ってきたのに……!」


「あらら。みなまで言わないとわからないのかしら、ユキナちゃん」


 それに答えたのは、美魔女と形容するにふさわしい女魔術師――リースだった。


「いくら頑張ってきたって言ってもね、あなたは私たちの足を引っ張ってきた。それはもう覆しようのない事実だわ」


「そ、そんな…………!」


「むしろ今まで構ってあげただけ、ありがたいと思いなさいな」


 パチン、と。


 リースが右手の指を軽く鳴らすと、ユキナの全身が急に硬直した。


 自動的・・・に両手を背中にまわされ、両足をピンと伸ばし、対象者の行動を一時的に不能にする――。


 リースが得意としている、拘束魔法だ。


「んー、んー!」


 さらにこの魔法が極悪なのは、口さえきけなくなってしまうことか。


 ユキナは口を一文字に結び、声なき声を叫び続けている。


 泣いていた。

 その表情が絶望に染まっていた。

 死にたくない、死にたくない。

 生きたい、生きたい――!


 そんな強い思いを感じて、どうして自分たちだけ逃げることができるだろうか。


「さあどうしたおっさん。あんたは追放するつもりはないぜ? さっさと俺の手を取れ」


 見れば、ベルフとリースの全身は少しずつ薄れ始めていた。


 おそらく転移結晶を使用した効能だろう。

 あと数秒もすれば、ベルフ本人と、ベルフと手を繋いでいる者だけが洞窟の出入口に転移できる。


「ゴォォォォォォオオ……!」


そして背後でゲーテドラゴンが少しずつ距離を縮めてきている以上、この場に残ることは、このままでは・・・・・・死を意味するも同然だった。


 ――――けど。


「俺は戻らねえ。てめえら二人だけで帰りやがれ、カスどもがよ」


「ああ……?」

 ベルフが片眉をひそめた。

「おいおい、正気かよおっさん。まさかその歳でユキナの美貌に惚れたってか? ヒャヒャヒャヒャ!」


「…………」


「まあ、別にそれならそれで構わねえ。あんたの代わりなんか、いくらでもいるからなぁ」


「……そうか。だったらとっとと去れよ。クソゴミ野郎が」


「ヒャヒャヒャヒャヒャ‼ 最期くらいは童貞捨てられるといいな、おっさん! ヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 ベルフはそんな下品な笑い声をあげると、転移結晶の効能が発動され、リースとともに姿を消した。


「ゴォォォォォォォ……!」


「ん~、ん~……!」


 この場に残ったのは、拘束魔法をかけられたままのユキナと、史上最悪の怪物――ドラゴンゲーテのみとなった。

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